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児童に対する嫌がらせも。「アルマーニの制服」は何が問題なのか

中央区立泰明小学校にこの春から「アルマーニの標準服」が導入されることが大きな話題となっています。賛否両論の声が飛び交い、同小の児童に対する嫌がらせ事案なども発生していますが、そもそも何がここまで問題視されるのでしょうか。米国在住の作家で教育者としての顔も持つ冷泉彰彦さんが、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、米国の「制服事情」も交えながらこの件について深く掘り下げています。

アルマーニ制服はどうして問題なのか?

銀座にある公立小学校が、アルマーニのデザインによる「標準服」を導入したことは、その価格が高額であることを含めて批判を受けています。私個人はいわゆる「学生服」一般には良い感情を持っていません。画一化のカルチャーが好きでないこともありますし、規範の決定者を養成するのが教育の目的だとすると全くの訓練放棄になるからです。

ですが、都市部の小学校については、そうした原則論以前の問題として安全面から制服が機能しているという点は否定できません。例えば、アメリカでは一般的に小中高の「制服」というのは多数派ではありませんが、都市部のカトリック・スクールではタータンチェックをトレードマークとした制服が今でもあります。

そうした場合は、保護者が子供の衣服に費用をかけないようにとか、貧富の格差が歴然としないようにというのが主旨とされています。ですが、これはほぼ建前であって、実際には特に都市部における通学時の安全を考えて制度化しているということが多いようです。

面白いのは、何でも自由主義者であるはずのビル・クリントン氏が大統領時代に「青少年の暴力防止には学校の制服が効果的」という主張をしたことです。これには、90年代には高校生を中心に都会の若者の暴力行為が社会問題になっていたことが背景にあります。

このように中高校生の場合は、子どもを「暴力など逸脱行為に走らせないための抑止効果というのが制服に求めれらているわけで、これは日本も同じです。ただ、現在の日本では制服というのは特に女子高生などの場合は「若さを見せつける誇らしい記号」という勘違いが自分たちにも周囲にもあり、制服が逸脱行為を誘発する面もあるわけです。

それはともかく、私立校のケースなどがそうですが、ワシントンDCやNYなどの大都市で通学圏が広域にわたるためにスクールバスを回しきれない、そこで公的交通機関で通学するという場合に、制服が安全面で子どもを保護するという機能を期待していると考えられます。

アメリカの場合は、州にもよりますが13歳以下の場合は子どもだけで行動されることはないので、細かな事情は少し違いますが、日本の都市部で小学生に制服を着せて登下校させるというのは、この「被害者にならないための安全確保という機能を考えているという点では同じことだと思います。

というのは、大人社会から見て「小さな子供が制服で登下校している」というのは社会全体として「保護しやすい」からです。困っていたら駅員や商店の人などが声をかけるというのもしやすいですし、仮に通常の通学ルートを大きく外れているとか、「親でなさそうな大人」との不自然な関係などが目立った場合も保護しやすいことになります。

つまり幼い小学生が制服で登下校しているというのは、社会から見て「公的な行為」であり、そのために「社会として遠巻きに保護」することが簡単になるのです。そのために制服というのは、「堅苦しいイメージが多少なりとも必要であり、デザイン的には禁欲的なものが要求されることから、フォーマルであったり、軍服を転用したデザインであったりするわけです。

今回の「アルマーニ制服」の問題はこの点にあります。まず、アルマーニというのは、立派なフォーマルもやっていますが、社会的な認知としては「禁欲的」というよりは「オフ向けのゴージャスなカジュアル」という記号になっているのではないかと思います。大人社会が「そっと見守って保護する」対象として「禁欲的な記号」を持つべき制服として、これはカルチャーとして少しずれているのではないでしょうか。

更に言えば、現代社会において子どもに対する加害者となるような心理を抱えた犯罪予備軍というのは、「自分は格差社会の被害者」などという勝手な自己正当化をしていることが多いわけです。仮にそうであるのなら、アルマーニという「格差の勝者という記号」を露骨に持っている制服には、危機管理上のメリットよりもデメリットを感じてしまいます。

今回の騒動で、学校やその生徒に対する嫌がらせが起きているという報道があります。全く筋違いであり、許せない行為であるのは間違いありません。ですが、そうした行為が横行することの中に、将来発生するかもしれないリスクを考えるのであれば、この際この「常識からズレた選択は思い切って止めるのも一手と思います。

校長先生は、バス通学の車内で子供が騒いで学校にクレームが入るのを何とか防止したいという思いを語っておられました。しかし、冷静に考えて、小学生の子供たちが「ブランド制服」ぐらいでお行儀良くなるというのは甘いですし、多少静かになったところで子や孫のいない一部の高齢者の子供嫌いには、どっちみち効果はないのではないでしょうか。

 

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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