この季節、時候の挨拶などでもよく使われる「天高く馬肥ゆる秋」という言い回し。澄み渡る秋の空が想像され爽やかなイメージを抱く方も多いかと思われますが、その「元々の意味」はと言うと…。無料メルマガ『1日1粒!「幸せのタネ」』の著者で元日本語学校教師の須田將昭さんが詳しく記しています。
天高く馬肥ゆる秋
秋は暑すぎず寒すぎず、心地のいい季節です。空も澄み切って、爽やかな気持ちになるのも秋ですね。
さて、こんな季節ともなれば
「天高く馬肥ゆる秋」
という言い回しが思い浮かびますが、そもそもどんな意味の言葉か説明できますでしょうか?
「秋は空が澄んで高く見える。
そんなに気持ちのいい季節だから
馬もばくばく餌を食べて太る季節なんだよ」
ふむふむ。なんとなくそんな感じでとらえてしまいます。ちょっと辞書を引いてみましょう。
秋は空が澄み渡って高く晴れ、馬は肥えてたくましくなる。秋の好時節をいう語。
(『大辞林』第三版・三省堂)
ふむふむ。だいたい合ってるようですが、この解説の後に
→馬肥ゆる
というのがあります。気になりますね…、調べてみましょう。
同じく『大辞林』ですが、
「漢書匈奴伝」匈奴至秋、馬肥弓勁による
秋になって馬が肥えてたくましくなる
という解説がありました。漢文の部分は、「匈奴、秋に至れば、馬肥えて、弓強し」とでも読めばいいでしょう。
匈奴は漢民族からしたら、北方から迫ってくるこわいこわい騎馬民族です。匈奴は秋になると、夏の間に肥え太らせて鍛えた馬に乗り、強い弓で攻めてくる。冬になると遊牧民族は食料に困りますから、秋に収穫したものを奪いにくるぞ…という警戒警報とも言えます。
確かにいい季節であることは間違いないのですが、「なぜ馬なのか?」と考えてみると、実はその裏には漢民族と北方騎馬民族との戦いの歴史が潜んでいる…、ことわざ一つとってみてもなかなか奥が深いものです。
さて、馬は秋に肥えるものなのか、夏にしっかり食べて肥えた馬が秋にやってくるのか…。
日本では「食欲の秋」でもありますので、美味しいものを次から次へと食べているうちに、気がついたら「肥ゆる」になってしまいそうです。少しは「運動の秋」で解消しておきたいところですが、みなさんはいかがですか?
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