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高校受験で人生が決まる、超学歴社会・台湾の知られざる受験事情

年が明ければ大学受験シーズンの到来、日本の受験生はまさに追い込みの時期です。では、東アジアの近隣諸国の受験事情は、どのようなものなのでしょうか? 台湾出身の評論家・黄文雄さんは、自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の中で、台湾を「超学歴主義社会」と語り、幼稚園教育の熱心さ、兵役との兼ね合いなど、台湾独特の受験戦争の過酷さを紹介しています。

【台湾】超学歴社会である現代台湾の受験事情

日本では近年、学歴を重視しない傾向になってきていますが、台湾はまだまだ学歴社会です。台湾でも少子化が進んでおり、子供一人にかける教育費が高くなっていることもあり、子供たちは幼い頃から名門大学を視野に入れた勉強をさせられるケースが多くあります。

台湾では、夫婦共働きという家庭が多く、子供は朝早くから夕方までどこかに預けられることになります。保育時間が長いことから、台湾の幼稚園は日本の保育園に近いシステムです。

日本の幼稚園は、朝9時頃から午後2時か3時には帰宅するようですが、台湾では朝7時半頃から夜7時から8時まで預かってくれます。また、幼稚園での食事は一日3食が主流です。朝ごはん、昼ごはん、おやつの3回です。両親は出勤のため朝はとても慌ただしいのです。それを考慮して、幼稚園が朝ごはんまで提供しているというわけです。

さらに、台湾の幼稚園は2歳からという所が多いです。これも共働きを考慮してのことでしょう。また、日本の幼稚園では何かと保護者が園の活動に参加しなければなりませんが、台湾では保護者参加を要請されることはほとんどありません。保護者は仕事に行っていて行けないからです。

● 長時間保育でも早期教育に熱心!共働きに心強い台湾の幼稚園事情

保育時間が長い台湾の幼稚園では、じっくりと教育にかける時間があります。そこで、国語(台湾では中国語が国語)、英語、算数などの教科を幼稚園からやるわけです。特に英語教育は、幼稚園から大学まで熱心に行われているため、台湾人は英語が上手いと言われています。教育熱心な両親が、幼稚園の保育時間が終わった後も、補習塾に行かせるというケースもあるようです。

小学校は、日本と同様に私立と公立という選択肢があり、お金持ちは私立に行くという風潮がありますが、私立のほうが頭がいいとか、公立のほうが勉強が遅れているということはあまりないようです。私立小学校への進学の主な目的は、私立に行かせる経済力があるということを親が周囲に誇示するためではないかと思われます。子供たちはというと、もちろん学校の後は塾です。

子供の進路を大きく左右するのは、中学受験よりも高校受験ではないでしょうか。文部科学省のページを一部以下に引用します。このデータは2004年のもので少し古いものですが、過去の話なので問題ないでしょう。

「台湾の学校教育制度は、国民中学卒業後、普通教育(高級中学)と職業教育(高級職業教育)に分かれている。天然資源に乏しい台湾では、教育によって人的資源を拡充することの必要性が常に強く意識されており、職業教育が重視されてきた。
 1971年以降、高級職業学校の学生数は高級中学の学生数を上回り続け、前者がピークに達した1994年には二倍以上の開きがあった(高級職業学校の学生数52万3,982人に対し、高級中学の学生数24万5,688人)。
 近年、高級中学の学校数・学生数が増え続ける一方、高級職業学校の学校数・学生数が減少したため、2002年度に両者の学生数は逆転したが、2004年度現在、32万6,159人の学生が高級職業学校に就学している。」

つまり、かつては中学卒業したら手に職をつけることができる高校専門学校を選ぶ人が多かったということです。ちなみに台湾の義務教育は、日本と同じ小学校6年間と中学3年間の9年間ですから、高校からは選択肢が広がるわけです。

上記のデータは2004年のもので、その当時はまだ高校専門学校へ進学する率が32万6千万人もいたようですが、今はほとんどが高校専門学校への進学は希望しません。高級中学(日本の高校にあたる)へ進学して、大学へ行くというのが主なパターンです。

