2020年に日本の大学入試制度が大きく変わることはご存知でしょうか? 現行のセンター試験から「大学入学共通テスト」に名称も変更となりますが、大きく変わるのはその中身です。メルマガ『木村美紀が明かす家庭教育の秘策』の著者で東大タレント・木村美紀さんは、今回の試験制度の変更でどのような変化が起こるかを分析。そして、これからの受験戦争を勝ち抜くために必要な「3つの要素」を教えてくれています。
日本の「受験戦争」は2020年に向けてどう変わるか
こんにちは!
冬の受験シーズンに向けて、いよいよ気が引き締まってくる時期となりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
最近、2020年に入試が大きく変わるというニュースが話題になっていますね。
そこで、今回のメルマガでは、”日本の「受験戦争」は2020年に向けてどう変わるか″をテーマに、受験や教育のあり方について考えてみたいと思います。
「2020年大学入試改革」とさかんに言われるようになってきましたが、まず、2020年度にどのように入試制度が変わるかをおさえておきましょう。
最も分かりやすい変化というのは、現行のセンター試験が2020年度から”大学入学共通テスト″に名称が変わり、出題形式も変わることでしょう。
まだ検討段階のようですが、徐々に方針などが明らかにされてきました。
ただ公表された内容は今後変更される可能性もありますので、ご注意を。
これからもしっかり動向を見守っていきましょう。
現段階で公表されている内容は、次のようなものです。
現行のセンター試験では、すべてマーク方式ですが、大学入学共通テストでは、国語と数学に、記述式問題が加わります。
国語は、80~120字程度の記述が3問程度、想定されているとのこと。
数学は、数1の範囲から記述が3問程度、想定されているとのこと。
記述の採点は、段階別で評価することが検討されているそうです。
また、記述式の追加にともない、試験時間も延長されるとのこと。
現行のセンター試験の英語は、主に「聞く力」「読む力」が問われますが、大学入学共通テストの英語は、さらに「話す力」「書く力」が加わります。
そのため、英語は民間の資格試験や検定試験が活用されるそうで、高校3年生の4月~12月の間に2回まで指定の試験を受けることになり、その結果が提供され評価の対象とされる方向のようです。
このように入試制度が変われば、もちろん教育制度も変わるし、受験生の対策の仕方も変わっていくでしょう。
どのように変化し、何が求められて、何が必要なのか、受験生は正確な情報をもとに、相応の力を身に付けなければなりません。
これからの入試では何が求められていくのか、受験を勝ち抜くためには何を身に付ければよいのか、私が考える3つのポイントをご紹介したいと思います。
1、時代に見合った対応力
入試というのは、学校がほしい人材を獲得するための関門です。
どんな人材がほしいかは、それぞれの学校のカラーにもよりますが、時代とともに変わっていくのではないでしょうか。
ものすごくシンプルな例え方をすると、機械やコンピューターが発達していない時代なら、まるでロボットのように正確かつ迅速に処理する人材がいれば、いろんな作業をする上では大変ありがたいわけです。
そういう時代なら、正確な情報処理能力を問うような問題を出して、情報処理能力の高い人材を選べばいい。
具体的には、制限時間内にとにかく多くの簡単な問題数を出して、回答数と得点率を競うようなイメージです。
知識があれば解けるような1対1対応のシンプルな問題でもいいから、ぱっと知識を引き出して、さっと早押しして正解できるような、そんな素早い頭の回転力をもった人材が重宝されるのではないでしょうか。
そういう人は、正確さと迅速さが求められる単純作業に向いていますよね。
ところが、時代が進化し、機械やコンピューターが普及するようになると、それまで人間がやっていたことは、かわりに機械がやってくれるようになる。そうなると、求められる人材も変わってくるわけです。
英語なら、英単語が発音できなくても、瞬時にコンピューターが発音してくれる。
国語なら、難解な用語でもコンピューターで検索すれば、瞬時に意味が出てくる。
数学なら、計算なんて電卓をたたけば、瞬時に計算結果が出てくる。
社会や理科だって、インターネット上で調べれば、たいていの知識はのっている。
知識を集積する、という人間がかつて必要としていたスキルは、簡単にコンピューターに抜かされてしまったといっても過言ではないでしょう。
そうなると、知識をいかに多く蓄えているかに価値が減ってきて、知識をいかに多様に活用できるかに価値が置かれるようになってくる。
100の使えない知識をもっている人よりも、5の使える知識をもっている人の方が生き残りやすくなるわけです。
例えば、英単語を1万語知っていても、1つ1つがバラバラの知識で、それを話すときに組み込めなければ、もったいないし意味がない。
それならコンピューターでもできるし、コンピューターの方が優れている。
それよりは、英語の熟語を100個くらいしか知らなくても、日常会話にいろんなシチュエーションで使える方が、価値が高いのでは。
