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年金のプロが解説、知らないと損する「遺族年金」受給の特例

「遺族年金を受け取りたいけど、亡くなった家族が年金を未納にしていたから…」と諦めるのはまだ早いかもしれません。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、絶対に遺族年金を受け取れなそうな方が、ある条件を満たしていたために受け取り可能になるケースを、事例とともにわかりやすく解説しています。

遺族年金貰えないと思ってたら特例で受給できちゃった話(重要!)

人が亡くなった時の遺族補償は遺族年金が真っ先に思い浮かぶと思いますが、遺族年金は単に死亡したら遺族に必ず支給されるわけではありません。死亡者の今までの年金保険料納付記録とかの条件を満たさないといけません(既に年金保険料納付期間+免除期間+カラ期間≧25年以上あるなら問題無い)。

※注意

老齢年金のように10年以上ではない。遺族年金に関しては10年には短縮されていない

諦めるなかれ。年金を25年納めなくても貰える「カラ期間」とは

今回はどこをどう見ても遺族年金貰えないでしょ!? っていうような場合だったのに貰えちゃった! みたいな事例。

1.昭和29年6月5日生まれの夫(今は63歳)

何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)

昭和37年12月生まれの55歳の妻有り(8年前に今の夫と再婚)。平成13年2月生まれの現在16歳の子有り(前夫との間の子で現夫とは養子縁組している)。同居。

さて、この夫が20歳になる昭和49(1974)年6月から平成2(1990)年6月までの193ヶ月間は国民年金保険料全額免除。平成2年7月から60歳到達月の前月である平成26年5月までの287ヶ月間は未納にしてきてしまった。60歳までは国民年金に強制加入で国民年金保険料納付義務がありますが、60歳到達月以降は国民年金には加入しなくてよくなる(保険料納付義務がなくなる)。60歳以降というのは年金に加入する必要がない期間。

で、63歳になって人生初めて厚生年金に加入した(平成29年6月から)。厚生年金は最大70歳まで加入可能。給与(標準報酬月額)は月額30万円とします。賞与は無しだった。

しかし、平成29年12月31日に厚生年金加入中に死亡してしまった。遺族である55歳の妻や子に遺族年金は貰えるのか?

遺族年金を貰う条件である年金保険料納付期間+免除期間+カラ期間≧25年(300ヶ月)を見てみると、全額免除期間が193ヶ月と厚生年金加入期間7ヶ月(平成29年6月から平成29年12月まで)を合わせて200ヶ月しかないから無理

じゃあ、保険料納付要件である「死亡日の属する月の前々月までの保険料を納めなければならない期間」がある場合は、その3分の1を超える未納はない事が必要ですが、どう見ても無理(笑)。

死亡日の前々月までを見てみると、保険料を納めなければならない期間は20歳から60歳までの480ヶ月と厚生年金5ヶ月(平成29年6月から平成29年10月まで)の内、未納期間が287ヶ月もありますよね。287ヶ月÷485ヶ月=59.1%もの未納割合

しかし、保険料納付要件の特例がある。死亡日の属する月の前々月までの直近1年間に未納が無い事(65歳未満の人に限る)。つまり、「平成28年11月から平成29年10月」までの間に未納がなければ遺族年金が貰える

この夫は平成29年6月から平成29年10月までは厚生年金加入だけど、60歳をすでに超えていた平成28年11月から平成29年5月までの期間は年金に加入する必要が無かった期間。平成28年11月から平成29年5月までの7ヶ月は未納とみなされるのか?

この期間は未納扱いとはなりません。よって、直近1年以内に未納がないものとして特例を満たす。だから、妻に遺族厚生年金が支給される。

※参考

どうして年金保険料の未納は避けろ! ってうるさく言われるのか?(保険料納付要件参考記事)

いくらになるのか。

平成29年12月31日に死亡してるから、この12月31日が遺族厚生年金の受給権発生日になり、遺族厚生年金は請求により翌月1月分からの発生になります(請求が遅れても支給は最大5年遡る)。なお、厚生年金の資格を失くす(喪失)のは翌日の1月1日だから平成29年6月から平成29年12月までの7ヶ月で計算する。

計算はザックリですが算出してみます。この7ヶ月の給与平均(平均標準報酬額)を30万円とします。

・(30万円÷1,000×5.481×7ヶ月)÷7ヶ月×300ヶ月×3÷4=369,968円月額30,830円

なんで7ヶ月が300ヶ月になってるかというと厚生年金加入期間中の死亡は300ヶ月最低保障(300ヶ月みなし)があるから。更にこの死亡時点で、配偶者である妻に18歳年度末未満の子が居るから定額の遺族基礎年金779,300円と子の加算金224,300円も妻に支給。

※注意

この「子」は死亡した夫と養子縁組をしていたから妻に遺族基礎年金が支給される。前夫との子と死亡した現夫が養子縁組していなかったら遺族基礎年金は不可だった。遺族年金でいう子というのは、あくまで血の繋がりがある死亡者の子でなければならないから。血の繋がりが無くても養子縁組しておけば死亡者の子になる。よって、配偶者である妻に支給される遺族年金総額は遺族厚生年金369,968円+遺族基礎年金779,300円+子の加算金224,300円=1,373,568円月額114,464円)となる。

しかし、子が18歳年度末を迎えると遺族基礎年金779,300円+子の加算金224,300円がまるまる消える。という事は遺族厚生年金369,968円のみとなる。

ところが、この妻は子が18歳年度末を迎えた時点で40歳以上を満たしているので、中高齢寡婦加算という加算金が付く。中高齢寡婦加算金額は定額で584,500円

中高齢寡婦加算とは?(日本年金機構)

だから、子が18歳年度末以降は妻の遺族厚生年金369,968円+中高齢寡婦加算584,500円=954,468円(月額79,539円)となる。なお、65歳以上になると中高齢寡婦加算585,400円は消滅する。65歳以降は妻自身に老齢基礎年金が貰えるようになるから。

なお、65歳以上は遺族厚生年金は老齢基礎年金と同時受給が可能ですが、仮に妻が10万円の老齢厚生年金が貰える場合は遺族厚生年金がその額停止される。つまり、(遺族厚生年金369,968円-妻自身の老齢厚生年金10万円)+妻自身の老齢厚生年金10万円+妻の老齢基礎年金となる。だから、この時支給される遺族厚生年金は269,968円になるという事。これを先充て支給という。先に自分の老齢厚生年金を貰って(充てて)、差額の遺族厚生年金を貰うという事。

※追記

この妻の生年月日だと、妻自身の老齢厚生年金が65歳前から貰える人(条件を満たしていれば63歳から貰える)ですが、65歳前は遺族年金もしくは老齢厚生年金のいずれかを選択して受給する事になる。つまり、両方は貰えないから有利な年金を選んで支給してもらうという事。

image by: Shutterstock.com

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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