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年金支給75歳案、そもそも受け取る前に死んだら保険料は払い損?

年金制度の大きな不満のひとつ、「頑張って払っても、貰う前に死んでしまったら払い損では?」という疑念。年金支給75歳案も浮上している中、実際のところはどうなのでしょうか。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、国民年金にある「掛け捨て防止制度」について、わかりやすく解説しています。

年金を貰う前に死んでしまったら今まで支払った年金保険料は完全に掛け捨てなのか

結構世間で、「年金保険料支払ってきても貰う前に死んだら払い損じゃないか!」ってよく言われますが、そりゃ年金は保険だから保険事故(老齢になる、死亡した時に一定の遺族がいる、障害になる)がなければ掛け捨てにはなりますよ^^;。民間の定期保険とか医療保険なんかも保険期間中に万が一がなければ基本的に掛け捨てなわけで…。

でも民間保険はそれを承知で多くの人が積極的に加入していきますよね。掛け捨てに関する批判もあまり強くはない。

それにしても、民間保険だったら何年間健康で居たとか、生存してたら祝い金支給しますっていう商品が人気があって掛け捨てじゃなくて嬉しい! と思われがちですが、あれって基本的には祝い金の特約付ける為にその分保険料を高めに支払ってその分保険料を返金してるだけですからね^^;。

さて、公的年金に関しては年金貰えなければ掛け捨てと言われても国民年金に関しては掛け捨て防止の制度はあります。とはいえ、本人が死んだ時に遺族に支払われる場合ですけどね。

亡くなった本人が65歳になった時に支給される老齢基礎年金や、今まで重い病気や怪我で障害基礎年金を貰った事が無いと何の年金も貰わずに今まで支払った国民年金保険料が掛け捨てになるので一部掛け捨て防止目的として設けられています。死亡一時金といいますが、まずは遺族年金の話から入ります。

20歳になると国民年金には国民全員が強制加入しますが、自ら国民年金保険料を支払っていく形の国民年金第1号被保険者と呼ばれる自営業とかフリーター、無職、学生みたいな人にはもしその人が死亡した時には遺族基礎年金という年金が支給される場合があります。

この遺族基礎年金は、死亡当時生計を維持していた「子供がいる配偶者」、または、「子供」に支給されます。生計維持されていたというのは、簡単に言うと死亡者と同居していて遺族である配偶者の前年の収入が850万円未満(または前年所得が655.5万円未満)のような場合を指します。

生計維持って何?(参考記事)

子供っていうのは18歳年度末未満の子供をいいます。ただし子が途中、婚姻等をするとこの場合の子供ではなくなる。なお、18歳年度末までに障害年金の障害等級と同じ1、2級程度の障害を有する子供であった場合は20歳までが子供として扱われます。ちょっと例として挙げてみます。

1.昭和40年9月27日生まれの男性(今は52歳)

20歳になる昭和60(1985)年9月から昭和63(1988)年3月までの31ヶ月間は国民年金保険料納付済み。昭和63(1988)年4月から平成3(1991)年12月までの45ヶ月間は厚生年金加入。平成4(1992)年1月から平成12(2000)年3月までの99ヶ月は国民年金保険料を未納。自営業者として平成12年4月から平成29年9月までの210ヶ月は国民年金保険料を納付し続け、平成29年10月12日に亡くなった。夫は何の年金も貰えずだったですね…^^;。10月12日の死亡当時に生計を維持していた遺族は45歳の妻(前年の収入は850万円未満)と、15歳と13歳の2人の子供。遺族基礎年金は子供のある配偶者、または、子供に支給する権利が発生します。

なお、この夫が死亡した月の前々月までに年金保険料を納めなければならない期間の3分の2以上は保険料を納付したか免除期間でないといけません。または死亡した月の前々月までの直近1年間に滞納が無い事が必要。これを保険料納付要件といいますが、記録を見る限り3分の2以上も直近の1年間も満たしています。

で、配偶者と子供に遺族基礎年金を貰う権利が発生しますが、この場合は配偶者である妻が支給優先されます。「子供がいる配偶者」として。よって、配偶者である妻は遺族基礎年金779,300円(平成29年度定額)+子の加算金224,300円×2人=1,227,900円(月額102,325円)の支払い。ちなみに子供自身の遺族基礎年金は妻が貰ってる間は停止の状態なだけで貰う資格を失ったわけじゃない

この妻が貰ってる場合に、妻が死亡したり子供と生計を同じくしなくなったら妻の遺族基礎年金は消滅して、子供の停止されていた遺族基礎年金が停止解除されて子供が貰う事になる。

例えば、妻である母親から子が独立して子供と生計を同じくしなくなった時は妻の遺族基礎年金を貰う権利が消滅して、子供2人が遺族基礎年金を貰う。

子2人に対する金額は遺族基礎年金779,300円+子の加算金1人分224,300円=1,003,600円を子供2人で按分して支給になる。だから子1人に501,800円(月額41,816円)ずつ支給する。上の子が18歳年度末を迎えると下の子1人で779,300円(月額64,941円)を受給する。

話を戻しますが、遺族年金というのは基本的には終身年金ではありますが、それは厚生年金や共済年金の事であり、この国民年金から支給される遺族基礎年金は一番下の子供が18歳年度末を迎える事で消滅して0円になります。つまり、国民年金から支給される遺族基礎年金は有期の年金なんです。