少ない知識量でも、それをいかに組み合わせるか。
一つの知識でも、それをいかに生活でいかせるか。
そういったスキルが、今の時代では必要だと感じています。
単純作業ならば、おそらく機械は得意分野のはずだから、単純作業の仕事はどんどん機械にとってかわられるでしょう。
エレベーターにのる乗客の安全性を守るエレベーターガールは、今ではほとんどみかけなくなりました。
スーパーのレジは、最近はお客さんがセルフ清算できる所も増えて、以前よりも人件費もおさえられるし、効率的になってきました。
そのかわり、状況に応じて判断したり提案したりすることが必要な仕事、例えばコンサルティングなどの仕事も人気が出てきて、機械には真似できないスキルの価値が高まってきたように思います。
また、インターネットのデバイスを利用した仕事や、CGなど最新の技術を駆使したクリエーターなどの仕事も人気で、進化し続ける機械を道具にしながら新しいものを創造するスキルも、価値が高まってきているように感じます。
そして、グローバル化が進んで、外国との交流が増え、国境の垣根をこえて地球規模で技術や文化を共有する時代だから、英語を使って何かを発信したり生み出したりするスキルも重要ですよね。
このように、時代とともに価値基準は変わっていく。
その時代の流れをよみとって、時代の波にのりながら、その時に必要とされるものを身につけていれば強い。
受験とは、社会への入口であって、生き抜くための競争でもある。
受験は、進化し続ける時代を生き抜くための一歩でもある。
だから、サバイバル力がある人が勝ち残る。
使える知識をいかに持っているか、知識を組み合わせて新しい解決法をみつけられるか、社会に出て仕事にもいかせるような応用力があるか。
そうしたスキルが受験でも求められるようになってきたのではないでしょうか。
2、ホンモノの実力
受験には、小手先のテクニックというものが存在します。
本当は地道に基礎をコツコツ積み重ねてたどりつくはずの山頂へ、裏ワザテクニックを使って近道することもできます。
試験日まで時間がなくて焦ったときは、テクニックを重視して、とりあえず答えが出せればいいや、という発想に切り替える人もいるかもしれません。
テクニックというのは、例えば数学だったら、本来は地道に式をたてて式を変形して計算をしていくのが王道だけど、ある値を代入すればマーク式ならとりあえず答えは出てくるとか、この公式さえ覚えておけばとりあえず答えは出せる、といったような類のものです。
これは、マーク式の選択肢問題だからなせるわざであって、記述式では使えない方法であることもあります。
つまり、きちんと基礎を理解していなくても、何をやっているのかよく分かっていなくても、とりあえず正解はできる、という方法は、マーク式なら通用するけど、記述式なら通用しないということ。
ホンモノの実力があるかどうかが試されるわけです。
付け焼刃の間に合わせの知識でなんとかギリギリのりきってきた人や、小手先のテクニックに甘んじてその場をとりあえず乗り越えてきた人は、簡単に仮面がはずれて、ニセモノの実力しかないことが分かってしまう。
学校の定期試験なら、直前の一夜漬けでなんとかなってきた人でも、試験範囲の広い入試ではそう簡単にはいかないので、要注意です。
ホンモノの実力があるかどうかを、簡単に判別する方法があります。
それは、模試を受けることです。
学校の定期試験と、塾などの模擬試験の結果を見比べると、主に4つのパターンに分類できます。
- 定期試験○、模試○
- 定期試験○、模試×
- 定期試験×、模試○
- 定期試験×、模試×
この4パターンです。
定期試験○、模試○、つまりどちらも好成績の人は、ホンモノの実力者だといえるでしょう。
どんな問題がきても、この調子でいけば望みは高いはず。
定期試験○、模試×、つまり範囲の狭い定期試験は成績よくても、新しい問題が出題される模試になると結果が出ない人は、実力がホンモノではない可能性が高いといえるでしょう。
定期試験は、やるべき範囲が決まっているので、その範囲をとりあえず丸暗記すれば高得点がとれるけれど、模試は、何が出るか分からず初めて見る問題が多いので、丸暗記の勉強法では対応できず得点がとれない。
物事を理解して導けるようにするというプロセスが大事なのに、それをすっとばして丸暗記にたよって、丸暗記にはしってしまうと、目新しい問題がきたときに、やったことないからできるわけない、と勝手に脳が判断して、解く気をなくして諦めてしまいがちです。
これは相当リスクの高いゾーンだと言えるでしょう。
問題の相性によって、成績がかなりブレてしまうからです。
定期試験×、模試○、つまり定期試験は成績が悪いのに、模試になると高得点がとれるというタイプの人は、ホンモノの実力をもっているポテンシャルがあるのにも関わらず、実力の使い方を間違っているか、実力を出し切っていない可能性があります。
実力の使いどころを誤ったまま試験にのぞむのは、もったいない。
勉強法のアドバイス次第で、いくらでも伸びる可能性があります。
定期試験×、模試×、つまり両方結果が出ない人は、実力がまだ身についていないので、大至急対策を練る必要があります。
