「テスラ Model X」を所有し米国の自宅で愛用しているというメルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的プログラマーの中島聡さん。以前掲載の記事「乗るコンピュータ「テスラ Model X」が創る、化石燃料に頼らぬ未来」でも、その使用感などを解説していましたが、今回のメルマガでは、中島さんが実際に米国内でテスラModel Xを長距離運転してみた感想や、メリット・デメリットを詳細にリポートしています。
テスラでPalm Springsまで往復2400マイルのドライブをして学んだ6つのこと
1. 充電時間のために、EVによる長距離ドライブは余計に時間がかかる
今回のドライブは、次の充電ステーションまで2時間ドライブして30~40分休憩する、という行動を10回ほど繰り返すことになりました。食事をする際には30~40分の休憩は問題ないのですが、その合間に余計な休憩をしなければならないのは、少し苦痛です。トータルでは、ガソリン車であれば片道22時間ぐらいのところが、27時間になった計算になります。
これは電気自動車の唯一とも言える欠点ですが、これを「致命的な欠点」と考えるかどうかは、電気自動車の他のメリットをどう評価するかにかかっているので、人によって違う結論になると思います。
2. オートパイロットは長距離ドライブにこそ必要
今回のドライブは、ほとんどが高速道路だったこともあり、ほとんどの区間をオートパイロットで運転しました。長距離ドライブだとすぐに眠くなってしまう私ですが、今回はほとんど眠くなりませんでした。
なぜそうなのかを考えてみましたが、通常のドライブは、意外に「神経をすり減らす」ために、脳が疲労してしまうために眠くなるのではないかと思います。
3. 完全自動運転までにはまだ長い道のりがある
オートパイロットはとても便利ですが、山道で大型トラックの横をすり抜けたりする際には、信用できずにハンドルを(オートパイロットから)奪ってしまうシーンがしばしばありました。車線がコンクリート製の中央分離帯ギリギリに描いてある場合も、私の感覚では中央分離帯に近づきすぎており、同じくハンドルを奪ってしまいました。
人が運転する際には、必ずしも車線の真ん中を走らず、大型トラックが右にある時は車線の左寄りに、コンクリート製の中央分離帯が車線に近い場合には少し離れて運転するのが普通ですが、オートパイロットは実直に車線の真ん中を走るために、こんなことになるのだと思います。
途中、雨が激しく降り出して視界が悪くなった際にも、どうしてもオートパイロットを信頼できず、自分でハンドルを握って運転してしまいました。視界が悪いからこそ、オートパイロットに頼りたいのですが、どうしても出来ませんでした。
この経験から考えても、人が自動運転を完全に信頼し、運転席に誰も座っていない車に安心して乗れるようになるには、まだしばらくかかると感じました。
単に「人間よりも安全」では不十分で、「人間よりもはるかに安全」なレベルに至らないと、「安心」して乗ることは出来ないということを身を持って体験したのです。その意味では、そこまで到るまでは法律でも認可すべきではない、と思います。多くの会社が、2020~2021年には完全自動運転を実現と宣言していますが(テスラは2018年)、「安心して運転をまかせる」ことが出来るまでになるのは、まだまだ先(5年~10年)だというのが、(もっとも進んでいると言われるテスラの自動運転で長距離ドライブをした)私の感想です。
4. テスラのSupercharger Networkが大きな差別化要因になること
これには気がついていない人が多いと思うのですが、テスラのSupercherger Networkは本当に素晴らしく、「電気自動車を買うならテスラ」と言える一番の理由になっています。ワシントン州はカリフォルニア州と比べてSuperchargerの数が少なく、そのため「どのSuperchargerで充電するのか」を選ぶ余裕はありませんでしたが、十分な数があり、Model Xとしては比較的電池容量の少ない75Dでも問題なく長距離ドライブが出来ました。
シアトルに住む私の知り合いの中で、日産リーフに乗っている人が二人いますが、どちらも長距離ドライブに使おうとは想像もしていないと思います。電池の容量が小さいのも理由の一つですが、テスラと違って、日産の充電設備はディーラーにしかなく、その結果、人口が少なくて日産のディーラーがないような地域を長距離走ることは、事実上不可能なのです(ショッピングセンターなどに設置された充電設備は使えることは使えますが、充電のスピードが遅くて話になりません)。
今後、フォルクスワーゲンやポルシェなどのドイツ勢が電気自動車に力を入れると言っていますが、テスラのSupercharger Networkに匹敵するのもを作るのは大変だし、そこが(少なくとも米国では)課題になるように思います。
5. Model Xは完成度の高い車であること
片道1200マイルの長距離ドライブは、自動車にとっては結構なストレスですが、Model Xは難なくこなしました。やわな車で長距離ドライブをすると、変な匂いや音がしますが、そんなことは一切なく、電気自動車らしい静かなドライブでした。ドライバーのシートも程よい硬さで、長時間ドライブでも腰が痛くなうようなことはありませんでした。
あえて欠点と言えば、助手席のシートが「寝にくいデザイン」である点で、二人で交代しながら長距離ドライブをする場合に、少し不便でした。
6. 妻を連れては長距離ドライブをするべきではないこと
これは個人的な話ですが、今回の長距離ドライブは、私の妻にとっては「とても不愉快なもの」だったようです。「一分一秒でも早く目的地に着きたいのに2時間に一度、強制的に休憩させられる」のは不便だったし、時速75マイルを超えて走ると燃費が悪くなるため速度を抑えたり、次の充電ステーションまで電池を持たせるために暖房を切ったりなどと「電池の残量を気にしながら走る」ことは不愉快だったようです。
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