MAG2 NEWS MENU

日本の「名目GDPが過去最大」のウソを暴く、統計粉飾のカラクリ

年末の12月22日、過去最大の数字を更新した2018年度の当初予算案が閣議決定されました。政府・与党は、18年度の税収見込みも名目GDP増加についても高い数字を国民に示していますが、果たして私たちはこの数字を額面通りに受け取ってよいものでしょうか。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんは、これらの数字を「全くの誤り」とバッサリ。“粉飾されていない”真のGDPの値と、それらを粉飾した疑いのある政府・与党の思惑を読み解きます。

2018年度税収の過大見込みとGDP粉飾

2018年度の当初予算案が2017年12月22日、閣議決定された。あり余る無駄をさして削ることもなく、こんどもまた過去最大。財政の健康を顧みず、どうやらぶっ倒れるまで肥え太らせるつもりのようだ。

「いざなぎ景気」を抜く戦後2番目の好景気と吹聴し、バブル期並みの高い税収を当て込む。そのぶん国債発行を減らすことができたと、うそぶいて、健全化推進のフリをする。

バカも休み休み言ってほしい。どこが好景気なのか。59兆790億円もの税収見込み。前年度当初予算より2.4% の増加だ。これほど確保できると本気で思っているのか

社会保障費が膨らむ。そのための予算が増えていくのはやむを得ない。だが、目立つ当初予算段階では税収が増えるように見せかけ、目立たない補正予算でこっそり赤字国債を充てて税収不足分を穴埋めするという手法は、もう通用しない。

予算作成段階で税収の額をはじき出す前提となるのは、政府の経済成長見通しだ。これを18年度では1.8%とみて算定しているのである。民間予測を平均すると1.2%にすぎない。過大な見込みではないか。

国民はアベノミクスによってGDPが大きく上昇しているように思い込まされているかもしれないが、実際にはそんなことはない。

円安で株価が上昇し巨利を得た人は国民のごく一部だ。むしろ円安によって物価が上がるのに多くの人々の賃金はそのままだ。そのため実質賃金が下がり、消費は落ちて、大企業の業績が好調といわれる割にはGDPが伸びていない。

今秋の衆議院選挙で自民党広報が「名目GDPはこの5年間で50兆円増加! 過去最高の水準です」とツイートしたが、これは全くの誤りだ。

実は昨年12月8日、内閣府は2015年度のGDP確報値を発表したが、このときからなぜか新基準を用い31兆円も名目GDPをかさ上げしたのである。地味ではあるが、メディアはGDP算出基準の変更を報じた。

内閣府が8日発表した2015年度の名目国内総生産(GDP)の確報値は532.2兆円となった。研究開発費の加算など新たな基準に切り替えた影響などで、31.6兆円かさ上げされた。旧基準では500.6兆円に相当する。(日経新聞)

自民党本部は、恥ずかしげもなく、旧基準値と、新基準値をごっちゃにして、50兆円増加と、選挙用にホラを吹いた。

真のGDP推移はどうなのか。まずは内閣府の「平成23年基準改定の概略」なる資料で新旧の基準がどう違うのかみてみよう。

四項目中の一つ目は、デフレーター100とする基準年を平成17年(2005年)から平成23年(2011年)に変更するというもの。新基準の実質GDPは、2011年の名目GDPを基準とし、そこから物価の影響を取り除いた数値になる。

次に、国連で採択された最新の国際基準「2008SNA」に対応する、とある。これは、これまで「研究開発費だったものを投資とみてGDPに加えるという転換だ。経費だったものが逆に利益にカウントされるわけだから数字は大きく変わる。2015年度の場合、31.6兆円のかさ上げ分のうち20兆円近くを占めるとみられる。

クセモノは下記の三項目目だ。原文のまま記す。

3)また、各種の概念・定義の変更や推計手法の開発等も実施
・国際比較可能性を踏まえた経済活動別分類の変更(サービス業の詳細化等)
・供給・使用表(SUT)の枠組みを活用した新たな推計手法
・ 建設部門の産出額の新たな推計手法 等

なんのことやらさっぱり分からないが、モリ・カケ疑惑で悪名をほしいままにしたブラックボックス・内閣府の真骨頂ともいえる作文だ。「各種の概念・定義の変更」と書けば、何でも変えられる。「推計手法の開発等」「新たな推計手法」とあって、最後に「」をつければ、どのような数値の改変もお気に召すまま”だ。

研究開発費のかさ上げでは足りない分を、この恣意的なやり方で上乗せし、31.6兆円という数字をはじき出したとみるのが自然といえまいか。

新基準への変更により、2016年度の名目GDPは539兆円になった。これをもって過去最大値と政府は言う。

しかし、旧基準だと、過去最大は1997年度の521兆円であって、2015年度は500兆円にすぎない。2016年度の場合、旧基準値がないため正確な比較はできないが、おそらく97年度に比べるとかなり低い数字だろう。