自分なりの勉強法に強いこだわりを持ちすぎて失敗するケースが多いです。
例えば、自分はどうしてもまとめないと気がすまないから、毎回カラフルできれいなノートづくりに時間をかけすぎていて、それに集中しすぎて、肝心な要点や効率性を見落としてしまっている。
その場合は、自分ならではのこだわりを一旦後回しにして、いつも忘れてしまう表がのっている教科書の該当ページに付箋をはるとか、まとめノートのかわりに重要なページだけをコピーしたファイルを作るとか、なんらかの工夫をして勉強法を変えるのも手です。
ホンモノの実力を持っている人は、勉強法を探ってみると、たいてい“後に残る″勉強ができている人が多い傾向にあります。
教科書を1冊読み終えたら、理解できる部分は理解に回して、どうしても覚えなきゃいけない所だけをきちんと抽出している。
理解すれば暗記しなくても大丈夫な情報をそぎ落としていき、繰り返しの定着が必要な情報だけをピックアップする、という圧縮作業ができている。
そういうタイプの勉強法なら、後に残るので、きちんと身に付いたといえるでしょう。
逆に、教科書を1ページめから、隅まで丸暗記しようとしている人は、丸暗記なんて時間がたてば忘れてしまうに決まっています。
なんとなく流れでふわっと理解したつもりになっている人は、つめが甘いので、マーク式は選べても、記述式になると得点できません。
自分の言葉できちんとゼロから説明できて初めて、本当に分かったと言える。
自分で授業ができるレベルにまでなって初めて、きちんと理解したことになる。
よく選択肢問題で、5つの選択肢から正しいものを2つ選べ、という方式で、2つとも間違える人は、まったく根本から理解できていないレベル。
1つは正解できても1つは間違える人は、つめが甘くて理解があいまいで、自分の言葉ではきちんと説明できないレベル。
こうした基準からも、自分がどこの位置にいるのか、ホンモノの実力を身に付けられているのか、判断することができます。
これからは、ホンモノの実力者が生き残るはず。どんな問題がきても、柔軟に臨機応変に対応できる力が必要です。
3、ブレない不動心
2020年度に大きく変わる、と聞くと、初めて大学入試を経験する受験生たちは、一体なにが起こるんだろう、対策はどうすればいいのだろう、と不安になってしまうかもしれません。
でも、そういう時こそ、動かない冷静さが必要です。
センター試験の形が変わったとしても、大学別の二次試験の対策をしている人からしてみれば、もうすでに十分対策をねっているので、たいした変化には思わないかもしれません。
知識にかたよった問題がへって、そのかわりに、自分の頭で考える力が必要な問題が増える、と言ったって、そんなことは何十年か前から徐々にシフトしてきていることであって、本質的には急激に大きく変わるということでもありません。
私が受験生だった十年以上前から、
「新しい問題を解決する思考力が必要!」
「自分の言葉で簡潔にまとめて表現する力が必要!」
「受け身ではなく主体的に、積極的に自ら学びとる姿勢が必要!」
と何度も繰り返し言われ続けてきました。
だから、今に始まったことではないように感じるのです。
受験といえども、関わっているのは学問。
学問の本質は、やっぱり根本的には揺るがない気もするのです。
それに、受験には、答えがあります。採点基準があります。
答えの用意された世界だから、大枠は決まっているはずで、それに自分を合わせていけばクリアしやすいと思います。
社会に出てから仕事をすると、答えがない世界が待ち受けている。
学問を追究して研究をすると、答えがみつからない世界がたちはだかっていて、真実があるのかないのかさえ分からないような深い世界が広がっている。
そうした社会への扉、研究への扉をひらくのが、受験。
受験には、人間が作った答えがある程度用意されているので、そんな難しく考えなくても、やるべきことをやれば、大丈夫。
やり方を間違ったり、見当違いのことをやって遠回りしたりしなければ、いつかはたどり着けると信じられる。
だから、ブレない不動心を持っていることが大切だと思うのです。
入試の方式が、目に見える形で多少変わったとしても、できる人はどんな形式でも勝ち残っていくだろうし、表面のことだけに惑わされずに本質を見抜くことが大事ではないでしょうか。
自分も長年の受験生活を経験して、さらに自分の周りをみていると、日本の受験戦争は、小学4年生くらいから本格的に始まるような気がしていて、中学受験という第一関門を突破してから、そのままの流れで大学受験もわりとうまくいく人が多いように感じています。
そのためには、なるべく早くから子供に適した環境づくりが大切で、受験をする道を歩みたいのであれば、幼少期からの家庭教育で差がつくし、小さいうちから学習習慣を自然と身に付けることが大切だと思います。
2020年度からどのように入試や教育が変わっていくのか、楽しみでもあり、期待する心もあります。
きっと時代に即した良い方向へ向かっていくような予感がしているので、動向を見守りながら、今後の学習や教育にいかしていければと思います。
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