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世紀の発見が迎えたマサカの結末。製薬会社バイエルが絶望した訳

天然痘ワクチンやペニシリンなど、別の研究の過程で偶然発見され、それが医学上の大発見となった例は少なくありません。しかし、その逆のガッカリケースもあるようです。今回の無料メルマガ『アリエナイ科学メルマ』では著者で科学者のくられさんが、ドイツの製薬会社「バイエル」が、莫大な研究資金を投入して発見した「アゾ色素」のガッカリな歴史をご紹介します。

サルファ剤の歴史

サルファ剤の発見の裏話はあまりネットにもなく、意外と面白いので抜粋して紹介します。

サルファ剤は、現在主流の真菌由来の生物由来のペニシリンやなんとかマイシンなどと違い、100%人間が最初に合成した抗生物質で、スルファニルアミドというものが有名です。

作ったのは現在もドイツのトップ製薬企業である「バイエル」。そのバイエルの豊富な研究資金で、ゲルハルド・ドマークという学者を筆頭に、クラレルとミエッチェという有機化学者が、特定のアゾ色素の中に細菌だけを殺す成分があることを見つけ、数年の研究のすえ、数百の化合物を作り、スルファニルアミドを導入したアゾ色素が絶大な抗生剤としての作用があることを会社に発表、アゾ色素で赤色だったのもあって、服用した人の肌がピンク色になる以外は、特に大きな副作用もなく、従来命を落としていた数々の感染症を克服した偉大な発見です。この薬はプロントジルと呼ばれるもので、バイエルに莫大な利益をもたらした。

しかし、すでに化学マンならオチに気がついていると思いますが、このプロントジルというのは、体のなかで分解されてスルファニルアミドが出現、そのスルファニルアミドが抗生剤として作用しているプロドラッグであることを、ドイツのお隣おフランスのパスツール研究所で数週間で発見してしまいます。

まさか色素自体に抗生剤としての作用があると思っていたら、合成前の材料であるスルファニルアミド、しかも特許はとっくに失効していた、どこにでもある薬品が有効だったことを発見し、バイエルにご進言。

ようするに体がピンクになる副作用は不要で分量も半分で済み合成の手間もかからない…ことが分かったわけです。

バイエルの中では落胆と絶望の嵐が吹き荒れた…とか。ドイツの科学は当時、ヨーロッパでも最先端を行っていたと言われていますが、思い込んだらアクセル全開カーブを曲がれない柔軟性の無さは、なんだか日本の研究にも似たような感じがあったりなかったりします(笑)。

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シリーズ15万部以上の不謹慎理系書「アリエナイ理科ノ教科書」著者。別名義で「本当にコワい? 食べものの正体」「薬局で買うべき薬、買ってはいけない薬 」などを上梓。学術誌から成人誌面という極めて広い媒体で連載多数。

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【著者】 くられ 【発行周期】 週刊

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