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柏崎原発「再稼働」にお墨付き。それでも脱原発できない日本の憂い

福島第一原発の悲惨な事故から8年目を迎える日本。世界が脱原発・再生エネルギーに舵を切るなか、日本はいまだ原発の輸出と再稼働にこだわり続けています。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんは、その理由について「原発技術大国としての囚われ、思い込み」が大きく関係していると考察。さらに、福島第一の事故原因について「隠ぺい」を繰り返す東電や政府の対応を厳しく非難しています。

柏崎刈羽原発再稼働は愚の骨頂、原発ゼロ・再エネ重視へ政策転換を

世界は脱原発、再生可能エネルギーの時代に向かっている。日本は原発の輸出と再稼働にこだわり続ける。原発技術大国であるがゆえの囚われ、思い込みによって呪縛がかかった状態だ。

福島第一原発の未曾有の大事故を起こしながら、情報を隠蔽し、責任逃れを画策してきた東京電力。その原発事業者としての適格性をあれほど疑っていた原子力規制委員会は、安倍政権と経済界の望み通り、柏崎刈羽原発6,7号機が新規制基準に適合しているとお墨付きを与えた。

適格性への疑問とは、情報の隠蔽、もっとはっきり言えば、ウソつきであることだ。

記者たちが休み体制に入り、おせち記事、おせち番組に紙面も画面も占められるなか、昨年末、東電をめぐるニュースが相次いだ。

その一つは、「まむしの善三」第三者委員会の化けの皮がはがれ、「炉心溶融隠し」をめぐる真相が明らかになったことだった。

やっぱり、炉心溶融を隠そうとしたのは東電自身の判断であり、当時の菅直人首相の指示ではなかったのだ。第三者委員会の報告に疑問を抱いた新潟県が東電と合同検証委員会をつくって、あらためて調査し直し、確認した。

「まむしの善三」こと、佐々木善三弁護士(元東京地検特捜部副部長)らの第三者委員会は東電の責任逃れに加担しようとしただけなのである。

第三者委の調査報告は以下のように、いかにも不可解だった。

官邸側から炉心溶融について慎重な対応をするようにとの要請を受けたと理解していたものと推認される。

「要請を受けたと理解していたものと推認」。あてずっぽうを吐露したような言い回し。これでは調査をしたといえない

福島第一原発事故から2か月もの間、東電が「炉心溶融」ではなく「炉心損傷だと世間を欺いたのは、官邸の指示があったから、と世間一般に思わせる意図がにじんでいた。

当時の官邸の主である菅直人元首相らに何一つ聞くこともなく、「推認される」のひと言で片づけ、本来なら客観的事実に基づくべき第三者委の役割を果たそうとしなかったのだ。東電トップへの忖度”が働いたとしか思えない。

新潟県と東電の合同検証委員会がこのほど公表した調査結果によると、東電の清水正孝元社長は、「炉心溶融という言葉は使うな」と社内に指示したのは自身の判断だったと証言したという。

「まむしの善三」委員会になぜそのような証言ができなかったのか。記憶が定かでないと逃げを打ちながら、会社が雇った弁護士らに都合のいい「推認」をしてもらうというのは、あまりに姑息である。

福島第一原発の事故は、大地震や津波に対する十分な備えをしてこなかったための人災であることは言うまでもない。そのうえに大切な情報を隠ぺいする。

そんな企業が柏崎刈羽原発を動かす資格があるのか。原子力規制委員会はその点を重視してきたようにみえた。

今の委員長、更田豊志委員(当時)と前の田中俊一委員長(同)が東電の説明に怒りをあらわにした昨年2月14日の規制委会合を思い出す。

東電の柏崎刈羽原発では、2007年の新潟県中越地震で緊急時の対策室を含む事務本館が被災し、初動対応が遅れたことから、大地震に備えた緊急時対応施設として免震重要棟を新設したが、その後に定められた新基準で求められる耐震性を有していない。にもかかわらず東電はこれまで、十分な耐震性が確保されているとして規制委に諸々の説明してきたことが、この会合で判明したのだ。

更田委員は「これまで私たちが受けてきた説明とは著しく異なる」と憤った。

「審査している人がおちょくられている感じ」と田中委員長は後日の会見で不快感を示した。

国の支援で生きのびている東電は、柏崎刈羽原発の再稼働によって経営の建て直しをはかりたいのだろうが、福島第一原発の痛恨の事故を経ても、自ら全責任を負おうとせず不都合な真実を隠ぺいする官僚体質が抜けないままである。

