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年間死者数4千人。米国の片田舎を蝕む「覚せい剤中毒」の恐怖

「覚せい剤なんて自分には関係ない」という方も、それが「グラス」や「アイス」といった軽いネーミングで売られていたらどうでしょうか? しかも、それが田園地帯広がるのどかな片田舎であればなおさらです。メルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』著者で現役医師の徳田安春先生(総合診療医)は、地方都市にまで蔓延するアメリカの覚せい剤事情を紹介。さらに覚せい剤が脳にもたらす医学的作用、覚せい剤が引き起こす死亡事例や暴力事件について詳しく解説しています。

平和そうな田舎の人々に広がる「覚せい剤」の恐怖

アメリカでは薬物中毒が郊外や田舎でも広がり深刻な健康問題になっている事を以前にもお伝えしました。薬物に関連する死亡は、交通事故や自殺や銃による死亡数を超えています。また、オキシコンチンやフェンタニルなどの医療用麻薬の中毒が問題となっていることについては以前お話ししました。医療用のものに加えて、ヘロインやコカインなどの違法麻薬による中毒死は薬物に関連する死亡数の3分の2以上を占めています。

今回は覚せい剤についてみていきましょう。実はこの覚せい剤中毒もかなり深刻化しているものです。覚せい剤の中で問題となっているのはメタンフェタミンです。ストリートドラッグ用語では、メス、グラス、アイス、またはスピードなどと呼ばれています。

しかもこのメタンフェタミンがモンタナ州、テキサス州あるいはオレゴン州などのような静かで平和そうな田舎の州の人々に蔓延しているのです。メタンフェタミンの乱用者は、鼻から吸入するか、巻きタバコで喫煙するか、経口で飲むか、注射器で直接静脈内に投与するなどで薬を使っています。

覚せい剤メタンフェタミンの医学

体内に吸収されたメタンフェタミンは交感神経終末に到達し、そこからカテコールアミンの分泌を促進します。カテコールアミンにはアドレナリンやノルアドレナリンがあります。このようなカテコールアミンは脳細胞を刺激し「偽の多幸感」をもたらします。

これは偽の感覚であり、数時間後には全身の激しいだるさに襲われてしまいます。このため薬物依存症になりやすく、1度でも使うと覚醒剤依存症になるリスクがあります。食欲を抑える作用があるため、芸能人の中にはダイエット目的で用いる人がおり、日本人の中からもこれまで逮捕者が多数出ています。

1990年代のアメリカでは、市販の風邪薬に含まれているエフェドリンからメタンフェタミンが製造され密売されていました。2005年にアメリカ議会はエフェドリンの販売を制限する法律を成立させていました。しかしながらその後、製造拠点がメキシコに移ったのです。現在アメリカで消費されているメタンフェタミンのほとんどがメキシコの秘密工場で生産されています。生産されたメタンフェタミンは液状化されて、偽物のアイスティーなどの缶の中に入れられ、アメリカで密売されています。

また、メキシコ製のメタンフェタミンは純度が高く90%以上であり、ユーザが薬物の効果をより享受できるようになったのです。もちろんその分、中毒による死亡のリスクも増えました。メキシコで生産されたメタンフェタミンは格安で密売されています。2007年には1グラム当たり293アメリカドルであったメタンフェタミンは、2016年には1グラムあたり66ドルまで値段が下がっているのです。

覚せい剤中毒による死亡やバイオレンス

覚せい剤による年間の死亡数は4千人を超えているというデータが米国疾病予防センターから最近発表されました。10年前と比べると2倍以上に増えています。死亡に関係した覚せい剤の90%はメタンフェタミンでした。メタンフェタミンには、精神興奮作用が強くバイオレンスや妄想の原因にもなります。ヘロイン中毒者と比べて覚醒剤中毒者は凶暴な犯罪を引き起こすリスクが2倍以上あるというデータもあります。

心臓に対する副作用が強く不整脈から死亡するリスクがあります。しかしながらメタンフェタミンには呼吸抑制作用がないため、オピオイドのような呼吸停止による死亡のリスクは高くはありません。オピオイドには拮抗薬があるのである程度治療介入が可能ですが、覚せい剤には拮抗薬が無いため治療も困難となります。最近の研究によると、メタンフェタミンとヘロインの同時使用者が増えており、この併用は死亡のリスクを高めます。

アメリカのストリートでは、たとえそこが田舎道であったとしても、メス、グラス、アイス、またはスピードなどという薬が売られていたらメタンフェタミンと考えて、絶対に手を出さない方が安全です。1度でも使用すると依存症になるリスクがありますので気をつけましょう。

文献 Al-Tayyib A, et al. Heroin and Methamphetamine Injection: An Emerging Drug Use Pattern. Subst Use Misuse. 2017 Jul 3;52(8):1051-1058.

image by: Shutterstock

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