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戦争は「準備」だけで十分儲かる。米国が北に仕掛けた戦争ビジネス

韓国で行われている平昌五輪の裏で、いまだ緊張状態が続いている北朝鮮とアメリカ。昔から「戦争は武器屋が儲かる」などと言われますが、実際は戦争の準備段階から復興まで、戦争は一連の完結した「ビジネスモデル」だという事実をご存知でしょうか。日本の北朝鮮研究の第一人者である宮塚利雄さんが主宰するメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では、米国防総省と共同研究経験の長いモンゴル金融経済大学の古畑貴志准教授が、アメリカと北朝鮮の「開戦危機」に見る戦争ビジネスモデルの実態について明かしています。

米朝戦争開戦準備に見る「戦争のお金と時間」(米国政府、国防省、軍事開発企業、大学研究施設を一例に)

米国での国防総省との共同研究経験の長い古畑准教授(モンゴル金融経済大学、University of Finance and Economics in Mongolia)は、8月末に軍関連施設にて研究発表を行った経緯がある。

そこで国防省関連施設で勤務している人物など関係者等の話を総合すると、米国軍自体は北朝鮮との戦争準備を夏前にほぼ完了させているのではないかと推測される。さらにこの秋2017年10月ごろには米軍は米国空港から、空港では乗客が基本的にはいないような午前3時ごろの深夜便で米軍兵士を韓国に送っている

同様にこの秋、米軍警察韓国の米軍基地では増員になっており、ついに韓国に人を送るという戦争準備の次の段階に入っている。また、古畑氏は様々な分野の関係者から「実はかなり以前から米軍は北朝鮮を想定した準備をしていた」と聞いている。複数の関係者からの情報をまとめると、以前から米国内の朝鮮半島の軍関係部署が大幅に増やされ、それにともない韓国北朝鮮担当の人員も増えており、軍の上官たちもかなりシリアスに物事を進めていたという。

実は国防省や米軍のような大きな組織は、突然の戦争の際に、速やかにかつ大規模に動けるのかというと、実はそんなことはない。火事が起きた時の消防署の動きをイメージするようにはいかないのである。実際に我々が想像している以上に国防省米軍が動く際には、ほんの些細な動きでも、じっくり時間をかけて準備をしてから動く仕組みになっている。

長年の米国防省との共同研究の研究経験から、ここでは戦争準備に関して、金や時間が米国政府において、どのように絡み合って関係しているのかを少しずつ紐解いていくと、米国の北朝鮮に対する様々な制裁、交渉、要求、武器の売買になぜこんなにも時間がかかっているのか、その一端を理解することができる。

戦争準備、軍事関連研究には、膨大な時間が必要

国防省軍事施設の日常の中の動きは、有事でも無い限り、実は一般に思われている以上に一般企業よりもかなりゆったりしている。仕事を頻繁に変える米国の文化では、企業はいつも緊張感をもって人が仕事をしている印象があるが、軍事関連施設では意外にもそうした印象は薄い。一般兵士は、通常ある程度の年齢になると退役するが、それらを除く軍高官や軍関連研究施設の人間は安定して長く勤務できるため、こうした職は雇用が不安定な一般企業よりもはるかに安定した職業となっている。

とはいえ軍事関係のプロジェクトは、情報収集や戦争準備も含めて一般企業のプロジェクトや研究開発と比較しても比べ物にならないくらいに時間がかかる。

良い面は、雇用が安定しているため研究課題や発明等が成功の可能性が多少薄くても枠に囚われないような自由な発想の面白い研究を行えることである。

自身も軍の研究の内容等を見たり聞いたり、実際携わった経験からすると、国防省や米国軍内の研究やプロジェクトは非常に斬新なアイデアで、一見「本当に成功するのか」と思うこともあるのだが、かなり先の将来を見据えた自由なチャレンジが許されていると感じられる。そしてこれらの研究やプロジェクトは一旦承認されてしまえば予算が一般企業や大学よりもかなり潤沢にかつ長期間に渡って受け取れる印象がある。

一方、悪い面としては、プロジェクトまたは研究の承認までにとても複雑なプロセスが存在し、そこに非常に時間が取られるということである。何人もの上官が承認作業に入り、かなり詳細な部分までプロジェクトや研究に対して計画書にツッコミが入り、その回答・提出の繰り返しの作業が何度も行われる。実は米国の大学においても、プロジェクトや研究において大学を相手取った訴訟を避けるために、こうした作業は行われるのだが、一般的な大学とは比較にならないくらいの時間がかかるのである。あまりにも時間がかかり過ぎて、研究者はやってみたいことがすぐには実行できないため、元々軍事関係の施設で研究をしていた研究者が大学に移ってくるということが起こるくらいである。

つまり軍事関連施設では、研究・プロジェクトだけを取ってみても、周到に非常に時間をかけて準備が行われるので、一般人が戦争の気配を感じる頃には、既に国防省や軍内部ではそのかなり以前から様々な準備が行われているということである。

米国軍事関連研究予算の優先順位

自身の経験では、たとえば軍事研究においては「ブッシュ大統領の911事件のころから、『対テロ戦争』という名目で、軍事に関する研究が以前よりも活発になったと感じる。つまり、同じカテゴリーで研究のトピックが作りやすくなり、国防省も予算を関連研究に下ろしやすくなった」という印象である。

