多くのファッションデザイナーが夢見るのは、メーカーとして自立することです。しかし、自立するにはブランドイメージの構築や生産ルートの確保などの為に莫大な資本が必要となりますし、失敗すれば大量の在庫を抱えるというリスクを伴います。メルマガ『j-fashion journal』では、著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、ファッション専門学校の教育カリキュラムの改革が必要だとし、超現実的な起業プランを紹介しています。
超リアルなファッションビジネス講座の提案
1.海外生産を前提としたビジネスモデル
日本市場で流通しているアパレル製品の輸入浸透率は95%以上。日本のアパレルビジネスは、海外生産が基本になっている。
しかし、若手デザイナーの多くは、メーカーとしての自立を考えている。自分でデザイン、パターンメーキングを行い、生地を仕
入れ、国内で縫製加工をして、国内の小売店への卸売か、ネット販売を考えている。
このビジネスモデルには無理がある。小売店に卸そうにも、小売店が減っている。また、国内生産では、最初から海外生産の商品と比べて価格競争力がない。
国内外のアパレル企業は、それなりの資本投下をしてブランドイメージを構築しているが、若手デザイナーに資金力はない。ファッ
ションショーしたり、合同展に出ていれば、いつかどうにかなるだろう、と考えているのだろうが、現実にはどうにもならない。
デザイナーがメーカー志向なのは、ファッション専門学校等の教育がメーカー志向であることに起因していると思う。学校では、好きなデザインをして、パターンを引いて、自分で縫製する。それを発表会で発表する。
これと同じことを社会人になっても行っている。生地を仕入れて、アパレル製品に加工して、小売店に卸そうというのだ。
私は、ファッション専門学校のカリキュラムを見直すべきと考えている。メーカー志向ではなく、現実的に利益が出る起業プランを設定し、それを目指す教育ができないのだろうか。
2.海外生産を始めるまでのコスト
海外工場と取引する場合、最初に行うことは、工場を探すことである。商社に頼んで工場を紹介してもらうか、知り合いに問い合わせるか。それで見つからなければ、国内、現地の見本市や展示会に出掛けて、見本、取引先や設備等を確認して、見本を取り寄せるか、見本制作を依頼する。
それでも、思い通りの見本ができるとは限らないし、見本は良くても、現物になったら不良品の山ということもある。
ここまでに、どれだけのコストが掛かるのだろうか。出張旅費に人件費、見本制作に関わる経費。それと膨大な時間が無駄になる。
したがって、必然的に国内縫製を考えることになる。
もし、展示会に行かなくても、各社の商品が確認できて、一点見本が取り寄せられたら、この流れは変わるのではないか。
実はそんなサービスが存在する。アリエクスプレス(AliExpress)だ。
3.アリエクスプレスとは?
アリエクスプレスは、中国のアリババが運営しているネットモールで、出展者のほとんどはメーカー。世界中どこからでも一点から
個人輸入ができる。しかも、ほとんどの商品が送料無料だ。
決済はアリババのAlipay(アリペイ)。顧客が支払った代金は、一度、アリババに入金し、購入者の受取評価がないと出展者に入金されない。もし、クレームがあれば、アリエクスプレスが対応してくれる。
もちろん、届いた商品のイメージが違ったり、不良品が皆無とは言えないが、それは通常の取引でも同じことだ。その意味では、一般消費者にはハードルが高いかもしれないが、小売店や卸売業者のバイヤーなら予測できる範囲である。
最近、SNSで見かける「世界中から良い商品だけを集めたネットモール」「今だけ半額」の商品は、多くがアリエクスプレスに掲載されており、価格はその半額以下である。
アリエクスプレスには、一億点以上の商品が掲載されているため、階層がとても深い。
全ての商品を確認してから買うこともできないし、他のネットショップで販売されているかも確認できない。アリエクスプレスを現金問屋のように使って、商品を仕入れヤフオクやメルカリで転売する人も多い。
4.バイヤーとして商品MD計画を組む
アリエクスプレスを活用した教育プログラムの第一は、バイヤーとしての商品MDの組み立てである。
まずは、商品の写真とデータを見て、自分のイメージに合う商品を選ぶところから始めよう。そして、次第に商品を絞り込んでいく。写真を見ていると、次第にトレンドや売れ筋も見えてくる。オーダー数やフィードバックを確認することも可能だ。
とりあえず、ワンピースに限定した課題にしても良いだろう。たとえば、デニムのワンピース、セクシーなカットソーのワンピースなどで商品をピックアップする。
商品を選ぶ段階では、ピンタレストに保存しておくと便利だ。
価格は、最低でも二倍にして販売することを前提にする。そのまま販売するのでも良いが、教育プログラムなので、何らかのリフォームや後加工で顔を変えることを前提にしたい。そのことによって、付加価値が上がることが前提だ。リフォームすることで、価値が下がったのでは何もならない。商品を選ぶ時も、手を加えることを前提に選ぶことが必要になる。
ここで学ぶことは、商品調達の方法だ。実際にクレジットカードで決済を行う。商品が届くまでには、リードタイムが掛かる。また、商品が届いたら、検品しよう。自分が思っていたイメージだったか。それとも、期待を裏切られたか。なぜ、それらが写真から判断できなかったのか。
商品が届いたら、とのように手を加えれば、商品の魅力が高まり、オンリーワンの商品になるかを検討する。ここで購入する商品はあくまで、中間材料であり、最終的には自分が加工するのだ。
これまでのファッション専門学校は、デザインするところがスタートだったが、ここでは、商品を選ぶところがスタートである。
5.メルカリで販売してみよう
届いた商品を加工して、オリジナル商品に変える。その上で、価格を設定しよう。
何人かの受講生が集まれば、複数の商品が出来上がる。販売方法は、イベントとして販売してみるとも良い。あるいは、メルカリで販売してみる。
販売結果は全員で共有する。なぜ売れたのか。なぜ、売れなかったのか。次回の仕入れではどんなことに注意すればいいのか。また、仕入れの方向性についても話し合い、記録していく。
たとえば、一人の商品の仕入れ予算を1万円に設定する。3千円程度の商品ならば、3枚は仕入れられる。それが、2倍で売れれば、2万円が手元に残る。次は2倍の商品が仕入れられるのだ。
二回目からは、オーダーする前に、クラス全員で品揃えをチェックする。商品MD会議だ。
一回目で売れた人が中心となって会議をリードしてもらう。
価格決定会議も行おう。商品が届いて、価格を決める段階で共有する。
また、写真の撮り方や商品のコピー等も十分に検討する。
これを一年間続ければ、相当の経験とノウハウが詰めるだろう。また、授業料を差し引いても利益が手元に残るに違いない。自分の品揃えとリフォームに自信が持てれば、そのまま営業を続けてもいいし、資本調達して、本格的なOEM生産に進むのもいいだろう。
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