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テスラ社の自動運転事故で、責任追求にエネルギーと時間を使わない米国

バブル真っ只中の80年代、世界中が日本経済の成長や日本の技術に注目していました。それから30年以上がたち、いま日本経済は低迷からなかなか抜け出せずにいます。無料メルマガ『山久瀬洋二 えいごism』著者である山久瀬さんは、2016年に起きた自動車メーカーの「テスラ」の自動運転事故についての米国政府の対応を引き合いに出し、米国と日本が取り巻く環境の違いについて分析。今後、日本の企業が躍進していくためには、リスクを負って果敢に挑戦する米国企業に見習い、日本企業の意識と組織改革を進めていくことが必要だと考察しています。

 

今週のテーマは「未来志向でリスクをとれる企業経営とは」 

【海外ニュース】
NTSB staff to say Tesla Autopilot should share blame for 2016 crash.
訳:国家安全運輸委員会はテスラの自動運転システムは2016年におきた衝突事故についての批判を共有するべきだと発表 (Bloomberg Technologyより)

 

【ニュース解説】

80年代のことです。日本はバブルに浮かれていました。 その頃、アメリカに住んでいましたが、アメリカでも日本経済の成功の秘訣はなんだろうという特集番組が組まれたりしたものでした。反面、例えばロックフェラーセンターを三菱地所が買収したことなどから、アメリカが日本に買われてしまうという感情的な反発もありました。その頃、日本企業の製作したファクシミリが、最先端の情報伝達機器として注目されていました。 同時にワード・プロセッサー(ワープロ)が隆盛を極め日本の技術の象徴とされました。

 

そんな80年代の終わり頃、Rust to Richesという書籍が話題になりました。

著者のジョン・ラトリッジは当時疲弊していたアメリカ経済について、どのような経済も投資をしたインフラが古くなったときに錆び付いてしまうと解説し、アメリカはインフラが古くなり新陳代謝のための低迷期にはいっているのだと説きました。 確かに、日本経済が破竹の勢いでアメリカを席巻しているときに、アメリカは新陳代謝を始動させていました。

 

1981年にIBMは16ビットのパーソナルコンピュータを開発し、未来を見据えていました。このパソコンがインターネットと出会ったとき、日本のファクシミリやワープロは RichesからRustへと凋落をはじめたのです。電子メールが一般的なツールになったとき、アメリカのタイムズ誌の記者が霞ヶ関の官僚にその話をしたときに、「What is email ?」と尋ねられ言葉を失ったという記事が掲載されたことを覚えています。80年代の終わり頃、アメリカの行政サービスに電子メールが導入された頃のことでした。

では、今後日本は以前のアメリカのように、Rustな状態からRichesな状態へ新陳代謝を実現できるのでしょうか

 

この課題を考えるためにも、過去のファクシミリやワープロの逸話を改めて見つめてみたいのです。
実は、近年アメリカで注目されたハイブリッド車の開発に成功したトヨタなど、日本の基幹産業ともいえる自動車業界が、ファクシミリやワープロと同じ運命をたどるのではないかという危惧もあるからです。

つまり、トヨタのプリウスに代表されるハイブリッド車がアメリカで人気を博していた頃、自動車業界とは一見無縁のシリコンバレーでTeslaが粛々と開発されていたのです。 アメリカの自動車業界はRustの象徴でした。そして、日本の自動車業界はRichesそのものでした。

ちょうどIBMがパソコンを開発したときのように、Teslaが登場し、ちょうどパソコンがインターネットにフックした時にオセロゲームのように通信機器市場が変化したように、Teslaなどで開発された電気自動車の技術がAIにフックしたとき、日本の競争力は致命的な打撃を受けるのではと危惧するのです。

 

ワープロを代表する「書院」を開発したシャープは、すでに台湾の企業に買収されています。同じ家電業界でいえば、東芝の状況も惨憺たるものです。 Teslaの開発は10年以上に及ぶ長期的なものでした。

日本では失敗は成功の元という諺がありますが、失敗を繰り返しながらも執拗に投資を続け、より強力な商品を開発することはもともと日本のお家芸であったはずです。

 

バブルの頃、アメリカは長期的展望にたった企業経営をしていないと批判したのは日本の経済界だったのです。 日本企業に必要なことはリスクをとる気概です。日本の社会ではリスクをとって失敗した場合、徹底的に責任が追及されます

 

失敗を成功に変える前に責任追及のモードの中で、成功の芽そのものが摘み取られます。責任を追及するのではなく、そこから何を学んで未来に伝えるのかという試行錯誤の意思がなければ、未来の市場は開発できません。

ワープロやファクシミリのように、世の中が大きく変化するとき、それを先取りして気の利いた商品を作ることが得意な日本ですが、本格的に未来のインフラそのものを変化させる商品開発には極めて脆弱なのです。リスクを回避するために完璧な準備をするのではなく、未来の絵を描いて、そこに向けて稼働しながら調整を繰り返すことで成功をつかむという考え方が必要です。

 

今回のヘッドラインのように、2016年5月にTeslaがトラックと衝突し、運転手が死亡するという事故がありました。自動運転の限界ということでTeslaの安全性が問われました。しかし、アメリカの国家安全運輸委員会 US National Transportation Safety Board は調査の末にドライバーのミスをみとめ、自動運転そのものの課題は指摘したもののTeslaの企業としての責任は追及しませんでした

 

このヘッドラインのように、Teslaは、自動運転の技術が抱える課題を共有するべきだとは指摘しましたが、それはあくまでも未来に向けた課題設定だったのです。極めて迅速で合理的な判断でした。同じことが日本でおきた場合、どれだけの時間とエネルギーが責任追及に向けられるかと思うのです。安全とリスク、そして未来への挑戦という3つの軸のバランスをみるとき、日本は安全に傾斜しアメリカはリスクと未来への挑戦に傾斜します

その是非はともかく、ワープロとファクシミリの教訓を繰り返さないために、今日本の企業が意識と組織改革の双方を求められていることだけは、事実なのではないでしょうか。

 

image by: Shutterstock

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【著者】 山久瀬洋二 【発行周期】 ほぼ週刊

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