また、この死亡した夫の過去に厚生年金に加入した期間45ヶ月間があるから遺族厚生年金は貰えないの? って気になる所ではありますが、残念ながら死亡したのが厚生年金加入中等ではないし、また、全体で年金保険料を納めた期間+保険料免除期間+カラ期間≧25年(300ヶ月)以上無いので遺族厚生年金は支給されない

年金を貰う際に超重要なカラ期間とは?(まぐまぐニュース参考記事)

全体の年金加入期間385ヶ月の中に99ヶ月の未納があるから、300ヶ月を下回ってしまう。ちなみに10年でOKっていうのは老齢の年金の話で、遺族年金は従来通り全体で25年以上必要になっている(未納期間除く)。

だからもし、せっせと国民年金保険料を支払ってきても、残された配偶者にそもそも18歳年度末未満の子供が居なければ遺族基礎年金は貰えずに今まで支払った国民年金保険料は完全に掛け捨てになってしまいます。

遺族基礎年金は有期年金に対して、厚生年金から支給される遺族厚生年金は基本的に終身年金だし遺族の範囲も配偶者、子、父母、孫、祖父母までと広い。よって、国民年金に関しては遺族基礎年金貰う条件が厚生年金より結構厳しいから、一定の掛け捨て防止の独自制度が設けられています。

それが死亡一時金と呼ばれるものです。厚生年金には無い。

上の例だとなんとか、この男性がちゃんと納めてきた国民年金保険料は遺族基礎年金として遺族に支払われたので掛け捨てにはならなかったですが、そうじゃないと完全に掛け捨てになるので掛け捨て防止として死亡一時金という制度が設けられています。

上の例で、もし夫の死亡時点で妻と18歳年度末未満の子供が居なかったのであれば遺族基礎年金は支給されませんでした。つまり妻である配偶者に18歳年度末未満の子供が居なければ、夫が今まで支払ってきた国民年金保険料は掛け捨てになります。

ただし、国民年金保険料を納めた期間が死亡月の前月までに3年以上あるから、仮に遺族基礎年金が支給される条件を満たしていなかったとしても妻に死亡一時金が支給される。

金額は国民年金保険料を納めた期間により最低120,000円~最高320,000円となる。この夫は国民年金保険料を納めた期間が241ヶ月あるので、定額で170,000円支給される。

なお、厚生年金や共済組合に加入してた人(国民年金第2号被保険者という)や、配偶者の扶養に入っていた人(国民年金第3号被保険者という)の期間は死亡一時金の月数にはカウントしない。

国民年金保険料免除期間も月数に含みますが、ちょっと月数の数え方が違う。例えば国民年金保険料を1ヶ月分ちゃんと納めたら1ヶ月にカウントするけど、仮に国民年金保険料を4分の3免除だったら「4分の1ヶ月」としてカウントする。4分の3免除期間が36ヶ月なら、36ヶ月÷4×1=9ヶ月って事。ちなみに全額免除期間は含まない

死亡一時金(日本年金機構)

死亡一時金が支給される遺族の範囲は配偶者、子(年金と違って18歳年度末とかは関係無い)、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順で一番上の順位者が請求する。遺族年金は本人死亡当時の遺族の前年収入を見るけど、死亡一時金は収入までは見ない。同居みたいに生計を同じくしてるかどうかを見る。

なお、請求する人が複数の場合(例えば請求者は子であり、人数が3人とか)は、1人がした請求により1人に支給した死亡一時金はその3人全員にしたものとみなされる。1人に支給された170,000円は3分割しなければならないわけではなく、自由に分けて構わない。

※追記

国民年金からの独自の遺族給付に寡婦年金というものもあります。夫が65歳になって老齢基礎年金(今まで障害基礎年金も受けた事が無いのも含む)を貰う前に亡くなったら、今まで納めた国民年金保険料が掛け捨てになってしまうので、この年金も死亡一時金同様掛け捨て防止目的。ただ、寡婦年金という名前なので妻にしか支給されない

遺族基礎年金が支給されない場合は、先程のように死亡一時金をもらう事ができましたが、死亡一時金ではなく寡婦年金を選択する事も可能。ただし、60歳の翌月から65歳到達月までの支給に限る。65歳から老齢の年金貰うまでの繋ぎのような有期年金。国民年金第1号被保険者のように自ら国民年金保険料を納めた期間と免除期間合わせて10年以上あり(学生特例免除や若年者猶予免除期間は10年に含まない)、婚姻期間が10年以上あれば請求可能。

もし、この妻が死亡一時金ではなく寡婦年金を貰う事を選択した場合は死亡一時金を貰う権利は消滅する。つまり、寡婦年金か死亡一時金かどちらかを選ぶという事。ただ、例の妻は夫の死亡当時は45歳という若さだから死亡一時金貰った方がいいかもしれないですが、そこは請求者の判断と人それぞれの状況によります^^;。どちらかを選んだ時点で、もう片方の受給権は消滅する。

寡婦年金を貰うとすればいくらの寡婦年金が貰えるのか? 上の例の夫の国民年金保険料を納めた期間が31ヶ月+210ヶ月=241ヶ月あるのでこの期間を使います。厚生年金期間や配偶者の扶養に入って国民年金第3号被保険者の期間等は含まない。

まあ…60歳から65歳まで貰うと293,455円×5年=1,467,275円となるので、死亡一時金よりは金額としてはお得ではありますね^_^。ただ随分先の話ですが…(笑)。

ちなみに死亡一時金は遺族基礎年金が貰えるならば支給されませんが、寡婦年金は過去に遺族基礎年金を貰っていても貰える年金。ただし、途中で再婚したら遺族年金同様に寡婦年金貰う権利が消滅する。

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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