「食べログ」や「ペニーオークション」などでも問題視された「ステマ」ですが、未だ無くなる気配はありません。無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』では著者でMBAホルダーの安部徹也さんがその理由を分析するとともに、ステマを利用することで結果的に企業が被る大きな損害についても詳述しています。
なぜステマは効果があり、なぜやってはいけないのか?
最近、あるタレントが数々のテレビ番組で絶賛していた浅草のテイクアウトスタイルのメンチカツ屋が、自身が実質的にオーナーを務めるお店だったことが発覚して問題となりました。
記事によれば、オープン当初は閑古鳥が鳴くような状況だったものの、タレント自身が出演する数々の番組で紹介され、その都度お墨付きを与えるような大絶賛のコメントが放送されるとたちまち浅草の新名物として人気が爆発し、行列が絶えない繁盛店へと大きく様変わりしたというのです。
ところが、この事実が発覚後は一転、自身がオーナーであることを隠してテレビで宣伝していたというステマ批判が高まり、結局本人が「認識不足でした」と謝罪する事態にまで追い込まれることになりました。
ステマとは何か?
ステマとは「ステルス・マーケティング」の略で、本来の宣伝という意図を隠して、芸能人や著名人など影響力のある第三者の口コミを活用することによって、より高い売り上げを上げることを目指すプロモーション手法です。
このステマはこれまでもたびたび発覚し、その都度問題となってきました。たとえば、2012年には、グルメの口コミサイト「食べログ」で金銭的な報酬の対価にやらせの投稿を行う業者の存在が発覚。テレビニュースでも大々的に取り上げられるなど社会問題にまで発展しました。
同じく2012年には、人気商品が驚くほど安い価格で落札できる可能性があるペニーオークションに多くの利用者を誘導するために、何人もの芸能人がサイト運営者から報酬を得ていることを隠して、実際に落札してもいない商品をあたかも安値で落札したかのように装っていたことが明るみになります。
その後、ペニーオークションサイトは、一般客がいくら入札しても落札できないよう、コンピューターで操作していたことが発覚して経営者が詐欺罪で逮捕されるなど悪評がたちまち広がり、2013年中にはすべてのサイトが閉鎖に追い込まれます。そして、関わっていた芸能人も謝罪のうえ活動休止に追い込まれるなどその影響は想像を大きく上回る広がりをみせました。
また、最近では2017年6月に、やはりグルメサイト「食べログ」で大変人気のあるカリスマレビュアーが、自身が高評価を付けたレストランのオーナーから銀座のクラブなどで過剰に接待を受けていた事実が発覚。結局はこのカリスマレビュアーが「食べログ」に掲載していたおよそ2,000件の口コミは、接待を受けていないレストランの分を含めてすべて削除されるという事態にまで追い込まれることになるのです。
ステマに手を染めてしまう背景
このようにステマは発覚すれば大問題になることもしばしばですが、現実的にはなくならないのが実状といえるでしょう。
それでは、なぜ悪いことと認識しながらステマに手を出してしまう人や企業が後を絶たないのでしょうか? それは、やはりステマの売り上げアップ効果でしょう。
最近では、ただ単に広告や宣伝を行っても顧客は見向きもしなくなってきました。広告が洪水のように巷に溢れる昨今、消費者は広告と分かっただけでその情報に対する興味の「シャッター」を閉じるようになってしまったのです。
一方、商品の売り上げに多大な影響を与えるようになったのが、FacebookやInstagram、Twitterといったソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)や著名人のブログ、そして利用者のレビューが掲載された口コミサイトなどです。
恐らく、みなさんもFacebookで知り合いが載せたレストランを訪れたり、また商品購入にあたってアマゾンのレビューを参考にしたり、価格.comような口コミサイトで利用者の情報を入手したりした経験があるはずです。
このように口コミは、商品を販売する企業ではなく、中立的な第三者の「生の意見」として商品選択に大きな影響を与えるようになったのです。
この販売に大きな影響を与える口コミを意図的に起こすことは非常に難しいですが、SNSや著名人のブログ、口コミサイト、テレビ番組など様々なメディアを駆使すれば、一気に商品情報が広まって爆発的な売り上げを上げることも決して不可能なことではありません。
そして、効果が高いうえにコスト面でも広告や宣伝に比べれば非常に少なくて済むというメリットがあるために、宣伝目的を意図的に隠してステマに手を染めてしまうことにつながるのです。
なぜ、ステマは問題なのか?
効果の観点から、ステマの誘惑に駆られることは十分に理解できますが、なぜステマを実践してはならないのでしょうか?
ステマの問題点は、ステマを行う者が、自身は宣伝と知りながら、それを全く感じさせずに商品のプロモーションを行うところにあります。つまり、最初から人を欺こうという姿勢が大きな問題なのです。
情報化が発達した現代社会では、少しでも人を欺こうという素振りをみせれば、どこからか情報が洩れ、最終的に発覚してしまうものです。そして、自己都合で口コミを意図的に流していたことがばれたら、流した本人ばかりでなく、その商品を提供した企業や商品自体も一気に信頼を失うことにつながります。
ビジネスの成功において消費者の共感が重要な鍵を握る昨今、消費者を欺くことは最もやってはいけないことといえるでしょう。
顧客との関係は一時的なものではなく、できる限り長く取引を続けることが安定的なビジネスの条件といえます。
顧客を欺くことから始めるような企業の目的はただ一つ自社の利益のみであり、顧客を満足させるというビジネスの最も重要な目的の一つが置き去りにされている可能性が高いといってもあながち間違いではないでしょう。
そのように自社の利益を追求する姿勢では、一時的に繁盛するかもしれませんが、すぐに悪い口コミが広がって、衰退していくのも時間の問題です。
マーケティングの目的は、顧客の創造、すなわち、新たな顧客を見つけ、関係を育んでいくところにあります。つまり、事業を長い間存続させたければ、ステマという顧客を欺いて売り上げを上げる手段を駆使するのではなく、顧客との良好な関係を築く正当なマーケティングが望まれるのです。
信用は築くのは難しいですが、崩れ去るのは一瞬です。
やはり、ステマという即効性のある手法で一時の利益の追求に走らず、ビジネスで最も重要な『信用』を第一に考え、誠実に顧客と向き合ってコツコツと信用を積み重ねていくことが、遠回りのようで実は結果として利益を最大化する最も確実な方法といえるのではないでしょうか。
image by: Shutterstock.com