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10月22日が試金石。前原代表は小沢一郎の「野党共闘」案を飲むか

枝野幸男氏との一騎打ちを制し、民進党の新代表となった前原誠司氏。国政選挙における野党共闘に否定的な姿勢を取る前原氏ですが、ここに来て共産党を含めた全野党での選挙協力で自民党に勝利することを目論む小沢一郎氏との急接近が話題となっています。果たして前原氏は小沢氏の期待に応えるつもりはあるのでしょうか。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんが読み解きます。

前原氏は小沢氏の期待に応えられるのか

前原誠司氏が民進党の新しい代表に選ばれた。心配なのは野党共闘の行方である。

自由党の小沢一郎代表がひと働きできるようなら、期待は高まる。問題は「口だけ番長」と陰口を叩かれたこともある前原氏の「ヤル気」だ。

森友、加計学園疑惑で安倍政権がぐらつき、衆院選をにらんで野党は一刻も早い安倍批判票の受け皿づくりを迫られている。たとえ「選挙互助会」と揶揄されようとも、野党がまとまって選択肢を有権者に示さなければ、自公の組織票には太刀打ちできない。

だが、民進党の代表に誰がなろうと、過去のいきさつや、理念の違いや、支持母体の意向もあって、遠心力が働きやすい各党や組織を結集する役目はいかにも荷が重い。一気にまとめあげる傑物はいないのか。

民進党代表選の前、小沢一郎氏にいくつものメディアからインタビューや出演のオファーがあったのは、単なる思いつきや気まぐれではあるまい。

自民党が結成された1955年以降ただ2回しかない非自民への政権交代劇。政界に小沢がいたからこそなしえたことだ。弱小野党をまとめて、自公に対抗できる選挙態勢をつくれるのはいまだに小沢以外いない。ベテランジャーナリストほどそう思うだろう。

小沢氏が8月26日に出演した「激論! クロスファイア」(BS朝日)の田原総一朗氏も、サンデー毎日9月3日号で4ページにわたる小沢氏へのインタビューをした倉重篤郎氏もそうだ。「終わった人」のように扱われがちの75歳の政治家をあえて登場させる理由は同じである。

田原氏の番組は「野党再編、3度目の政権奪取の野望は?」というタイトル。倉重篤郎氏のインタビューの見出しも「小沢一郎が語る政権奪還論」。まるで、小沢氏がこれからの政局の主役であるかのようではないか。

それは、いまの政治状況に1993年と似た要素を見出しているからかもしれない。

この年、宮沢内閣への不信任を成立させて小沢氏は自民党を離党し新生党を旗揚げした。総選挙は7月18日に投開票が行われ、自民党は解散前より1議席増の223議席にとどまった。自民系無所属を加えても過半数を下回るが、それでも自民党首脳部は勝ったと思っていた

他党の獲得議席はこうだった。社会党は134議席から70議席へ大幅に後退。小沢氏の新生党は55議席、同じく自民党を出て結成された武村正義氏の新党さきがけが13議席、前年に細川護煕氏が結党したばかりの日本新党が35議席。公明党51議席、民社党15議席、社会民主連合4議席、共産党15議席、野党系無所属30議席。

256議席を得ると過半数を占める。日本新党やさきがけと連立を組めば大丈夫と、第一党の自民党はタカをくくっていた。

小沢はこの結果に小躍りした。うなだれる社会党の幹部たちに「自民党以外の議席を足して見たらいい、共産党を除いても、こちらが多いじゃないか」とハッパをかけた。たしかに、共産党以外の野党の議席を足すと273議席になる。

小沢氏は誰を首相候補とするかがポイントだと考えた。日本新党とさきがけは、放っておけば自民党と連立を組んでしまう。自分の新生党や、野党第一党の社会党から候補を出しても、まとまらない。

時間は限られていた。自民党が日本新党、さきがけに連立話を持ちかける前に手を打たねばならない。小沢氏は細川氏を首相候補にする腹案を抱き、開票日の翌々日、社会、公明、民社の各党幹部を集めて一任をとりつけた。「細川首相武村官房長官」というプランだったから二人の党首は応じたが、他のプランなら二人は自民との連立を選んだかもしれない。

小沢の知略は日本政界で長く語り伝えられるものとなった。また、こういう芸当のできる政治家がその後、出てこないのも不思議と言えば不思議だ。

いずれにせよ、1993年の政権交代は、選挙後、野党票を足してみれば自民票を上まわったので、可能になった。

小沢一郎氏が口を酸っぱくして野党議員に説くのは、「野党が束になれば勝てるという信念だ。

政権交代した2009年の衆院選。自民党の得票は小選挙区2,730万票▽比例代表1,881万票。獲得議席は119議席だ。

2014年の衆院選はどうだったか。小選挙区2,546万票▽比例代表1,765万票で、得票の上では2009年より落としている。にもかかわらず、291議席も得ているのである。

なぜこうなるのかといえば、当然、投票率の問題だ。2009年が69%を上回ったのに、2014年は52.66%しかなかった。この大幅な投票率低下は、無党派層が選挙に参加しなかったことを示している。

小沢氏が「野党が結集して反自民票の受け皿をつくれば必ず勝てる」と訴えるのはそういう理由だ。

もう一つ、田原氏や倉重氏らの関心をひいたのは、最近の小沢と前原両氏のある種不思議な接近ぶりであろう。

民主党政権時代の前原氏はいわゆる「反小沢系議員の一人だった。その点では枝野氏も同じだ。かつて自由党が民主党に合流したとき、最も反対したのが枝野氏だったといわれる。実際、「両方とも批判サイドにいた」と小沢氏はサンデー毎日で語っている。

