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NYダウ史上最大の暴落、AIによる「狼狽売り」で世界がどん底に

1175ドル安という史上最大の下げ幅を記録したNYダウ平均株価に連動するように、2月6日には日経平均株価が一時1600円も下落するなど株安の連鎖が続いています。好調とされるアメリカ経済ですが、何が株価を暴落させたのでしょうか。米国在住の作家で世界情勢にも精通する冷泉彰彦さんが、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、今回の株安の背景にあるものを探っています。

株安の背景に何があるのか?

金曜日の「NYダウ暴落」(2.5%)はそれなりに強烈で、週明けのNYがどうなるかは注目されていました。その前の月曜日の東京も下げていましたが、これは金曜のNYに呼応したもので、それ以上でも以下でもないわけで、とにかく週明け、月曜のNY市場が注目されていたのです。

その月曜日の市場ですが、終日ダラダラ下げて行って午後3時からの10分間には急落して前日比1,500ドル安、そこから急落分は戻したものの、改めて最後の30分はダラ安で4時少し前には再び急落して終わっています。結果的にNYダウは、1,175.21ポイントの下げで率で言えば4.6%のマイナスですから、これは大変です。

一体アメリカの経済には、何が起きているのでしょうか?

ちなみに、この金曜から月曜にかけての大きな下げですが、原因の筆頭にあるのはプログラム取引というシステムです。現在のNY上場株式というのは、その過半数がファンド、つまり投資信託が保有しています。そして、一種のAI(人工知能)とでもいうべき、高度なプログラムによって自動的に売買がされる仕組みです。

つまり、巨額な預かり資産をAIが管理しているようなもので、一定の下げ幅を超えると資産を安全に保護するために自動的に売りが入る仕組みです。そのプログラムというのは、特に現在は高速化されて瞬時に判断がされると、瞬時に売り注文が出て瞬時に売り成立という動きをします。ですから、この5日の月曜日、午後3時からの10分というのは、世界中でその種のプログラムが走っていたというわけです。

では、人工知能がこのまま暴走する中で、売りが売りを呼んで大暴落になるかというと、そこは一本調子に単純なプログラムになっているわけではありませんし、何よりも全体的なファンドのパフォーマンスは人間が管理しているわけです。安値感が出れば、そこを拾っていくという動きは人間もコンピュータも同じです。

それはともかく、今回の下げですが、理由としては「高値の修正」であり、想定された範囲という見方が多いように思います。修正というのは、市場が余りにも一本調子で上げてきたので、この辺で利益を確定しようという売りが出て、その結果として全体が下げることから、高すぎた株価水準が修正されるということです。

また、もっと具体的には、次のような説明もされています。つまり、2月2日に出てきた米国の雇用統計が良かった」つまり20万人の雇用増という数字が出たわけです。このままだと新しく就任したばかりの連銀のパウエル議長は「利上げ」に踏み切るだろう、ということで債券の金利が上昇し反対に株は下げているという解説です。

ということは、今回の株安の全体はあくまでテクニカルな下げであって、「アメリカの好況が続いていることを理由とした一時的なものということができます。

では、このまま楽観していていいのかというと、実は100%楽観というわけにも行きません。こうした下げが更に続いて行って、ある水準を超えて行くようですと、「株安から景気低迷そして景気低迷から消費低迷という負のスパイラルが動き出して、最後には「雇用の悪化」ということになります。

実は、アメリカの場合は一旦この「マイナスの方向のスイッチ」が入ってしまうと、なかなかそこから脱出するのは難しいのです。ですから、歴代の政権は景気対策に悪戦苦闘してきたのでした。

問題は、そうなった場合にトランプ政権が迅速に、そして的確に動くことができるのかということです。今回、1月30日(火)トランプ大統領は一般教書演説を行いましたが、考えてみれば、その内容の中には「これまでの景気拡大や株高を自慢する」という要素はふんだんに入っていたのですが、「ここから先の経済を更に力強くするという要素は少なかったように思います。

一つ大きな実績ということでは、昨年末に大規模な税制改正を成立させて「法人税の大幅減税富裕層を中心とした個人所得税の減税も実現しています。ですが、この減税については、そのプラス効果はすでに市場が織り込んでしまっているわけです。

そこで、年明けの現時点では、トランプ経済政策の第二弾として「全国のインフラ整備」ということが発表されるはずでした。30日の演説で大統領は、このことにも触れたのですが、内容は全く具体的ではありませんでした。特に、具体的に何をするかということでは全くの白紙状態でしたし、財源についても「連邦、地方(州)、民間」が協力するという言い方、つまり連邦政府としては経済的負担を渋るという言い方でした。

ということで、この「インフラ整備」が景気を引っ張るという感触は、現時点では全く生まれていないのです。そんな中で、4日の日曜日にはサウス・カロライナ州で貨物列車と特急列車が衝突事故を起こしていますが、ポイント故障によって2つの列車が同じ線路に入って正面衝突したというお粗末な事故であり、老朽化したインフラを象徴するような事件でした。

更に問題なのは、現在、アメリカにおいて進行中の新しいエコノミーについて演説では全く触れられていなかったということです。フィンテックも、そしてオトノマス・ビークル(自動運転車)も、家庭用電池も、スマートホームや医療技術の電子化を中心としたIoTについても「一言も触れられていない」という状態でした。

勿論、トランプ政権というのが「最先端の技術に関与して経済を引っ張る」人々の代表ではなく、「時代に遅れた人の恨み節を集約した政権だということはあるわけですが、少なくともアメリカという国の方針を示す「一般教書」において、最先端のエコノミーについて一言も触れることがなかったというのは、異常です。

いずれにしても、金曜と月曜の下げが起きた「だけ」の現時点では、世界経済も、投資家の人々も、パニックになる必要は全くありません。ですが、このまま景気と株価が停滞していくとなれば、それはトランプ政権の今後にも黄色信号が灯ったということになると思います。

image by: Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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