たとえば、中東のISIS等の起こした紛争を除き、その他の戦争が一旦は一段落していた2010年〜2016年以降は、「以前と比較すると国防省から予算が取りにくくなった」という話を関係者から聞いている。つまり、世の中が平和になってくると国防省軍関連施設の予算の規模は小さくなる。国防省から下りてくる予算の優先順位は、まず、1. 米軍内での研究、次いで、2. 製品開発を始めとした企業との研究、その後ようやく3. 大学研究機関に研究費が下りてくるという図式である。

大学は実戦や実地とは最も遠い基礎研究をすることが多いので、軍事研究の予算が最後に落ちてくる部署ということになる。それでも、ブッシュ政権期は大学にテロ関連の研究費が回って来やすかったと感じることができた。つまり新しい戦争、しかも従来とは異なるタイプの戦争が近づくと、米国政府から関連予算が広範囲の組織に渡って下りやすくなるのである。

戦争準備だけでも十分に潤う米国政府、国防省、軍事関連企業

戦争に付随して莫大な金が動くというのは、はるか古代から知られていることであり、またブッシュ政権が軍需産業と関わりが深かったことは公然であろうからここでは省くが、要はただ米国においては、「戦争」は単に「戦争」という一面的な事象ではなく、「戦争準備」から「戦争開始・維持」「戦争終了・復興」までが一連の完結したビジネスモデルとして確立されているのかもしれない。独立戦争から始まり2つの大戦を経て、朝鮮戦争やベトナム戦争、キューバ危機、イラク戦争などを経験していく中で、軍産複合体が時代に即したビジネスモデルとしてマイナーチェンジを繰り返しつつも、基本的なビジネスモデルとしては大きく変わってはいないように思われるのである。

ここでいう「金儲け」をこの戦争というスケジュールに当てはめて下記にまとめると、戦争準備からお金を儲けることが可能なことが分かる。

1. 「戦争準備」段階では、当事国だけではなく、その緊張状態の影響を受ける周辺国にも軍需品を売りつけることができる。危機感を煽れば煽るほど、値段も物量も増す(日本への陸上型イージス・システムや高価なF35戦闘機の売り込みもこの一環か?)。これは軍事産業に限らず、その国の金融や経済システムにおいても優位に働かせることができる。なにせ、戦争開始時期を自分で選ぶことができれば、戦争によって起きる影響をコントロールすることが可能なので、その間の緊張状態を利用してビジネスをすることさえ可能である。

2.「戦争開始・維持」段階では、当然、多くの最新の武器、弾薬や機材が際限なく使用される。

3.「戦争終了・復興」段階では、米国に有利なような政治・経済システムを取り入れさせる。

この3つの段階を要素に取り入れ、作戦開始の当初から「どのようにして緊張状態を高めていくのか」そして、「どのように復興特需を起こすのか」という悪魔のようなシナリオを作るのである。

古畑氏の推論では、これは逆説的で飛躍的でもあり大変皮肉な推論かもしれないが、長年軍事関連の研究に携わった者からすれば、周辺国に武器をより多く売ることができれば、米国の多くの軍事関係だけでなく、多くの関連分野における資金が潤う。戦争準備段階において「武器をおおかた売り切った」と判断すれば、近く開戦ということもありえるかもしれないし、場合によっては、それで米国が満足すれば戦争の一時回避を図る可能性すらもあるのではないかと思う。

ただし、それはあくまでも一時回避に過ぎない可能性もあり、問題を先送りしながら大量の武器を売り続け周辺諸国が一通り購入した後にいよいよ開戦という可能性もありえないことはない。

戦争とは、このように非常に複雑な要素や事情が絡み合い、長い時間をかけて行われている。ただ我々、一般市民にとっては、「戦争は回避できるに越したことはない」のは確かであろう。(古畑貴志、石田健二、ツバンボラーダバー、福井和美、宮塚コリア研究所事務局)

古畑貴志Takashi Furuhata
Ph.D 米国ワシントン大学にて統計学で博士号取得、同大学で後輩のボブサップの通訳を務めたことも。ハワイ大学、ユタ大学での米国国防総省との共同研究から米国軍関係にコネクションを持つ、日本三大総合商社の1つでマネージャーを経験、キックボクシングのプロライセンスを持つ。在米生活19年、モンゴル金融経済大学(University of Finance and Economics in Mongolia)准教授。

石田健二 
宮塚コリア研究所事務局長。

トッド・ツォグト ダバツレン(Todd Tsogt Davaatseren)
モンゴル ウランバートル出身。モンゴル国立大学 会計学専攻。

ハルザンバンディ ジャンバル(Khalzanbandi Jambal) 
モンゴル オブス出身 元モンゴル経済産業省所属。

福井和美
宮塚コリア研究所事務局。

image by: Shutterstock

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元山梨学院大学教授の宮塚利雄が、甲府に立ち上げた宮塚コリア研究所から送るメールマガジンです。北朝鮮情勢を中心にアジア全般を含めた情勢分析を独特の切り口で披露します。また朝鮮半島と日本の関わりや話題についてもゼミ、そして雑感もふくめ展開していきます。テレビなどのメディアでは決して話せないマル秘情報もお届けします。長年の研究対象である焼肉やパチンコだけではなく、ディープな在日朝鮮・韓国社会についての見識や朝鮮総連と民団のイロハなどについても語ります。

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