だが、小沢氏は民主党が野党に転落した後の2013年、民間人の仲介で前原氏と久しぶりに会い、食事をともにした。どこか気脈が通じたのだろう。二人はその後、話のできる間柄になった。

2015年1月には前原氏が誘い、その年の夏には小沢氏が声をかけて会食した。2016年1月24日の夜に、山口二郎・法政大教授と三人で会った時は、メディアにも報道され、異色の組み合わせが話題になった。

山口氏といえば、民主党代表当時、小沢一郎氏の政策ブレーンであったし、昨今ではシールズの若者らと連携して安保法制に反対した市民連合や学者の会のメンバーとして活発な動きを見せていた人物だ。

実は、前原氏は政策、とくに経済政策を転換しつつあった。かつてはどちらかというと新自由主義的な傾向もみられたが、所得再分配による「中福祉中負担」の考え方に変わりつつあった。

その外交防衛政策からとかく自民党との相似性を指摘され続けてきた前原氏が、安倍自民党の極端な右寄り政策との差別化をはかるため、日本の政党政治の「ど真ん中にポッカリ生まれた空白を埋めることをめざしたのだ。

前原氏が政策ブレーンとして信頼を寄せる井出英策慶應大経済学部教授は今年8月6日のブログに、こう書いている。

民進党の代表選が始まった。僕が民進党のみなさんと深い縁を持つようになったのは、前原誠司さんが三顧の礼で僕を迎えてくださったことがきっかけだった。一度目。僕の話に共感された前原さんは、講演後に議員会館の出口まで見送ってくださった。(中略)二度目は新橋での顔合わせ、夕飯を食べながらの議論。…そして三度目。小田原までわざわざお越しになって、「どうかお力をお貸しください」とおっしゃった。(中略)前原さんとはそれ以来、二年以上のお付き合いになる。(中略)いまでは、僕の思想が彼の発言の血となり肉となっている。

「オール・フォー・オール」(皆が皆のために)という前原氏のキャッチコピーについて、発案者の井出氏はサンデー毎日のインタビュー記事でこう説明している。

財政は経済を成長させるためにあるのではない。人々を不安から解き放つためのものだ。僕が不安な時、仲間たちが僕のために税を払ってくれる。その逆もある。これが財政だ。だからオール・フォー・オールだ。

井出氏の理論は、成長を前提とするアベノミクスの対極といえる。税とは強制的に徴収され無駄遣いされるものではない。何歳まで生きても、いつ失業しても、誰もが安心して生きられる社会の共通の貯蓄であるという考え方だ。税の公平な分配によって将来不安をなくし消費意欲を引き出していこうというものだ。

前原氏が会長をつとめる民進党「尊厳ある生活保障総合調査会」は井出氏との議論の末、今年6月13日、中間報告をまとめた。

これについて、山口教授が8月4日のツイートでエールを送った。

前原誠司は井出英策氏をブレーンに迎えていたという話は前から聞いていた。分断社会を終わらせるというメッセージこそ、今の民進党に最も必要。前原から社会民主主義路線が出てくることは歓迎したい。2005年に代表になったとき、自民党と改革競争をしたいと言ったことを思うと、大進歩。

前原氏によると、「小沢氏もオール・フォー・オールの理解者」だという。

政策的には変化している印象を受ける前原氏だが、もともと共産党アレルギーがあるうえ、代表選で野党共闘を見直すという発言をしたこともあり、小沢氏の進めようとする野党結集路線と合致しないのではないかと危惧する声が強い。

しかし、前原氏が「小沢さんとの関係をもっとうまくやるべきだった」(日刊ゲンダイ)と、民主党政権時代を反省していることからも、前原氏に対する小沢氏の影響力が増していることがうかがえる。

代表選期間中は、党内の保守系議員や連合の幹部などから反発を食らわないよう、共産党との協力関係には否定的な顔つきでいるほかなかっただろう。

小沢氏は田原氏から「枝野さんは共産党と選挙協力をする。前原さんはしないということですが」と問われ、こう答えている。

いやそれは、たぶん、言葉のアヤですよ。野党結集と言っても共産党まで一緒になるわけではないですから。

小沢氏がたえず言っているのは、共産党は連立政権を組む相手ではなく、選挙の協力政党であるということだ。

前原氏も、ジャーナリスト、岩上安身氏(IWJ代表)のインタビューに微妙な答え方をしている

――あなたが代表になれば共産党と協力は終わるのか。

 

野党第一党の我々に協力してほしいと申しあげたらどうでしょうか。そのなかで安倍政権を倒すと」

 

――都民ファーストに近づくのでは

 

「都民ファーストは何をめざすのかよくわからない。私は共産党に対しても都民ファーストに対しても同じことを言っているつもり。われわれの理念、政策をどう考えていただけるかだ」

政策や理念で一定の理解をしてもらえるならどちらの党とも選挙協力はできるという、含みを持たせた発言といえる。

野党結集について柔軟に対応しようという姿勢は、人事に如実にあらわれた。枝野氏を代表代行に充て、選対委員長に長妻昭氏を起用するというのは、リベラル色も大事だと思っているからであろう。

さて、野党結集のゆくえを占う最初の政治決戦が10月22日に迫っている。青森、新潟、愛媛の衆院補選だ。

小沢氏は「民進党の新代表が野党結集と言ってくれれば、私も一生懸命にお手伝いします。いっぺんに各党が解散して新党というわけにはいかない。いずれは新しい集団をつくるという合意を得さえすれば10月は十分戦えると思う。ケチな話をしないで、まずは自公に勝つということだ」(激論! クロスファイア)と語る。

二大政党制の確立をめざし、いまだ非自民勢力の結集への情熱が衰えない小沢氏の経験と知略をうまく使える器量が前原氏にあるかどうか。今後の政局のカギはそのあたりだろう。

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