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「プーチンを裏切れ!」米国に脅迫された、ロシアの新興財閥軍団

トランプ大統領の「ロシアゲート」事件をきっかけに悪化し続けている米ロ関係。アメリカはロシアの新興財閥にも圧力をかけ、プーチンを裏切るように仕向けているようです。米ロどちらとも良好な関係を保ちたい日本ですが、どのように動くのがベストなのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者でモスクワ在住、国際政治に詳しい北野幸伯さんが考察しています。

「プーチンを裏切れ!」アメリカ、ロシア新興財閥軍団を脅迫

久しぶりにロシアの話です。

日本には沖縄の領有権はない!!!

中国は、こんな主張をしている。それで、日本にとって最大の脅威になっている。私たちは、リアリズムの大家ミアシャイマーさんや、世界一の戦略家ルトワックさんの戦略に従い、「日米ロで連携し、中国を動けなくする」という道を探ってきました。

トランプは、「親ロシア、反中国大統領」として登場したので、非常に期待していた。しかし、その後「ロシアゲート」が盛り上がり、米ロ関係は悪化し続けている(トランプ自身は、今も親ロシアです)。そして、米中関係は、アメリカが北朝鮮問題で中国の協力を必要としていることから、あっさり改善されてしまった。現在の米中ロ関係を、単純にいえば

こんな感じになります。しかも、アメリカはロシアへの攻撃を止めようとしません

アメリカ、「新興財閥ブラックリスト」を作成中

ブルームバーグに、こんな記事がありました。

米財務省がプーチン政権に近い新興財閥リスト提出へ-露富裕層は動揺

ブルームバーグ 1/16(火)13:30配信

 

米財務省はロシアのプーチン政権に近い新興財閥の寡頭資本家「オリガルヒ」の最初の公式リストを完成させつつある。これを受けロシアの富裕層は財産と名声を守る行動に乗り出している。

アメリカ財務省は、「プーチンに近い新興財閥リスト」を作成しているそうです。なぜ?????

このリストはロシアのエリート層のブラックリストに相当する見込みで、昨年8月にトランプ 米大統領が署名した法律で報告が義務付けられている。同法は2016年米大統領選への干渉疑惑を巡りロシアへの制裁を意図したもので、財務省と国務省、情報機関は180日以内に「ロシア政府との近い関係や純資産」に基づき対象者を特定する必要があり、期限は1月29日。
(同上)

「なぜリストを作っているのか?」。その理由が書かれています。

ロシアへの制裁を意図したもので

そうなんです。アメリカ政府は、このリストに基づいて、「新たなロシア制裁の内容を決定する。皆さんご存知のように、欧米日の対ロ制裁は、2014年3月の「クリミア併合」後、ずっと続いています。徐々に強化されている。そのせいで、ロシア経済はボロボロになっている。そして、ロシアでは、「今回の制裁は、かなり厳しいものになりそうだ」と噂されています。理由は、ロシアで3月に大統領選挙がある。アメリカは、できるだけプーチン再選を邪魔したいのですね。

ロシア、新興財閥の系譜

少し復習しておきましょう。1991年12月、ソ連が崩壊した。そして90年代、新興財閥が生まれてきました。90年代の後半、ロシアでは、「7人の新興財閥が、この国の富の半分を支配している」といわれたものです。彼らは、エリツィン大統領(当時)を操り、「新興財閥の許可なしで、首相を選ぶことはできない」といわれていました。プーチンも新興財閥に選ばれて大統領になったのです。

ところがプーチン、2000年に大統領になると、アッサリ彼らを裏切ります。というか、最初から「大統領になったら裏切る」という計画だったのでしょう。2000~03年にかけて、彼は、最強新興財閥3人を征伐しました。

一人目は、「クレムリンのゴットファーザー」と呼ばれたベレゾフスキー。彼は、国営テレビ局ORT(現1カナル)を支配し、好き勝手なプロパガンダをしていました。しかしプーチンに敗れ、ロンドンに逃げ、2013年に亡くなっています。「自殺した」といわれていますが、「暗殺説」も根強い。

二人目は、グシンスキー。ロシアの民放最大手NTVの創業者。「ロシアのメディア王」と呼ばれていました。この方は、「世界ユダヤ人会議の副議長も務めた超大物です。ところが、やはりプーチンとの戦いに敗れ、イスラエルに逃げました。

三人目は、ホドルコフスキー。彼は、当時ロシアの石油最大手だったユコスの社長。この方は、ユコスをエクソンモービル、シェブロンテキサコに売却する交渉をしていた。そして、欧米の支援を得て、プーチン政権を打倒しようとしたのです。しかし、逆に脱税容疑などで捕まり、シベリア送りにされた。2013年に釈放され、ロンドンに逃げました。今は、「オープンロシア財団」を率い、活発に「反プーチン活動」をしています。

ちなみに、ベレゾフスキー、グシンスキー、ホドルコフスキー、3人ともユダヤ系です。「陰謀論」ではありません。興味のある方は、調べてみてください。

さて、プーチンは、わずか3年間で新興財閥の超大物3人を打倒した。これで、残りの新興財閥軍団はプーチンに屈伏しました。「政治には口出ししません」と誓ったのです。「90年代に勃興し、2000年代はじめにプーチンに忠誠を誓ったグループ」、これが、新興財閥グループ1です。

さて、勝利したプーチン。彼は、信頼できる友人、部下たちを、経済の主要部門に送りこみました。国営石油会社ロスネフチは、ユコスを吸収して巨大化した。この会社のトップ、セーチンさんは、プーチンにもっとも近い人物として知られています。

国営ガス会社ガスプロムは、ベレゾフスキーのシブネフチを吸収し、さらに巨大化しました。ガスプロムのCEOはミレルさん。ミレルさんは、レニングラード財政経済大学を卒業後、サンクト・ペテルブルグ市役所に勤め始めた。その時の上司がプーチンだったのです。1991年の話。

この二人に代表される新興財閥(国営企業のトップを「新興財閥」と呼ぶのは変な感じですが、アメリカは、ロシア国営企業のトップも「新興財閥」と認識しています)。つまり、プーチンが絶対権力を握った後に超富豪になった人々。これが新興財閥グループ2です。

アメリカは、「ブラックリストに入れば」

てな感じで、脅迫していると想像されます(脅しの内容は、私の想像です。念のため)。「ブラックリストに入りたくなければプーチンを裏切れ!」と。こんな感じですので、「アメリカとロシアが和解して、日本と共に中国を封じ込める」なんて、「遠い話」ですね。

笑うのは習近平。またもや中国は、「二虎(米ロ)の戦いを山頂で眺める」ナイスなポジションを確保しました。日本は、「米ロ中関係は、こうなっているのだよ」ということをはっきり知っておく必要がある。その上で、

の順でいい関係を築いておく必要がある。大切なのは順番です。なんか安倍さん、最近は「中国との関係改善」を「最重要課題」にしている感じがしますが。中国との関係は、ニッコリ微笑んで、「こんにちは!」と言う。そして、「ではまた!」と言い、ニッコリ微笑んでわかれた。そんな感じでちょうどいいのです。中国と接近しすぎてアメリカとの関係を破壊することがないよう注意が必要です。

image by: SeaRick1 / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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