日本人の2人に1人が罹患すると言われている“がん”ですが、いまだに「がんサバイバー」の社会復帰への道のりは険しいようです。メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の著者で健康社会学者の河合薫さんは、がんサバイバーたちの「働きたい」という思いを紹介するとともに、東京都が新たに創設した「東京都難病・がん患者就業支援奨励金制度」のことも紹介しています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年2月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
がんサバイバーからの助言
2月4日は「世界がんデー」でした。
これは世界100カ国以上の350を超える対ガン組織からなる国際対がん連合(UICC)が定めた記念日。がんに関する意識と教育を高めることで、予防可能な死亡者を削減し、がんと上手くつきあっていくことを目的としています。
日本では2人にひとりががんになるとされ、男女とも50歳を過ぎるとがん患者は増加し、男性は55歳以降急増します。
私の周りの同年代の中にもがんと診断され、手術をしたり、今もがんと戦っている人たちがいるので、他人事ではないと痛感しています。
ところが、50代といえば働き盛りにもかかわらず、がんと診断された人の3人にひとりが依願退職したり、解雇されているのです。
政府は2000年から支援策を打ち出しているのですが、2003年が34.7%で、10年後の2013年でも34.6%と、離職する人の割合は10年間変化なし。
「がん罹患者への配慮内容等の教育」を行っている企業はわずか1%で、「がん等私傷病に罹患した従業員に対する柔軟な雇用体制」を提示しているのは16%、「がんに罹患した場合の相談窓口がある」も18%と、想像以上に企業の取り組みは遅れています(独立行政法人労働者健康福祉安全機構調べ)。
問題は企業だけではありません。
「医療者から働き方への助言をもらいましたか?」とがん患者に質問したところ、半数を超える54%が「誰からも説明されていない」としました(「がん罹患と就労調査2016」より)。
がんは種類によっても、ステージによっても、治療方法や体調が大きく違います。
その一方で、医学の進歩により治療法は日進月歩で生存率も高まってきました。
だというのに……、仕事との両立が難しい、これが現実なのです。
「人は人とかかわりたい.誰かの為、何かの為に役に立ちたいと思う生き物ではないか。死を目の前に突きつけられた時、人はそれでもそれだからこそ人と関わりたいと思うのではないでしょうか」
そう話してくれたのは、4年前にがんと診断され「余命1年」と告げられたARISUさん(仮名)です。
彼女は医師が驚くほど抗がん剤が効き、4年以上“がんサバイバー”としてがんばっています。
しかしながら、彼女の闘病生活は周囲の“無理解”との戦いでした。
がんと診断された直後、上司から「仕事を辞めて治療に専念しろ」と迫られ依願退職。
余命を大幅に超え、治療費も生活費も底を付き、病院に常勤するがん患者の就労支援をするキャリア・カウンセラーに相談したところ、
「あなたの状況で就職するのは無理」
と言われてしまったのです。
「『病院に来るな』って言われてる気がした」そうです。
その後、やむなく生活保護を申請し、一年以上にわたる就職活動をし、数ヶ月前に雇ってくれる企業に出会いました。
体力も低下し、治療などもあるので、週3回、一日3時間ですが、「それでもいい」と言ってくれたのです。
「仕事っていいですね!生きてていいんだと思える」(by ARISU)
仕事が日常に組み込まれていると、ついつい、仕事とお金は対をなしていると考えてしまいがちです。
しかし、仕事がある日常から外に出た人にとって、仕事は仕事、お金はお金。
生きていくためにはお金が欠かせないように、人が人でいるためには仕事が欠かせないのです。
実際、たとえ経済的状況が改善されなくとも、賃金の低い不定期な仕事であっても、働いている人は働いていない人より、活動的で自立心が高く、精神的にも肉体的にも安定していて、健康であることがいくつかの調査で明らかにされています。
「死を目の前に突きつけられた時、人はそれでもそれだからこそ人と関わりたいと思う」
とARISU さんは語っていましたが、私自身、人から感謝されたり、誰かの役に立ったことを実感できたりした時には、やっぱりうれしいし、自分には無理だと思っていたことができたり、自分の力を十分に発揮できた時もうれしい。
仕事があることで、アホな妄想をしなくて済んでホッとすることもありました。
東京都では、今年度2億円を計上し、治療と仕事の両立に配慮してがん患者を新たに雇い入れ、継続就業に必要な支援を行う事業主に奨励金を支給する制度を全国で初めて創設しました。
がんの人も、病気があっても、働き続けられる社会ーー。
それが当たり前になればいいと心から願います。
もし、あなたの周りにがんサバイバーの方がいたら、そっと傘を差し出してください。
私も隣に立つことくらいしかできないけど、心がけます。
image by: Shutterstock
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年2月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
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『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2018年2月7日号)より一部抜粋