北朝鮮有事が囁かれる昨今ですが、そもそも日本の自衛隊だけの軍事力によって来るべき「危機」に対応することは現実的に可能なのでしょうか? 軍事アナリストの小川和久さんは自身が主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』の中で、日米同盟を国益として徹底活用することは最低条件だと断言。自身の講演会の終了後に、聴衆の一人から出た「日本人はやるときにはやれるのでしょうか?」という質問にどう答えたかを通じて、「精神論」に陥りかねない日本人の国防に対する意識について問題提起しています。
日本人は「やるときはやれる」のか?
先日、500人ほどの聴衆を前に講演したときのことです。
テーマは、北朝鮮情勢の読み方を通じた日本の安全保障論。演題には「日本人に国を守れるか」と謳ってありました。
私の結論は、「今のままでは日本人に国を守ることなどできない。課題の克服に愚直に取り組んで初めて、それが可能になる」というものです。
物事の順番から言うと、まずは日本の安全保障についての選択肢が「日米同盟の徹底活用」と「武装中立」の二つしかないことを自覚し、コストとリスクがとてつもなく大きくなる「武装中立」より費用対効果にきわめて優れた「日米同盟の徹底活用」を選ぶというのは、スジの通った話です。
私の言い方では、米国にとっての日米同盟の死活的重要性を自覚することなく、調査も研究も抜きに「米国に守ってもらっているのだから、いうことを聞くしかない」と官僚も学者も政治家も思っているようでは、日本人に国を守ることなどできっこない、ということになります。
まずは日米同盟を日本の国益のために徹底して使い切ること。そのステップを抜きにして「自分の国は自分で守る」などと言ったところで、空念仏か口先だけの強がりに終わることは目に見えています。
こういう話を具体的にしていくと、納得した様子でうなずいてくれる人のほうが多いのですが、なかには思いがけない人から、びっくりするような問いかけが行われることがあるのです。
このときの講演会では、最前列は官房副長官や駐米大使、中央省庁の事務次官のOBと現職官僚など高位高官で占められていたのですが、あらかたの聴衆が退出した段階で、そのうちの一人から「日本人はやるときにはやれるのでしょう?」と問いかけられたのです。
その方の顔には、日本人として悔しいという思いがにじみ出ていました。しかし、頭から否定するしかありませんでした。
「自衛隊の適正規模ひとつ国民に問いかけて整備したことのない日本人です。それは精神論に過ぎません。陸上自衛隊の適正規模は25万人ですが、現状では実員で13万人台でしかないのですよ。それを放置しておいて、やるときはやるなどと言えないでしょう」
返事はありませんでしたが、その方の穏やかな顔には悲しみが浮かんでいたのを忘れることはできません。
百戦錬磨のはずの官僚トップたちにして、このようにリアリズムとは遠いところにいるのが日本の現状だとしたら、真の意味での日本の自立など夢のまた夢かもしれませんね。(小川和久)