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【書評】国民を戦争へと導いたマスコミに再び虐殺される日本人

かつて日本を敗戦という悲惨な運命に導いたのは、情緒過多のマスコミのせいである──。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが取り上げているのは、テレビ朝日出身のジャーナリストが日本のメディアのありかたを論じた一冊。柴田さんはその内容を引きながら、ミスリードを繰り返す日本メディアの危うさに警鐘を鳴らしています。

メディアの驕り
廣淵升彦・著 新潮社

廣淵升彦『メディアの驕り』を読んだ。テレビ朝日出身のジャーナリスト。偏向報道の総本山関係者かと少し警戒しながら読んだが、タイトル通りの内容で「変に使命感に駆られ、存在もしない物事を興奮気味に伝える報道が、どれほど危険なものか」がよく伝わってくる好著であった。

著者のメディア論は、「ベニスの商人=悪人論は間違いだという指摘に見られる。日本人はみな金に目がくらんでいる、という論調があった。「万事を金で見ていくというのはあたかもベニスの商人シャイロックのようなものだ。そうなってはいけない」というお説教がかつてあった。「ベニスの商人」というシンボルは、大衆の意識を大きく変えた。マスコミは、金持ちを悪人にした

好況経済そのものを悪者にした。しかし、マスコミには根本的な誤りがあった。シェークスピアが描いたベニスの商人とは、金貸しシャイロックではない。親友の苦境を見かねて借金の保証人になってやる、友情厚いアントーニオのことなのだ。彼こそ、正義の味方であり、プラスの価値の体現者なのである。

マスコミが煽った極めて情緒的な「ベニスの商人=悪人」論は最大級の誤解で、無知に基づいていた。誰も気がつかなかったのか。この誤謬が世論になってしまい、国策を誤らせた。その後、20年も官製大不況が続いた。著者は1995年の文藝春秋2月号にこの件を書き、大きな反響を呼んだ。その後、「ベニスの商人=悪人」論はメディアから姿を消した。誰も世論をミスリードした責任をとらぬままに。

著者は「同じような『実体とはちがうシンボルを用いて自説を押し通そうとする人々』は後を絶たない」と警告する。メディアが真っ当なら、悪意のシンボル操作をする論客は排除できるはずだが、メディアが挙げて偏向報道まっしぐら。モリカケ報道なんて「ベニスの商人=悪人」論以下の、愚劣ネタである。

「日本が戦争に巻き込まれる」「この道はいつか来た道」などという情緒的報道に慣らされ人々は、理性的な判断力を失っている。大東亜戦争に負けかけていたのに、朝日新聞らは勇ましい標語で国民の志気を高めようと煽りに煽った。日本を悲惨な運命に導いたのは、情緒過多のマスコミのせいではなかったのか。

新聞社出身のテレビキャスターたちは、例外なく自分の意見を言いたがる。この欲望がニュースの質を著しく低下させた。大方はピント外れか偏向である。こんな連中をあたかも良識の代表のように扱い起用し過ぎる。どう考えても、これはフェアではない。最近はメディアの望まぬ事実なかったことにされる

著者の経験では、英国の街角でインタビューしようとすると「私には(それについて)語る資格がありません」と丁寧に断る人がかなりの割合でいた。思慮深い人は、微妙な領域についてはコメントを避けるのが普通だ。このような慎重さ、賢さが日本のマスコミを覆うようになれば、報道内容は深みを増すだろう。今の日本のニュースには、お仕着せの価値観しかない、愚論ばかりである。

戦後72年、日本が最も大切にしてきたもののひとつが、多様で柔軟な価値観でした。さらに権力や周囲の圧力をはねのけて、自分の考えを表現できる「自由」でした。その自由が、いま失われそうになっている、と私は感じています。

いよいよ総選挙、日本に迫り来る国際的危機に触れる野党はないだろう。大方の驕り高ぶるメディアも同様だ。魑魅魍魎を担ぐのに邁進中である。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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