先日掲載の「日本だけが蚊帳の外。北朝鮮問題の対話路線に乗り遅れた安倍官邸」でもお伝えしたとおり、日本以外の主要国が対話路線に舵を切ったとも言われる北朝鮮問題。そもそもこの「危機」の本質はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『高城未来研究所「Future Report」』では著者で国際政治にも精通する高城剛さんが、「私見たっぷりに」と前置きした上で米中朝それぞれの思惑を記すとともに、2018年の日本のトレンドが「親中」になるとの論を展開しています。
2018年、日本のトレンドは突然「親中」に
今週は、多くの質問を頂戴しております北朝鮮問題につきまして、私見たっぷりにお話ししたいと思います。
本メールマガジンで何度もお話ししておりますように、北朝鮮の動向は、中国次第となります。まず、近年を振り返りましょう。
2015年、朝鮮労働党創建70周年記念式典で、金正恩は中国序列5位の劉雲山と肩を並べて歓談して手を取り合うなど親密さをアピールしました。その時、中朝関係を「血潮で以て結ばれた友好」「金日成主席同志と金正日総書記同志が残した最大の外交遺産」であるとし、言われたようにミサイル発射を中止するほど、両国の睦じい仲がありました。
2016年、中国の習近平国家主席(および中央軍事委員会主席)は、人民解放軍の編成を中国全土を7つの地域に分けた「軍区」から5つの「戦区」に再編しました。この歴史的改革は、瀋陽、北京、蘭州、済南、南京、広州、成都の名を冠し、各省に設置された省軍区にまたがるため「大軍区」とも呼ばれていた軍区を、便宜上効率化を高めるための再編を行ったと言われていましたが、実際は瀋陽郡区の解体が目的だと言われていました。ここから、中国と北朝鮮の関係がおかしくなります。
「最強の軍区」と言われた瀋陽軍区は、朝鮮戦争勃発を受け「義勇軍」を送った中国の人民解放軍所属で最強だった第四野戦軍が前身で、これは朝鮮族らが中心となって編成された「外人部隊」でした。また、瀋陽軍区の管轄域には朝鮮族自治州も含まれ、軍区全体では、いまも180万人もの朝鮮族が居住しています。いわば、「瀋陽軍区」と北朝鮮の朝鮮人民軍は、国境をまたぎますが「同じ人々」なのです。それゆえ、金正日総書記も2009年以降だけでも、11回も瀋陽軍区を訪れていました。
この瀋陽軍区が、長い間に渡って北朝鮮を事実上コントロールしてきましたが、同時に北京中央政府としては、クーデターを起こす可能性が高い軍区としても考えられていました。それは、元々別の民族だったことや、北朝鮮の核開発と瀋陽軍区が結託して、北京中央政府を狙う(クーデターを企む)可能性があったからに他なりません。それゆえ、習近平国家主席は2016年に軍区を再編し、瀋陽軍区の力を削ぎました。これ以降、北朝鮮の暴走がはじまります。
現在、国境の向こう側にいる同民族の同胞を苦境に追いやった中国政府と、その裏側で画策する米国に対し、北朝鮮は挑発を行なっています。
本来なら、北朝鮮問題は、中国の内政問題とも言えます。しかし、北朝鮮が「バカじゃない」のは、矛先を中国ではなく米国に向けている点です。そうすると一枚岩ではない中国が、米国と北朝鮮の板挟みになるからです。つまり、北朝鮮は、長年駐留する在韓米軍より、同胞の中国国内の復権を第一に考えているのです。
軍区を改変しても、国境を超え同じ朝鮮族である中国の一部勢力と、そこと結託しようとする米国の一部勢力(主に軍産複合体とイスラエル)に対し、中国の内政問題として処理したい(戦争を起こしたくない)北京政府と、戦争ではなく緊張だけが必要なトランプ政権。このふたつの勢力が、北朝鮮問題の本質にあると僕は考えています。
もし、朝鮮半島で戦争が起きれば、中国は再編した軍区から大量の兵士を投入する必要があります。同時に、難民が中国に大量に入り込むことによって、中国東北部は混乱を極めます。この混乱を避けるために、中国政府は、同国内に抱える瀋陽軍区の利権を上手にコントロールする「時間」が必要となるのです。
2017年11月、トランプ大統領が訪中した際、中国は表に出ているだけで28兆円もの商談をまとめました。表向きは、貿易摩擦の解消ですが、実際に裏取引として囁かれていることが、いくつかあります。そのひとつは、米国がシリアで行なったように、突然北朝鮮に空爆を行わず、中国に時間を与えることだと言われています。
これにより、トランプと対立する軍産複合体配下と目されていた現日本政府は、米国のトランプ政権の意向により、急速に中国と協力体制になることを要されています。
米国の主流派が変わるたび、「親中」にも「反中」にも変わる日本。かくあり本年2018年、日本のトレンドは、突然「親中」になるのです。