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NYの移民と話せば、日本に生まれただけで人生はイージーモード

歯止めのかからない高齢化・少子化、広がる格差など、多くの問題が山積している日本。しかし、世界に目を向ければ「足のつくプールであることは明らか」と語るのは、メルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』著者で米国の邦字紙「WEEKLY Biz」CEOの高橋さん。ニューヨークで聞いた、日本人には想像もできない、亡命者や移民の人々の辛すぎる過去と現実とは?

日本は足のつくプール、世界は溺れ死ぬ海

NYで生活してると、いつも思うのは「今の日本は足のつくプールなんだろうなぁ」ということ。

万が一、溺れることはあっても、溺れ死ぬことはない。なにをしたところで、300円台で牛丼が食べられる国は餓死したくてもできない。 結局、セーフィティなんだと思います。(しかも結構、美味しいし!)

(ただ平和すぎて「半年前の流行語を会話の中で使った」りした日には村八分、という違う怖さもありますが)

ニューヨークですらそう感じるのだから、内戦のある国や貧困問題を抱えている国の人だとなおさらだと思います。

知り合いのイスラエル人女性とお茶したところ、彼女は「母国に帰りたくない」と言います。 女性の徴兵制がいまだ存在するイスラエルには「怖くて帰れない」と。もう一生足を踏み入れることはない、とまで言いました。

毎年お盆のたびに、地球の裏まで里帰りしている僕からすると、「生まれ故郷に二度と足を踏み入れることはない」というのはどんな気持ちなんだろうと想像します。

弊社編集部はマディソンアベニューの40丁目という、マンハッタンのど真ん中に位置しています。 ロケーションだけは本当に、ニューヨークの真ん中の真ん中の真ん中です。 地理的にはあのタイムズスクエアよりも、あのグランドセントラル駅よりも、真ん中です。(実はタイムズスクエアってちょっとだけウエスト寄りで、グランドセントラル駅ってちょっとだけイースト寄りなんです)

タイムズスクエアとグランドセントラル駅のちょうど中間地点にあるほどのど真ん中にもかかわらず、ビルの1階ロビーにいるセキュリティーのコロンビア人のカルロは、いつもギターを弾きながら歌っています。 平日の日中に、です。 そのこと自体、この街では特に珍しいことではないので、テナントのニューヨーカーはみんないつも素通りしています。(日本だと物珍しがってくれて地方局とか取材してくれそうだけど)

とにかくいつも明るく、C-POP(コロンビアのポップソング?)をマンキンで歌っています。 日中、僕が外回りから帰ってくると「セニョール!フォー・ユー!フォー・ユー!」と両手で迎え入れてくれて、頼んでもないのに僕の為に一曲弾き語りをしてくれます。 もちろん歌詞はスパニッシュ。 ラブソングなのかバラードなのか内容はサッパリです。

でも曲調から想像すると絶対バラードなわけがないほどの明るく、陽気で、ポップなソング。特に真夏日なんて、外回りから帰ってきたら、真っ先にエアコンの効いている編集部に戻りたいわけです。(NYあるあるなのですが、暖かい国から来た人たちは、周囲がどうあれ絶対エアコンをつけてくれません。雇い先のNYのど真ん中のオフィスビルのロビーであれスイッチを入れない)汗ダラダラで、まったく内容のわからない歌を作り笑顔でとりあえず最後まで聴きます。やっと終わってくれたかと拍手をしかけたところ数秒の沈黙後再びギターをかき鳴らします2番始まっちゃったよ、と天を向く。

ある日、カルロに聞きました。「どうして、そんなに明るいの? 人生なにがそんなに楽しいんだよ?

身長150センチ台の、抱えたギターとピッタリ同じ長さの上半身をしたエクアドル人は僕を見上げながら、キラキラした目で答えました。「人生のどこが楽しくないんだい!? 人生は素晴らしいじゃないか!」(頼んでいないのに、そこからまた歌い出す)

聞けば、彼は国の内戦から亡命してきたとのこと。両脇に二人の子供を抱えて地雷を踏まないようにしてこの国に逃げてきたのだとか。そりゃあ、歌も歌いたくなるよ。(今度は3番まで聴こう)

彼とは10年来の知り合いですが、当初はまったく英語を話せませんでした。今でこそ普通に英語でコミュニケーションをしていますが、今でもそんなに流暢ではありません。スパニッシュなまりのカタコト英語です。でも、彼にとっては(そしてそれを聞く多くのニューヨーカーにとっても)どうでもいい。 大したコトじゃありません。 少なくとも自分と家族の命を地雷で奪われることはない。働けるのなら地雷を踏まなくて済むのなら言葉なんて大きな問題じゃない

そして、この街はカルロみたいなバックボーンを持つ人間が数えきれないほどいます。移民のほとんどは程度の違いはあれこんな感じだと言ってもいいくらい。

そんな街から来た僕に、「TOEICで何点とったら渡米しようと思ってます」「NY行きたいけど、まだLとRの発音の違いに自信がないんっすよね~」と相談に来る日本の若い世代が後を絶ちません。もちろん留学する便宜上、大学によって必要なTOEFLのスコアなりがあることは理解できるけれど、逆を言えば「テストの結果次第」で変わる人生を歩もうと思っています、とも聞こえます。

その都度、カルロにこのことを話すとなんて言うだろう、と、その日以来考えるようになってしまいました。(その前に、ヤツはTOEICの存在自体知らないんだろうけれど)

やっぱり日本は足のつくプール(しかも、ちょっと気持ちいい温水プール)。弱火でコトコト煮込まれて気づけば死んじゃうカエルになる前に自力で行動すべきだと思わずにはいられない。

もちろん、内戦や貧困が顕著な国と比べられても想像つかない、実際の日本はそうではないのだから、という気持ちもわかります。

でも、世界はこうなんだということを、知っていると知らないでは大きな違いなのではないかと思います。行動して失敗したところで今の日本で死ぬことはない。地雷を踏むことはない。そう思えば、飛び出しやすくなるのではないでしょうか。

image by: Shutterstock

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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