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トヨタは知っている? 急速な「EVシフト」に潜む不都合な真実

かねてから「近い将来、世界的にEV(電気自動車)の時代が来る」との見方を示しているメルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的プログラマーの中島聡さん。今回は、あえて自身の考え方とは「真逆」の意見を取り上げ、世の中のEVシフトにあたっての不安要素を明らかにしつつ、2030年時点で何パーセントがEVシフトするかを予測しています。

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私は電気自動車へのシフト(EVシフト)はすでに始まっており早急に対応できない自動車メーカーは時代に取り残されると指摘して来ましたが、この記事は、それに真っ向から反対する意見です。

あえて自分と異なる見方をする人の意見を聞くのも、とても良い勉強になるので、あえて紹介します。

BEV(バッテリー電気自動車)に求められるバッテリーの容量はハイブリッド(HV)の10倍は超える。そういう大容量のEV用電池を1000万台分作れるメーカーはない。1社で、ということではなく、バッテリーメーカーの総計をしてもそれだけの生産量は確保できないのだ。

この指摘は非常に正しく、だからこそテスラは莫大な投資(ギガファクトリー)をして自らバッテリーメーカーになることを決めたのだし、中国はそれをさらに上回る投資をしているのです。つまり、「電池が足らないから EVシフトは早急には起こらない」という立場に立つか、「電池が足らないならば自分からバッテリー工場を建て自ら EVシフトを加速しよう」という立場に立つかの違いであり、どちらが正しいという話ではないと思います。

生産設備だけでなく、希土類や希金属などの原料も足りない。ここしばらく中国で希土類の採掘が加速していたのは環境を無視した採掘方法で構わず掘っていたからで、無理がたたって環境が悪化し、今やそんな方法では採掘できない。その上、肝心のエネルギー源たるインフラ電力が足りない

これは、とても鋭い指摘で、私のようなEVシフトに楽観的な見方をしている人でも、このレアメタル不足は一番の懸念です。もしレアメタルが供給不足で高騰すればEVシフトの足を引っ張ることになるのは間違いないと思います。その意味でも、安定したレアメタルの供給ルートを確保することは重要だし、レアメタルに依存しない電池の開発も重要なのです。

さらにEVが夜間のほぼ同じ時間に集中的に充電を始めた時、膨大な電力をどうやって発電し、どうやって送電するのか? その現実的な話に対する合理的な説明を見たことがない。現実を無視した無責任な理想論に過ぎない。

この発言はEVを持つ人の行動パターンを理解していないから出る発言です。電力会社は、電力の需給のバランスに従って電気料金を変えるので(供給が上回る時間帯を安くします)、EVを持つ人は、タイマーを使って、もっとも安い時間帯に充電します。今は、たまたま真夜中が安いので、その時間に充電しているだけです。なので、EVを持つ人が増えて真夜中の電力需要が上がれば電力会社はその時間帯の電気料金を上げるだけで、人々は別の時間に充電するようになります。

確かに、世の中の方向性は緩やかにEVに向かっていくだろうが、おそらく2030年時点でもBEVの比率をグローバルで10%に乗せるのは相当難しい。2040年でも1/3には届くとは考えにくい。

具体的な数字を予想することは非常に難しいのですが、中国政府が猛烈な進化圧を加えていることを考えれば、2030年までに中国国内の電気自動車の比率が30%や50%になっても全く不思議はないと思います。これはヨーロッパも同じで、既に「2040年までにガソリンやディーゼルで走る車をゼロにする」と宣言したのですから、2030年の時点で10%以下にとどまることなどはあり得ず、少なくとも20%とか30%になっていると予想できます。

米国も共和党政権のままでは、国をあげてのEVシフトはしないでしょうが、カリフォルニア州を含む西海岸のリベラルな州はEVシフトを加速するし、政権もいつまでも共和党のままではないでしょうから、2030年までの間に、再び国としてEVシフトに力を入れる可能性は十分にあります。

そうなると、レアメタル不足による材料の高騰などがない限りは、2030年時点で電気自動車の比率を10%に載せることは十分に可能だというのが私の見立てです。

A Decade after DARPA: Our View on the State of the Art in Self-Driving Cars

自動運転技術を開発しているArgo AIのCEO、Bryan Saleskyによって書かれた、自動運転技術の開発の現状報告です。

注目すべきは、以下の段落です。

We’re still very much in the early days of making self-driving cars a reality. Those who think fully self-driving vehicles will be ubiquitous on city streets months from now or even in a few years are not well connected to the state of the art or committed to the safe deployment of the technology. For those of us who have been working on the technology for a long time, we’re going to tell you the issue is still really hard, as the systems are as complex as ever.

レベル4の完全自動運転を実現するためには、まだまだ超えなければならない技術的課題があり、後2~3年で商用化が可能なレベルには至らないだろうというコメントです。

これは、現在「自称レベル3」であるテスラのオートパイロットを使っている私の実感でもあり、2020年までにはレベル4を実現すると宣言している自動車メーカーよりは、実際に開発に関わっているBryan Saleskeyを信じたほうが良いと思います。

Tesla Model 3: The First Serious Review

Tesla Model 3で北米大陸横断(2860マイル)した人のレビューです。私もModel Xで長距離ドライブ(往復で2400マイル)をしたので分かりますが、長距離ドライブならではの問題点も出てくるので、とても読み応えのあるレビューになっています。

ほとんどの点で高い評価ですが、唯一の問題点として指摘しているのが、オートパイロットのUIです。Model S/Xと違い、Model 3は、ハンドルの上にあるコンソールがない上に、ハードウェアスイッチを極力排除しているため、オートパイロットがModel S/Xと比べて使いにくい、と指摘しています。

テスラは、近い将来にはレベル4(完全自動運転)を実現すると宣言しているので、Model 3のハードウェアはその時代に最適化したのではないかと筆者は指摘しています。

私の思うに、Tesla は Model 3の設計の際に、とにかく部品の数を減らして製造コストを下げることを最優先にしたため、これまでハードウェア・スイッチが担当していた仕事を(画面上の)ソフトウェア・スイッチで置き換え、かつ、コンソール・ディスプレイも排除してしまったため、こんな問題が出たのだと思います。

ソフトウェアなので、指摘されている問題の大半は、ソフトウェア・アップデートで対応できるように思えますが、「ハンドルの真ん中にディスプレイがないため運転中に目線を左右に動かす必要がある」という問題点だけは回避できないのが、少し悩ましいところです。

image by: Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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【著者】 中島聡 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 火曜日(年末年始を除く) 発行予定

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