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米中で28兆円、トランプと習近平に「取り引き」を呑ませたのは誰?

米トランプ大統領は去る11月9日、中国・北京の人民大会堂で習近平国家主席と会談し、米中の貿易不均衡問題をめぐって、エネルギー、製造業、農業、航空などの分野で約28兆7800億円もの巨額な貿易契約・投資協定に署名しました。熱烈な歓迎を受けたトランプ氏ですが、肝心の「北朝鮮政策」については、誰が中国との「取り引き」をまとめさせたのでしょうか? メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の著者でアメリカ在住の作家・冷泉彰彦さんは、「トランプも習近平もディール(取り引き)好き」とした上で、「北朝鮮政策」の具体的な内容と、それを呑ませた影の立役者について推察しています。

トランプと習近平の『ディール』をどう評価するか?

トランプ大統領の日中韓訪問を契機として「北朝鮮問題」について何らかの方向性が出るだろう、軍事的な強硬策は、「カネ」つまり経済的な解決になるだろうということを、この欄で何度か申し上げました。

この予想ですが、結果的にはその通りになったと思います。但し、私が個人的に期待していた「特区などの具体的な経済援助」を見返りとして明示した上での「具体的な核放棄」という方向性は今回は出ていません。極めて曖昧な方向性となった、そう考えて良いと思います。

今回の一連の首脳会談を通じて出て来た「北朝鮮政策」とは、具体的には何だった、いや何なのでしょうか?

(1)国際社会による核廃棄の要求と、核保有を続ける北朝鮮の対立関係は当面は維持されると思います。

(2)ですが、北朝鮮によるミサイル試射と核実験に関してはスローダウンがされるようです。少なくとも、当面は封印されるでしょう。

(3)トランプ大統領と朝鮮中央テレビによる激しい舌戦についても、これまでのものは「話芸」に過ぎなかったのは明らかですが、今後はスローダウンするでしょう。

(4)経済的な解決というのは、中ロによる抑制的だが非公式である北朝鮮への経済援助に関して、米国が黙認するということだと思われます。解決というのは、これは消極的かつ非公式なものとしての、現体制への暫定的な承認を意味すると思います。

(5)この中ロによる援助の黙認というのは、米国にとっては既定方針の放棄であり、具体的には習近平に説得されたものと見ることができますが、それでは米国の面子が潰れるので、「中国だけでなくプーチンも入っている」とか「部分的な制裁には中国もロシアも入っている」ということにしたいのだと思われます。

(6)日本に関しては、北朝鮮との緊張・対立関係は基本的に維持ということだと思います。ただ、このタイミングで拉致被害者と合衆国大統領の面会が行われたというのは、これもまた極めて消極的ながら現体制を交渉の当事者として承認する行動とみなすことも可能でしょう。

(7)韓国に関しては、トランプ訪韓の直前に「韓中の国交正常化」がアナウンスされ、また直後には首脳の接近が図られています。この動きは、米国の調整が機能していることを証明しています。恐らく、北への圧力になる程度の「北との対立維持」と「韓中正常化」に調整したということなのでしょうが、こればかりは流動性のある問題なので少し先以降の話は不透明です。

というストーリーであると思われます。

要するに「北朝鮮問題」については「抜け道つきの緩慢な封じ込め」と「東アジアの冷戦状態の維持」ということで、それが米国の国益を最大化するという判断です。

そして、何よりもこれは、トランプと習近平のディール」という性格が強いと思われます。これによって、習近平は「新時代の安定」を確保し、トランプは「北朝鮮問題は習近平とディールして解決させる」という選挙公約を成就させた格好になるのです。

そのような「面倒だが、極めて利己的な結論」を、このトランプ政権というのは計算したという理解ができますが、では、果たして一体誰がこんな「高級な」ことを思いついてやってのけているのでしょうか?

アメリカ国内の報道からは、ジョン・F・ケリー首席補佐官が軸になっているというのですが、どうもそうらしいのです。ケリーと、マクマスター安保補佐官、マティス国防長官、更にはティラーソン国務長官といった実務閣僚の合議で仕事が回っているのであって、大統領のツイートは単なる飾り物という実態が機能しはじめている、とりあえずはそう見ておくしかなさそうです。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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