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今年のノーベル医学賞で浮き彫りになった、「夜間勤務」の危険性

米国育ちで元ANA国際線CA、さらに元ニュースステーションお天気キャスターだった健康社会学者の河合薫さんが、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、今年のノーベル生理学・医学賞を受賞した「体内時計(概日リズム)を生み出す遺伝子とそのメカニズムの発見」を紹介しています。河合さんは「夜勤の危険性」について警告。そもそも体内時計が狂うことで私たちの身体にどのような健康被害が起こりうるのでしょうか?

夜勤と体内時計

残念ながら日本人受賞3年連続とならなかった今年のノーベル生理学・医学賞を、米ブランダイス大学名誉教授のJ.ホール博士と同大学のM.ロスバッシュ博士、ロックフェラー大学のM.ヤング博士が受賞しました。

受賞理由は「体内時計(概日リズム)を生み出す遺伝子とそのメカニズムの発見」です。

人間の身体は24時間のリズムで変化。活動や睡眠の変化だけでなく、朝が来ると血圧と心拍数が上がり始め、昼には血中のヘモグロビン濃度が最も高まり、夕方には体温が上がり、夜には尿の排出量が多くなり、真夜中には免疫を担うヘルパーT細胞の数が最大になり、成長ホルモンがさかんに分泌します。

こういった「体内時計」を人間がもつことはわかっていたのですが、どういったメカニズムで起きているのかは長年不明でした。

ところが1970年代初頭、カリフォルニア工科大学のベンザー博士らが、ショウジョウバエを使った実験で、X染色体の一定領域に体内時計に関わる遺伝子があることを発見。

その身体の1日のリズムを遺伝子レベルで解き明かす道を開いたのが、今回ノーベル賞を受賞する3人の博士です。

ショウジョウバエの仕組みとほぼ同じメカニズムが人間にもあり、生活のリズムと体内の時計とがうまく同期しなくなるとがんや精神性疾患代謝疾患などのリスクが高まることが確かめられ、最近は「人の働き方」についても、時計遺伝子の面から調べる研究が進んでいるのです。

例えば、早出や夜勤など勤務の交代制がある職場で働く人を対象に行なった実験では、“ヒゲ”を利用して、体内時計と勤務の関係を調べました。

勤務中の人たちにひげや髪の毛を3時間に1回、抜いてもらい毛根の細胞を調べたのです。

その結果、早出と遅出のシフトが1週間ごとに入れ代わるシフト勤務についている人の場合、睡眠や食事の時間が7時間ほどズレが生じるのに対し、体内時計の変化は2時間程度。

体内時計が勤務時間の変動についていけなかった

すると内臓は“就寝時間”になっているのに、無理に働くことになり健康に大きな影響が出る。

“不自然な勤務”が、動脈硬化高血圧肥満糖尿病などの引き金になってしまうのです。

それだけではありません。

WHOの調査では、乳がん前立腺がんなどの、性差に特徴のあるがんで大幅にリスクが上がると指摘。デンマークでは、看護師さんなどの交代制勤務をする人が乳がんにかかった場合、労災の対象になるとされています。

また、昨年にはハーバード大学などの共同研究グループが「看護師」の夜勤が心身に与えるという研究結果を発表。この調査は、約7万5000人分というサンプル数の多さに加え、1988年から2010年まで22年間も縦断的に行われたもので、信頼性が極めて高いのがウリです。

その結果、

などなど……、国内外を含め多くの研究で長時間労働および深夜勤務と脳血管疾患若しくは心臓疾患とは強く関連していることが明確に認められています(Liu Y, Tanaka H, The Fukuoka Heart Study Group (2002)  Overtime Work, Insufficient Sleep, and Risk of Non-fatal Acute Myocardial Infarction in Japanese Men” Occup Environ Med, 59, 447-451.)。

臨時国会で成立する予定だった「働き方改革」。

宙ぶらりんのままになっていますが、インターバル規制夜勤勤務規制に関して、もっともっと議論してもらいたいです。

そして、「体内時計リズムがズレ気味だなぁ」という方は、生活リズムを体内リズムに合わせる努力に加え、朝起きたら太陽の光を5分ほど浴びてください(たとえ曇り空でも)。

そして、軽めの運動を10~20分ほどしてください。

それだけで体内時計がリセットされ、ウツ傾向などの改善にはつながるとの報告もあります。

是非。

image by: Shutterstock

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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