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米中が開戦したら…武力衝突を避けるため日本がすべきこと

世界最強のシンクタンクと言われるアメリカのランド研究所がこのほど、アジアにおける米中両軍の10種類の能力についての比較をまとめた報告書を出版しました。メルマガ『NEWSを疑え!』はその詳細を紹介しつつ、日本が武力衝突を避けるためにすべきことを指摘しています。

ランド研究所が対中軍事戦略の再考を求めた

米ランド研究所は9月14日、アジアにおける米軍の作戦を妨げる能力を中国軍が獲得している分野を指摘し、米軍戦略の再考を求める報告書「米中軍事得点表──軍隊、地理、勢力バランスの進化、1996-2017年」を出版した。その提言は、とりもなおさず日本防衛体制にとっても重大な示唆を含んでいる。

報告書は、中国軍の台湾進攻および南シナ海・スプラトリー諸島(南沙諸島)のティトゥ島(フィリピン名・パグアサ島)進攻という2つのシナリオについて、米中両軍の下記の10種類の能力を、1996年、2003年、2010年、2017年の時点で比較している。

1. 中国軍による米軍航空基地攻撃能力
中国は通常弾頭型の弾道ミサイル1,400発と巡航ミサイル数百発を配備し、日本を射程に収めており、その一部は半数必中界5~50メートルの精密誘導ミサイルである。弾道ミサイル数十発が命中した滑走路は、緒戦の数日間にわたり機能を失う。嘉手納飛行場など重要な基地集中攻撃され、数週間も機能を失うおそれがある。2017年にはグアムも同じ脅威を受ける可能性が生じる。

嘉手納飛行場の滑走路を分断するための攻撃目標(赤)と駐機場(青)([1] 図3.2)

2. 航空優勢
戦闘機の質的な差は縮まった。米軍は航空基地の不足もあって、2017年には7日間以内に台湾上空航空優勢獲得することが不可能となる。その間、米軍の地上部隊や艦船は、中国軍の航空攻撃に対して脆弱となる。

3. 米軍が中国の防空網を突破・破壊する能力
中国が統合防空システムを構築したので、台湾周辺から中国大陸上空へ進入する米軍機へのリスク増している

4. 米軍による中国航空基地攻撃能力
台湾シナリオは39か所、南シナ海シナリオは9か所の基地が対象。米軍の精密誘導兵器は進歩しており、中国防空システム射程外から攻撃する能力(スタンドオフ攻撃能力)を維持している。

5. 中国軍の対水上戦能力
水平線を超える目標を、偵察衛星などを用いて発見・追尾する能力が向上している。命中率が不確かな対艦弾道ミサイルよりも、潜水艦航空戦力近代化のほうが、米国の空母打撃群にとって明らかな脅威となっている。

6. 米軍の対水上戦能力
中国の2017年の揚陸能力は1996年の2倍に達するとみられるが、米軍は2017年の時点でも、中国の揚陸艦艇の40パーセントを潜水艦だけで7日間以内撃沈可能と予測される。

7. 中国の宇宙システムに対する米国の攻撃能力
米国は2004年になって通信衛星妨害システムの配備を始めた。有事にはイージス弾道ミサイル防衛システムなども、中国の宇宙システムを攻撃・妨害するために転用することができる。

8. 米国の宇宙システムに対する中国の攻撃能力
中国は有事には米国の衛星を破壊することの戦略的リスクを避け、地上から妨害する可能性のほうが高い。

9. サイバー戦力
米国は国家安全保障局(NSA)の攻撃能力を投入することができ、防御能力中国より高い。しかしながら、実戦では双方が予期しない展開がありうるし、米軍の兵站用ネットワークはインターネット接続されているので脆弱である。

10. 核抑止の安定性
中国の核報復能力は、米国の第一撃に対して極めて脆弱だった1996年の状態から徐々に強化されている。米国核報復能力揺るぎない

報告書は以上の「得点表」に基づいて、中国側に戦争のリスクを過小評価させないための宣伝、兵器調達の見直し、東南アジア諸国の軍事基地を有事使えるようにするための関係強化などを、米政府に提言している。

日本にとってもっとも重要なのは、「中国の近くの拠点防衛は、単純に割に合わなくなる」「米軍は中国からさまざまな距離に位置する場所から行動する必要がある」という提言だろう。

中国が在日米軍基地攻撃能力を増強するなかで、日本が武力衝突を抑止するためには、平時から自衛隊飛行場と民間空港の復旧能力を高め、米軍による使用を準備したうえで、有事に米軍に使用させるかどうかは、武力衝突発生の経緯によって日本が決めると、中国側伝えておく必要がある。防衛力整備とならぶ外交力が試されることは言うまでもない。

(参考文献)
[1] Eric Heginbotham et al., The U.S.-China Military Scorecard: Forces, Geography, and the Evolving Balance of Power, 1996-2017 (Santa Monica, California: RAND Corporation, 2015). xl+389 pp.

静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之

image by: Shutterstock

 

『NEWSを疑え!』第430号より一部抜粋

著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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