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トランプの「ウラとオモテ」政治が、なぜじわじわ効いているのか?

「暴言」を吐いたかと思えば、数日後にはマトモな発言。かと思えばまた暴言…就任以来、世界を翻弄し続けるトランプ大統領。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で在米作家の冷泉彰彦さんが、このトランプ大統領の「ウラオモテ政治」について詳しく分析しつつ、同大統領がアメリカにとっての「時限爆弾」になりうる可能性を指摘しています。

トランプの『ウラオモテ政治』を考える

ゲームカードのトランプの場合、表というのは全てが同じ柄であり、目的としては裏に書いてある「スペードのエース」とか「ダイヤの2」といった「正体」を隠す機能を持っているわけです。その点では、トランプ大統領の使い分ける「ウラとオモテ」というのは、これとは違います。

どういうことかというと、立場のAとBという全く反対の立場を使い分けるということをやっているわけです。この使い分けというのは、2016年11月に選挙に勝った瞬間に始まり、ずっと今に至るまで続いています。続いているというよりも、決定的に激しくなり、恐ろしいことに効果を発揮し始めているのですから大変です。

まず、11月の選挙で当選が確実になった際には「社会の分断を終わらせ、和解を実現する」ということを言ったわけです。これは、国際社会を安心させたばかりか、今に続く「トランプ株高」を作り出すほどの安心感をもたらしました。ですが、ご本人は舌の根も乾かないうちに「暴言ツイート」を再開しています。

これ以降、「まともな発言」と「暴言モード」というのが入れ替わり立ち替わり出て来るようになります。そうした「使い分け」というのは、一晩で行われることもあれば、数ヶ月を経て行われることもありますが、一般的に「ペアになる組み合わせ」が見て取れます。

例えば、この11月の「和解のメッセージ」とペアを組んでいるのは、2017年1月の就任演説です。ここでは「アメリカ・ファースト」という概念を持ち出して極めてダークで偏狭な世界観を披瀝しています。ヒラリー・クリントンが語っていたのですが、「その就任式の場に列席していた自分とブッシュ元大統領が、この演説はクソ(”S**t!”)だということで一致した」というのですが、それはともかく、極めてダークなものであるだけでなく、当確演説がもたらした希望的なトーンを打ち消した、正に「使い分け」がされていたわけです。

もっと短い期間に「ウラとオモテの使い分け」が行われた例としては、8月のヴァージニア州シャーロットビルでの極右の暴力事件を受けての演説がいい例です。この事件に対しては、「暴言モード」「和解モード」「暴言モード」とクルクルと、立場を変えています。

更にこの9月に入ると、政策面でこの「使い分け」が始まりました。まず、「DACA」つまりオバマ大統領が開始した不法移民の子どもへの「期限付き合法滞在制度」を「廃止すると匂わせ」、次に「実際に廃止する」と言い、但し「具体的な措置は議会に任せる」と言い放ったわけです。

ところが、実際は「議会民主党」と秘密裏に談合して「オバマの寛容な政策をむしろ恒久法的な措置で継続する」方針で合意したという話になり、ところがその直後には「そんな合意はない」と否定して、今度は民主党がカンカンになりという具合に二転三転しています。

一方で、地球温暖化に関するパリ協定については、「脱退する」という姿勢で一貫していたかと思うと、再三にわたるハリケーン被害で広範な世論の間に「温暖化理論を認めるムード」が出てくると、残留を匂わせたりもしています。

というわけで、これは「ホンネとタテマエの使い分け」というような単純なものではないわけです。簡単に言えばこういうことです。

一つは、実務的な最適解と、コア支持層の持っている感情論とに「大きなズレ」があった場合に、その2つを「ズレたまま抱える」という無茶をやっているという問題です。良く言えば、最適解を選んで行動する姿勢はあるのですが、一方でコア支持層への「説得」は全くやらずに、ここではホンネとタテマエ的に二層構造を放置するのです。

もう一つは、情勢が変わると平気で自分のポジションを変えていくという傾向があるということです。名人芸といえばそれまでなのですが、そこには、この政権の抱える非常に特殊な構造があります。このトランプ政権ですが、よく見ていくと7つの要素がゴチャ混ぜになった政権ということができます。

また政治イデオロギーとしては、「極端な小さな政府論」「極端な大きな政府論」「軍備増強」「不介入主義」「規制緩和」「徹底した保護主義」ということで、全く相容れない水と油をゴチャ混ぜにしていると言っていいでしょう。

その全体が醸し出す、良く言えばフュージョン料理のような目新しさ、悪く言えば「味噌もクソも一緒くた」というのがトランプ政治であり、恐ろしいことにそれが回りだしたということなのです。

現時点では、議会共和党も議会民主党も、このトランプ流の「ゴチャ混ぜ」と「ウラとオモテの使い分け」という政治手法に翻弄されるばかりで、政局のイニシアティブは完全にホワイトハウスに取られてしまっているわけです。

そうした「ウラとオモテ」とか「ゴチャ混ぜ政治」というのが、どうして機能し始めているのでしょう? 一体誰がそんな「知恵」を付けているのでしょう?

その「知恵をつけているブレーン」については、良く分かりません。軍出身のジョン・ケリー首席補佐官が異常な才能を持っているという説もあれば、議会OBのニュウト・ギングリッチ氏がコーチしているとか、いやルディ・ジュリアーニ氏も加わっているとか、諸説があります。

ケリー主席補佐官を中心としたホワイトハウスのスタッフが合議制でやっていて、それが「バノンがいなくなった」ことで、常に最善手が打てるようになったという説もあります。この「ケリー有能説」ですが、確かにここへ来て「ホワイトハウス筋からのリーキング」が減っていることから見て、機能しているという感触もあるわけです。

では、このトランプ流で政治が前に進んでいくというのは良いことなのかというと、それは違います。「国内外の感情論」と「複雑極まる現実」を「お手玉のように曲芸的に操る」というのは、いくら変人トランプでも限界があるはずです。どこかで破綻が起きる可能性は常に残っており、その際には市場が一気に暗転するでしょう。ただ、その臨界点までは当面この流れで進みそうです。

image by: Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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