そもそも、台湾学校教育制度が整備されたのは日本時代です。当時の台湾社会は多言語社会でしたが、日本は台湾の公用語を日本語とし、日本内地よりも先に台湾に義務教育制度を施行しました。
日本は、公学校、小学校、国民学校以外にも台湾原住民を対象にした蛮人公学校を設置し、それまで低かった児童の識字率を著しく高めたのです。その後、国民党政権が日本時代の教育制度を引き継いで、公用語を北京語と定めて現在に至るわけです。

台湾では高校と大学受験の際に統一テストがあります。高校は「會考」、大学は「高考」といい、このテストの点数によって進学できる大学を選ぶというシステムです。

台湾は超学歴社会なので、高校受験や大学受験ともなると、一日中勉強しなければ志望校に合格することはできません。そのため、かつては予備校がひしめく予備校街があり、そこに集まる学生たちを狙って飲食店や雑貨店なども軒を連ねて、一大商業地となっている景色が台湾名物だと言われたこともありました。

しかし、現在はIT化が進み、日本もそうですが、ネット動画配信で授業を受けたり、受験アプリで勉強をしたりというニーズも高まり、予備校街にあった予備校の数はだんだんと減少しているようで、かつての賑わいは見られないようです。

また、かつては男子は18歳には1年間の兵役がありました。兵役は、誰もが嫌がるもので、時間のムダだとしか思われていませんでしたが、それ以前の兵役が2年間だった中年世代によれば、兵役を経たからこそ礼儀を覚えたとか、軍隊生活を通して時間遵守という概念が身についたなどといったプラスの意見もあります。

しかし、今の若者にとって軍隊生活など辛いだけのものでしかありません。近年、少子化で甘やかされた育った現代っ子が軍隊に入って、辛さのあまり自殺したり、いじめられて自殺したりとの事件が相次いだことと、両岸関係が比較的落ち着いていることから、台湾政府は兵役制度を見直しました。そして2014年からは、徴兵制で1年間の義務だった兵役は、志願兵制度で4カ月の兵役となったのです。

徴兵制を廃止へ、適齢男性に4カ月間の軍事訓練―台湾

大学に進学しなければ兵役が待っているため、かつての男子学生は兵役を延期したいがために、それこそ死にものぐるいで勉強しましたが、それもなくなった今、彼らのモチベーションは純粋に自身の将来を見越してのものとなったのではないでしょうか。

台湾の名門大学は相変わらず超人気で狭き門ですが、アメリカや日本に留学するケースも増加の一途をたどっています。また、受験大国である台湾なだけでに台湾の若者の学力は国際的にも高いほうです。
OECDが進めているPISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査があります。PISA調査では15歳児を対象に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三分野について、3年ごとに調査を実施していいて、2015年の調査では日本と台湾は上位にランクインしています。

学歴社会であるがゆえの受験大国台湾ですが、受験準備によって得た学力を持った若者たちは世界各地で活躍しています。また、2013年に学生たちによって起こされた「ひまわり運動」を支えたのも、厳しい受験戦争を勝ち抜いてきた台湾の精鋭たちです。

こうした現象を見ると、今のところ受験戦争が台湾社会に大きな負のエネルギーにはなっていないようですが、当事者である子供たちは大変でしょう。日本も同様ですが、とにかく現代社会を生きる子供たちが背負っているものは、あまりに多く、大きく感じます。

日本では、寝不足から体調を崩す子供、学校や塾の重たい荷物を背中に背負うため腰痛を発症する子供など、健康被害が徐々に出始めています。いくら少子化社会とはいえ、子供たちにあまり大きな十字架を背負わせては、子供がつぶれてしまいます。台湾も、子供を取り巻く環境にそろそろ目を向けたほうがいいかもしれません。

少子高齢化は、日本、韓国、台湾、中国など東アジア共通の問題です。さらに、ただでさえ少ない若者が欧米に流出してしまう現象も共通した問題です。ボーダレスの現在、若者たちは軽々と国境を超えて自分の求める環境を手に入れています。それはネット世代と、それ以前の世代との「世代の断絶」問題です。

また、少子化によって博士号が容易に取れるようになったという現象も出てきています。それに加えて、言語のグローバル化です。日本では、日本国内にありながら、社内の公用語を英語にする企業も出てきています。そうした社会環境のなかに置かれた若者たちは、一体どこへ向かおうとしているのか。「世代の断絶」によって、大人が若者を誘導する時代でもなくなったしまった今、教育をめぐる新風が吹いていることを感じざるを得ません。

image by: Shutterstock

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