それでも、規制委員会は国策に従い、新規制基準に適合していると認定した。

新潟県や県民らの再稼働に対する厳しい声が上がるなか、規制委は昨年夏以降、「適格性」の問題をクリアしたように見せかけるための方法をあれこれ考えた。

7月には、東電の経営陣を呼んで安全に対する姿勢を聴いた。8月には、「経済性を優先して安全性をおろそかにすることはない」との文書を東電に提出させた。

こんな形だけのことで安全が担保されるわけはない。多くの国民が納得できないはずだ。

原子力規制委員会は、規制側の役所が専門性に優る東電の言いなりになり「規制の虜」と化していた過去への反省から新設された機関である。

とはいえ、その事務局である原子力規制庁は、資源エネルギー庁、旧原子力安全保安院、環境省から送り込まれた官僚が幹部に就き、職員も一部の課を除き、ほぼそっくり保安院から移動している。原発存続を前提とし、再稼働させるための装置と見ることもできるのだ。

しかし本当に、このようなエネルギー政策を続けてよいのだろうか。世界の趨勢から取り残されはしないだろうか。

先進国では原発の競争力が低下し太陽光発電が息を吹き返した。ガスと再生可能エネルギーの二強時代がやってきている。

「シェール革命」でガスの価格が下がり、発電用燃料としてのガスの競争力が高まった。一方、太陽光発電も業界の想定以上にパネルや建設価格が低下し、急速に拡大している。

2016年の世界の太陽光発電設備の新規導入量は7660万キロワットと、前年比50%も増えた。けん引役は中国と米国だ。

国際的な太陽光の発電コストは、2017年では1キロワット時あたり9セント弱まで下落しており、これが2020年には3セントまで下がると予測されている。

再生エネは発電量が変動しやすいため、安定性の確保上、運転の立ち上げが容易なガス火力と併存すれば、すこぶる相性がよい。しかも、いずれのコストも下がっている。

蓄電池の性能向上やITを活用した需給予測で再生エネの使い勝手は格段によくなってきた。ガスと再生可能エネルギーの二強時代が想定されるのはそのためである。

日本はまだメガソーラー開発の歴史が浅いこともあり、1キロワット時あたり17.2円(15.3セント)弱と、国際的にみて、まだ高コストではある。それでも近い将来、低コスト電源になっていくのは間違いない。

原発のコストが安いというのはウソで、むしろ高くつくことや、事故が起これば国が亡ぶかもしれない危険なシロモノであることが分かった今、一刻も早く脱原発に向かうべきである。

本当のところは、どんな金融機関も原発に投資したり融資したいと思わないだろう。いざとなったら国民の税金でなんとかするという国の姿勢が続いているから、成り立っているだけのことだ。

昨年11月末に、資源エネルギー庁が発表した「2030年エネルギーミックス必達のための対策」によると、わが国の電源構成は2016年度の場合、火力が83%で、再エネが7.8%、水力7.5%、原子力2%であった。

2030年度には火力を56%に減らし、その分、原子力を福島原発の事故以前の25%に迫る22~20%程度まで復活させるとしている。そして、肝心の再エネは22~24%である。

他の先進国の再エネ導入目標はドイツが2030年に50%以上、英国が2020年に31%、原子力依存度の高いフランスでも2030年に40%という数字を掲げている。

それから考えると、日本の再エネ目標はあまりに低すぎる。福島の事故後、原発が稼働しなくとも国民生活に影響がなかったことからみて、原発ゼロ、再エネ比率45~50%というあたりが、災害の多いこの国では妥当であり、「脱原発は非現実的」という指摘はあたらないのではないだろうか。

その意味で、今月10日に予定されている「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」(会長・吉原毅城南信用金庫顧問)の記者会見が注目される。

小泉純一郎氏細川護熙氏らが熱心に取り組んでいる運動であり、「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」を発表して、立憲民主党や公明党など与野党に幅広く連携を呼びかけるという。

うまくコトが運び通常国会に実際の法案として提出されるなら、電力会社など原発関係のスポンサー企業や電通に気兼ねしていたマスメディアも、そうそう無視はできまい。

送配電線への再エネ電力の連結にかかる追加工事や、買い取り価格などの問題をあげて、大手電力会社は十分な送電枠を再エネ業者に開放していない。再稼働にそなえて原子力の枠を確保しておきたいということがあるのだろう。

もちろん原発を止めても後始末の方法すら確立されておらず、放射能の脅威はいつまでも残るのだが、それでもまずは再稼働をストップしたい

政府が明確に脱原発、再エネ拡大の政策を打ち出し、原発という目先の方途さえ閉ざせば、脱原発の技術開発に国を挙げて取り組むほかなくなるだろう。

廃炉事業、自然エネルギー産業という新分野がこの国の経済を再び飛躍的に押し上げる起爆剤になるかもしれない。

image by: WikimediaCommons(Triglav)

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