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結局「子宮頸がんワクチン」は接種すべきか?生物学者の見解は

先に「日本人医師の国際的な賞の受賞を、国内メディアがボツにした裏事情」で取り上げた「子宮頸がんワクチン」接種の問題。わが子に接種させるべきか否かお悩みの方も多いかと思います。どちらにもメリット・デメリットがあるようですが、子宮頸がんと子宮頸がんワクチンについてもっと詳しく知ることができれば、自分なりの答えが出せるかもしれません。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの生物学者・池田先生がわかりやすく解説しています。

子宮頸がんワクチンについて

がんは基本的には遺伝子の異常で起こる病気だが、ウイルスが主たる原因となるがんもある。子宮頸がんのほとんどはHPV(Human Papillomavirus ヒトパピローマウイルス)の感染によっておこることが分かっている。ウイルスは生きた細胞に侵入して、その細胞の代謝機能を利用して増殖するが、侵入できる細胞は限定されている。HPVが侵入するのは、主としてヒトの上皮細胞である。皮膚とか喉の細胞、肛門の細胞、子宮頚部の細胞とかは、ターゲットとなりやすい。

HPVが皮膚に侵入すると疣ができる。しばらくすると免疫システムが働いてウイルスが排除されるが、かなり長い間、居残ることもある。こういう人と性交渉のような濃厚な接触をするとHPVに感染する恐れが強い。男は子宮を持たないので子宮頸がんにはならないが、感染した女の人では子宮頚部の細胞にHPVが居残って発がんに至る場合がある。子宮頸がんが性感染症と言われる所以である。

HPVがなぜがんを誘発するかというと、子宮頚部の細胞の中で、がん抑制遺伝子であるp53(よく知られたがん抑制遺伝子で、がんになりそうな細胞を自殺に追い込む働きを持つ)とRb(Retinoblastoma遺伝子:細胞分裂を抑制して、結果的に発がんを抑制する遺伝子)の働きを止めてしまうからだ。HPVはp53やRbが産生するタンパク質の働きを抑制するタンパク質を作ってこれらの機能を無効にして発がんを促進することが分かっている。しかしなぜ、皮膚に侵入したHPVは通常は疣を起こしても皮膚がんを起こさないかは、分かっていないようである。P53やRbはすべての細胞に存在しているのだから、皮膚の細胞の中でも、子宮頸がんの細胞で起こるのと同じ反応が起こって、皮膚がんが発症してもよさそうではないか。発がんのメカニズムはまだ謎だらけなのだ。

さて、HPVがヒトの子宮頸がんの原因であるならば、天然痘やインフルエンザと同様に、ワクチンを開発して未感染の女性に投与すれば、子宮頸がんの予防ができるのではないかと考えるのはごく自然の成り行きである。HPVの種類は沢山あって、良性のものからがんを引き起こす悪性のものまで数百種類もあるようだが、現在では有効なワクチンが開発されている。性交渉が主たる感染源だとすると、中学生では手遅れかもしれないが、小学校の中学年までに投与すれば、子宮頸がんで苦しむ女性を劇的に減らせることは間違いないだろう。

というわけで、国はワクチン投与を推奨したが、投与された少女の中に、全身疼痛から始まり、口内炎、記憶障害、学力低下等々のかなり重篤な副作用が起こるという事例が報告されて問題になり、現在ではワクチン投与を受ける人はずいぶん減ってしまったようである。この副作用にはHANS(HPVワクチン関連神経免疫異常症候群)という名前までついているが、本当にワクチンの副作用であるかどうかについては疑問なしとしない(もちろんワクチン投与の後で、上述の症状が出た少女がいたのは事実であるが、その原因がワクチン投与であるかどうかはまた別の話である)。似たような症状を訴える人はワクチンを打たなくても現れるからである。

副作用が出る人も稀にいるかもしれないが、副作用が出なければ将来子宮頸がんで苦しむリスクは大幅に減ることは間違いない。デメリットとメリットを計りにかけてどちらをとるかという問題である。私個人としては接種のメリットの方が大きいと思うが、こういうデリケートな問題に関しては、国が接種を強制するのも禁止するのもよくないと思う。自己決定が苦手な大方の日本人には、難しい話かもしれないね。

image by: Shutterstock

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