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沈黙の北朝鮮が再び発射。軍事評論家が分析した「火星15」の弱点

2カ月以上も沈黙を貫いてきた北朝鮮が、突如として大陸間弾道ミサイル「火星15」を発射。事態は再び大きく動き出しそうとしています。メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんは、新型ミサイルの威力と弱点を記すとともに、「北朝鮮が今回のように強硬姿勢をとらざるを得なかったのは、米中が結託して仕向けた可能性がある」との持論を展開しています。

※本記事は有料メルマガ『NEWSを疑え!』2017年12月4日特別号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:小川和久(おがわ・かずひさ)

1945年12月、熊本県生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。著書は『もしも日本が戦争に巻き込まれたら!』ほか多数。

これが「火星15」の致命的弱点だ

11月29日、2カ月半にわたって「沈黙を続けていた北朝鮮が大陸間弾道ミサイル火星15」(米国はKN-22と命名)を発射ハワイでも住民避難訓練が行われるなど騒然とした空気に包まれています。

まずは発射の経過、「火星15」のデータなどをおさらいしておきましょう。

11月29日午前3時18分(日本時間)、北朝鮮はロフテッド軌道で「火星15」を打ち上げ、4500キロまで上昇したあと、53分後に青森県の西250キロの日本の排他的経済水域に落下しました。普通の軌道で発射すれば13000キロに達し米国東海岸を射程圏内に収めると推定されています。

これについて、北朝鮮政府は「米本土全域を打撃できる超大型重量級核弾頭の搭載が可能な大陸間弾道ミサイル」と誇らしげに表明し、1日には平壌で祝賀集会が盛大に行われたようです。

この「火星15」は全長約21メートル。7月に2回発射された全長19メートルの「火星14」より2メートル長く、直径も50センチ以上太くなっているようです。これによって2段目は「火星14」より50%増しの燃料を搭載できるとみられています。

そこから推定される「火星15」は推力約80トン、推力50トン前後とみられる「火星14」をはるかに上回り、「火星14」のロケットエンジンを2基に増やした推力の強化ぶりがうかがえます。

今回も「火星14」に続いて2段式であることが確認されましたが、旧ソ連のSS-18、かつての米国のタイタンなど液体燃料を使った2段式は実戦配備されてきた前例もあり、北朝鮮が極端に時代後れだということにはなりません。いずれは3段式を手にすると思いますが、2段式でも必要な機能を備えればよいのです。

移動式発射装置(TEL)も、「火星14」の中国製8軸(16輪)より一回り大きい世界最大の9軸(18輪)を国産化したとしています。

2カ月半もの間、北朝鮮が「沈黙」していたのは、9月段階での米国の軍事的圧力に押しまくられた結果です。以来、金正恩委員長は10月7日の中央委員会総会での幹部人事も外交・経済を中心に行ったほか、軍関係の視察も行わず、経済建設を優先するような姿勢をことさらにアピールして見せます。

しかし、同時進行させていた崔善姫外務省北米局長らによる米国との接触も空振りに終わり、中国の宋濤特使(中国共産党中央対外連絡部長)の核開発に関する要求には金正恩朝鮮労働党委員長との会見なしという「ゼロ回答」せざるを得ませんでした。米中は申し合わせて北朝鮮がゼロ回答せざるを得ないよう仕向けた面さえ感じられます。

これに対して、米国は北朝鮮をテロ支援国家に再指定します。これは、4月7日にテロ支援国家に指定されているシリアが市民に大量破壊兵器サリンを使ったことに対して、トマホーク巡航ミサイル59発を撃ち込んだのと同じ立場を、米国に与えるものです。

米国は2月13日に北朝鮮が金正恩委員長の異母兄・金正男氏を化学剤VXで暗殺したことを理由にしており、トランプ大統領が来日中に拉致被害者の家族と面会したことも、拉致というテロを実行した北朝鮮にテロ支援国家再指定をほのめかすものでした。

これに対抗して強硬姿勢を示さなければ金正恩委員長の独裁体制の基盤は揺らぎかねません。さりとて、米国の軍事攻撃を誘発するような太平洋に向けての大陸間弾道ミサイルの発射はリスクが大きすぎる。そこで、ミサイル開発の重要なステップである再突入体のテストも兼ねて、ロフテッド軌道で日本海に向けて発射したと考えるのが自然でしょう。

そこで大陸間弾道ミサイル「火星15」ですが、致命的な脆弱性(弱点)を持っていることを申し上げておきます。本メルマガの西恭之氏のコーナー「テクノ・アイ」と合わせてお読みいただきたいと思います。

9軸のTELは全長が25メートル近い巨大な車両です。移動できるルートも限られています。液体燃料を使っていることもあり、1両のTEL当たり30両ほどの支援車両を必要とします。密かに米国などを狙おうにも、部隊の規模が大きすぎて隠密行動しにくいのです。当然、「大名行列」のようなTEL部隊の「巡回区域は米国と韓国に把握されていると考えるべきでしょう。

しかも、北朝鮮は「火星14」「火星15」のような長距離ミサイルについては、いまだに移動式発射装置の上に直立させた状態で、発射筒から高圧ガスで撃ちだし、射出したあとにロケットに点火するコールドローンチ方式を実現していません。

そのまま発射すれば「虎の子」のTELを壊す恐れがあることから、要所要所に設置したコンクリートを土台とする発射台の上に直立させて発射する方式をとっています。

この発射台は、いかに数多く設置し、巧妙に隠そうとも、発見されて破壊されてしまえばミサイルを発射できなくなるのです。破壊がトマホークのような精密誘導兵器を使って行われるのか、それとも特殊部隊が行うのかはケースバイケースだと思いますが、北朝鮮の長距離ミサイルが深刻な弱点を抱えていることがおわかりになると思います。(小川和久)

今回のまとめ

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image by: WikimediaCommons(Robert2004)

※本記事は有料メルマガ『NEWSを疑え!』2017年12月4日特別号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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NEWSを疑え!』(2017年12月4日特別号)より一部抜粋

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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