新基準が旧基準よりGDPの数値を押し上げるのはよく分かったが、問題は、アベノミクスがスタートして以降異常に跳ね上がり続けていることだ。

1997年度は、旧基準521.3 兆円から新基準533.1兆円へ、11.9兆円増加した。2015年度は500.6兆円から532.2兆円へと31.6兆円ものアップだ。とても同じ算出方法が適用されているとは思えない。

しかもアベノミクスが打ち出された2013年度以降のかさ上げ額を並べると、13年25兆円、14年28.3兆円、15年31.6兆円。粉飾が粉飾を呼ぶかのように、年々増えている。

安倍晋三首相は2020年ごろまでに名目GDPを600兆円に増やす目標を掲げており、その達成のために内閣府が数字をつくりあげている疑いが濃い。

このように考えると、とてもアベノミクスで名目GDPが過去最大になったとは言えないわけだが、安倍首相は衆院選の遊説で「GDPは過去最高」「GDPを50兆円も増やした」と繰り返した。

GDPのいわば粉飾で成長戦略が奏功しているように見せかけている以上、当初予算の税収を過大に計上しなければならなくなるのは理の当然であろう。

このため2016年度の予算では、大幅な税収不足が発生するというお粗末な事態となった。昨年12月2日の毎日新聞。

政府は1日、2016年度の国の税収見通しを15年度実績(56.3兆円)を下回る55兆円台後半に下方修正する方針を固めた。円高などで法人税収が減ることが主因で、当初見積もり(57.6兆円)からの減額幅は1兆円台後半に上る。政府は月内に16年度第3次補正予算案を編成し、税収の不足分を赤字国債の追加発行で賄う方針だ。

円高という要素もあったかもしれないが、そもそも当初予算への税収計上が大甘だった。そのため税収が1兆7440億円不足し、補正予算で1兆7512億円の赤字国債を追加発行するはめになったのだ。当初予算の見栄えをよくし補正予算でハッタリ分の穴埋めをする図式だ。

さらに、今年7月に発表された2016年度の国の決算によって、最終的に税収は当初見込みより2.1兆円も下振れしたことが判明した。

GDPを粉飾し、巨額の年金積立金と日銀マネーの投入で株式相場をつりあげ正社員の有効求人倍率が1倍以上と言い募って、いかにもアベノミクスが成功しているかのごとく安倍政権は見せかけているが、いずれ大きな副作用となって跳ね返るだろう。

出口戦略のない無謀な財政・金融政策と、若者の働き手が減っている社会事情によって、アベノミクスの幻影がつくられている事実を、冷静に見ておく必要がある。

実際、国内の実質消費は低迷している。2013年度292.5兆円、2014年度291.8兆円、2015年度293.3兆円、2016年度292.5兆円。これで分かるように14年度と16年度は前年度を大きく下回っているのだ。

名目賃金が多少上がっても、それ以上に物価が上がっている。ゆえに実質賃金はアベノミクスが始まって以来、下落傾向だ。求人が増え、失業が減っていると胸を張るが、その最大の理由は、少子高齢化による生産年齢人口の急激な減少にある。アベノミクスのおかげでも何でもない

安倍首相は、景気動向指数の上昇をもって、好景気だと主張する。だが、この指数はすこぶる怪しい計算に基づいている。

内閣府のホームページに計算方法を示してはいる。しかし、(1)生産 (2)在庫 (3)投資 (4)雇用 (5)消費など9つの経済部門をあげ、「その代表的な指標を用いて、前月と比べた『対称変化率』を求める」…などと言われても、一般人にはチンプンカンプンで、検証のしようがない。裏を返せば、官僚がどうにでも数値を操作できるということにならないだろうか。

一部富裕層の能天気なものの見方はいざ知らず、「いざなぎ景気」とはほど遠いアベノミクスの現実。そのなかでつくられた6年連続で過去最大となる放漫予算。財政、金融、原発、社会保障…山積みされた難題を先送りし、増え続ける莫大な借金を将来にツケ回して、為政者たちは権力維持のためにせっせと税金を使い続ける。

政府がつくる需要の恵みに群がる企業は、束になって自民党に献金し、予算を確保する。18年度予算案に胸をなでおろしている経営者たちは来年もまた、有識者会議などで、政府に都合のいい発言をするのだろう。

 

新恭(あらたきょう)この著者の記事一覧

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 国家権力&メディア一刀両断 』

【著者】 新恭(あらたきょう) 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 木曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け