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ビットコインで借金地獄へ、素人は絶対「FX」に手を出すな

昨年は「仮想通貨元年」と呼ばれ、一挙に投機対象としての仮想通貨が日本中の投資家のみならず、学生や主婦にまで浸透した1年でした。この状況について以前から警鐘を鳴らし続けていたメルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的プログラマーの中島聡さん。今回は先日の仮想通貨バブル崩壊を受け、有名投資家・ウォーレン・バフェットの意見などを紹介しながら安易な仮想通貨取引の危険性を解説するとともに、この状況を放置する日本政府の至らなさに苦言を呈しています。

「理解できない」と言える強さ

ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツに続く、世界で三番目の大富豪であるウォーレン・バフェット CNBC によるインタビュービットコインについて尋ねられた時の答えが、とても心に響いたので紹介します。

We don’t own any, we’re not short any, we’ll never have a position in them. I get into enough trouble with things I think I know something about. Why in the world should I take a long or short position in something I don’t know anything about.

株の取引に関する専門用語がいくつか出てくるので、少し分かりにくい英語ですが、直訳すると、「ビットコインは全く所有していないし空売りもしていない今後もいずれのポジションを取る気もない。私は自分がそれなりに知っているものでさえ十分に苦労しているのに、なぜ何も知らないものに対してポジションを取らなければならないんだ?」となります。

ちなみに、longとは株の値上がりを期待して株を保有することで、shortとは株の値下がりを期待して株を空売りすること(自分では持っていない株を借りて売り、しばらくしてから買い戻して返済すること)です。そして「ポジションを取る」とは、l株の値上がりもしくは値下がりを期待して、longもしくはshortをすることです。

文中で「自分がそれなりに知っているもの」とは、彼の会社(Berkshare Hatherway)が株を所有するコカコーラやAppleのことであり、「何も知らないもの」とはビットコインのことです。

ウォーレン・バフェットが経営するBerkshare Hatherwayは、GEICO(保険会社)、コカコーラ、アメリカンエクスプレス、Wells Fargo(銀行)、IBM、Appleなどの会社に投資することにより成長してきた持ち株会社で、時価総額は今や$580 billion(約60兆円)です。

彼の投資戦略は、会社の財務諸表を徹底的に読みこなし、明朗な会計(つまり誠実な経営者)と健全なキャッシュフローを持つ会社の株を(適正価格より)安い時に買って長期保有すると言う非常に堅実なもので、多くの投資家たちから尊敬されています。

インターネットバブルや不動産バブルにも決して踊らされることなく、逆にリーマンショックで市場が完全に冷え切ったタイミングで資金繰りに困っていたGoldman Sachsに資金を提供し、その見返りに短期間に巨額の利益を上げることに成功しています。テクノロジーに関しても非常に慎重で、Appleに投資をしたのも、利益の割には株価が伸び悩んでいた2016年になってのことです。

そんなバフェットから見れば、2017年末のビットコインの高騰はバブル以外の何ものでもなく、当然、投資(long)の対象にはなりません。とは言え、ビットコインのように適切価格が存在しないものに対しては、たとえバブルが膨らんだからとは言え、空売り(short)の対象にもならないのです。

ここで注目すべきなのは、ウォーレン・バフェットほど経済や会社経営に詳しい人が、ビットコインを私には理解できないものと表現していることです。本当に頭の良い人、自信のある人だけが、自分が知らないもの理解ができないものを正直に「知らない」「理解できない」と言うことが出来るのです。

ビットコインに関しては、それに適正価格が存在しないことと、価格形成が人々の欲によるバブルであることだけが確実で、そのバブルがどこまで膨らむのか、そしていつ崩壊するのかなど誰にも分からないのです。

分からないものを分からない、知らないものを知らないと堂々と言える強さを、私自身も持ちたいと思いました。

FXと消費者保護

先週、見事に仮想通貨バブルが崩壊しました。

ビットコインは、誕生からこれまで何度もバブルの形成と崩壊を経験しているので、長期保有している人たちにとっては慣れた話かも知れませんが、最近ビットコイン市場に参入した人たちにとってはとんでもない話です。

