会社に多大な迷惑をかける「無断欠勤」。メールや携帯で連絡がつけばまだ良い方で、中にはある日突然音信不通になり、自宅を訪ねたらもぬけの殻というケースも。そんな社員を「退職扱い」にするには、どんな手続きをとれば良いのでしょうか。今回の無料メルマガ『新米社労士ドタバタ日記 奮闘編』で、あまり聞き慣れない「自然退職」という用語を上げつつ詳しく解説しています。
自然退職
ときどきボスや先輩の打合せに同行する。就業規則の打合せに同行するときが、一番長時間。たまに朝から晩まで打ち合わせをすることがある。それも、何日も…。市販やネットや書籍から拝借して、ちょいちょいと訂正すればできあがり、なんてことを言う社長にお目にかかったことがあるが、それは恐ろしいことだ。今回は、就業規則の中の退職の条項での話…。
T社社長 「就業規則は、担当に任せっきりで詳しくなくて…。お手柔らかにお願いします。今回、無期転換ルールに絡めて、他も見直ししたいんです」
深田GL 「はい、こちらこそよろしくお願いします。変更案を持って来ていますので、よろしくお願いします」
T社社長 「ありがとうございます。ところで、『従業員の定年は満60歳とし、定年に達した日直後の賃金締切り日をもって自然退職とする』とあるんですが、この自然退職って何ですか? 単なる『退職』ではダメなんですか?」
深田GL 「単なる退職でも悪くはないですが、自然退職って言葉は聞いたことはありますか?」
T社社長 「どこかで聞いたような気もします」
深田GL 「退職って言うと、一般的に『自己都合』による退職だったり、『解雇』だったりしますよね」
T社社長 「そうですね。他にもあるんですか?」
深田GL 「退職を大きく分類すれば、『会社都合退職』と『自己都合退職』となります。しかし、会社都合でも自己都合でもない退職もあります。その場合、『自然退職=自動退職=身分の喪失』ということになるんです」
T社社長 「はぁ、そうなんですか。そういうのを自然退職っていうんですね」
深田GL 「会社側、労働者側いずれの意思による退職でもないってことです。ですので、本来は、退職届も不要ですし、会社からの通知も不要です」
T社社長 「『自然退職』って何ですか? って聞かれたらどう説明して良いのかわからなかったけど、なんとなくわかったよ。説明できそうだ。それに、定年は自然退職と書いておいた方が良さそうだね。他にも自然退職と記載した方が良いケースもあるのかな?」
深田GL 「そうですね。他には、
1.定年退職
2.雇用契約満了
3.本人の死亡
4.休職期間満了
5.無断欠勤(音信不通)が続いた場合
などがありますね」
T社社長 「定年退職以外にもいろいろあるんだね」
深田GL 「一般的に当然の出来事として退職となるようなケースが自然退職となります。退職届がいらない、通知が要らないといってもこれらについての定めをしっかりと就業規則・雇用契約書などに記載したり、ルールを労働者へ周知しておかないと、やはりトラブルになりますね」
T社社長 「そっかー、やっぱりルールをつくって、就業規則などに記載しておかないといけないってことだね。就業規則に記載する項目は他にもあるの?」
深田GL 「就業規則にどこまで書くかにもよりますね。たとえば
・定年年齢
・定年退職日
・継続雇用制度
・再雇用制度の対象者
・退職の種類
・退職願
・行方不明者の退職
・自己都合退職
・休職期間満了
・解雇の種類
・解雇が有効になるための条件
・普通解雇
・期間雇用者の契約期間満了による退職
・懲戒解雇
・業務引継
たくさんありますが、こういったことにも触れておかないといけませんね」
T社社長「休職の場合も自然退職にすれば良いんだね」
深田GL 「そうですね。本来、従業員は労働契約に基づき労働を会社に提供する義務があります。その労働を提供することが出来なくなり、会社に休職期間という一定期間の猶予をもらったにも係らず、労働を提供出来ないので、『自己都合退職』扱いが妥当と考えます。しかし、従業員側からみると、休職期間満了による退職は、自己都合とは違いますから、むしろ解雇だと思う人もいるでしょう。実際、解雇という表現を使っている就業規則に出会ったこともあります。トラブルを避けるために『自然退職』という言葉を使うのがおすすめですね」
T社社長 「ふーーん、そういうものなんだね。その『自然』っていう二文字がものを言うようで、いろいろ考えさせられるなぁ」
深田GL 「ハローワークに提出する離職票の離職理由としては、『休職期間が満了による自然退職』と書けばいいでしょう。トラブルにならないためには、会社側で休職命令通知や休職期間満了通知をタイミング良く渡しておくのが良いですね」
T社社長「うつになる人も多いと聞くから、ルールはしっかり決めないといけないなぁ」
深田GL 「それから、無断欠勤が続いたり、行方不明の人についても自然退職の規定は有効ですね。この場合、規定を入れておかないと、裁判所への公示送達が必要になります」
T社社長 「裁判所への公示送達って? あの、裁判所に貼り出している書類のことですか?」
深田GL 「そうです」
T社社長 「ひぇ~、あんな手続きをしないといけないなんて大変だよ」
深田GL 「『自然退職とは、会社側の意思表示、従業員の意思表示がなくても、就業規則所定の事由を満たせば、労働契約が終了する扱い』です。上手に利用すると良いですね」
「行方不明者への対応」とは
質問
ある従業員が突然失踪してしまい、無断欠勤を続けたまま1ヵ月が経ちます。携帯電話にも出ませんし、自宅のアパートや実家に連絡してもまったく所在がわかりません。会社としてはやむを得ずこの従業員を退職扱いにしようと考えているのですが、法的に注意すべき点などを教えて下さい。
ポイント
行方不明の労働者に対して解雇の意思表示をするためには、裁判所で公示による意思表示という手続きを取る必要があります。また、就業規則で、無断欠勤が長期間続いた場合は退職扱いとする旨、定めておくことも有益と考えられます。
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