特に問題なのは、ビットコインFX(本来FXは Foreign Exchangeの略なのですが、日本では証拠金取引の意味になってしまっているようです)と呼ばれる証拠金取引です。

証拠金取引とは、証拠金として取引所に預けたお金を担保にお金を借りて金融商品を購入する信用取引のことです。取引所によって最高倍率は異なりますが(法律では最高25倍まで許されています)、最高倍率25倍の取引所に40万円の証拠金を預ければ、1000万円の金融商品を購入することが可能になるのです。

この方法を使えば、購入した金融商品の価値が4%上がっただけで、100%のリターンを得られますが、それは逆に言えば、4%下がっただけで全てを失ってしまう、と言うリスクがある、ハイリスク・ハイリターンな投資です。

米国では、こんな危険な投資方法は、(一般消費者を保護するために)経験を積んだプロの投資家にしか提供されていませんが、日本ではほとんど規制がなく学生や主婦までがFX(これは本来の意味での、外国為替の証拠金取引)に手を出していると言う異常な状態になっています。

外国為替は大きく動いたとしても1日に数パーセントですが、ビットコインに代表される仮想通貨は、1日に20%動くのが当たり前です。そんな市場で、25倍の証拠金取引を許したら、あっという間に証拠金が吹っ飛ぶどころか、証拠金不足で消費者が借金を背負う可能性も十分にあります。

実際、今回の暴落時に、500万円の証拠金で5160万円分のビットコインを購入していた27才の青年が、暴落時に(証拠金不足を理由に)3750万円で強制的に売却され、保有期間の利息も含めて1600万円の損失を被ることになったと大騒ぎして注目を浴びています(参照:ビットコインFXの暴落で全資金を飛ばして追証となった経緯)。

この手の話があると、ネットでは「頭が悪い」「自己責任だ」と言う意見が飛び交いますが、私はそうは思いません。証拠金取引のリスクがどのくらい大きなものかをちゃんと理解できている人は、日本国民の半分ぐらいだと思います。残りの半分の人たちは、この手のリスクに関してのまともな教育も受けずに社会に放り出された無防備な人たちなのです。

法律とは、そんな社会の弱者を守るためにあるべきで、そもそも25倍の倍率というのが(外国為替のFXにおいても)高すぎるし、仮想通貨の証拠金取引など認めてはいけないのです。

私は、日本政府が世界に先駆けて仮想通貨を通貨として認めたのはとても良い決断だったと思います。しかし、その時点で、「仮想通貨の証拠金取引は一切認めない」という法律を作らなかったのは致命的な間違いだったと思います(今からでも遅くないので禁止すべきです)。

米国でも仮想通貨の取引を始めてしまった社会の弱者が大勢いますが、幸いなことに米国にある取引所では証拠金取引は不可能なので(よりリスクの高いオプション取引を可能にしている取引所もありますが、これはプロの投資家向けです)、日本のような悲惨な状況にはなっていません。とは言え、クレジットカードで借金をしてビットコインを買っている頭の悪い連中は結構いるので(参照:New Survey Reveals Staggering Number Of People Are Buying BitCoin On Their Credit Cards)、今回の暴落でクレジットカード地獄に陥る人も結構いると思います。

ちなみに、この件に関してTwitterでアンケートをとった結果がこれです。

予想通り「本人が悪い」と言う意見の人が大半ですが、私のように政府が悪いと思っている人も17%はいます。ちなみに、その他の意見として「バブルを煽るメディア」「個人再生を煽って手数料で儲けようとする法律事務所」などもいただきました。

メディアと言えば、ちょうど暴落の2日前(15日)に報道ステーションがビットコインの特集をやっており、ビットコインで1億円以上儲けた億り人」たちの集まりを紹介していましたが、まさにあれが「バブルを煽るメディアの典型です。

image by: shutterstock

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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