2015年に掲載の「アメリカとロシアの『新冷戦』は、すでに12年前から始まっている」で既にお伝えしたとおり、米露が水面下で戦争状態にあることは常識となりつつあります。さらにここに来て、プーチン大統領が「アメリカを核攻撃するシミュレーション映像」を公開。なぜ今ロシアが米国を挑発する必要があるのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係アナリストの北野幸伯さんが分析・考察しています。
プーチン、【米フロリダ州を核攻撃する】ビデオを公開
大変ショッキングなことがありました。プーチンは3月1日、年次教書演説をした。その際、アメリカを【核攻撃】するシミュレーション映像を流したのです。え? 「ウソ」じゃないです。
「フロリダ州を核攻撃」のビデオ、プーチン大統領が演説に使用
CNN.co.jp 3/2(金)10:40配信
(CNN) ロシアのプーチン大統領は1日に行った演説の中で、無限射程の核弾頭が、米フロリダ州と思われる場所を狙う様子をアニメーションで描写したコンセプトビデオを披露した。フロリダ州には米国のトランプ大統領の別荘がある。
もう少し、詳しく見てみましょう。
プーチン大統領は演説の中で、極超音速で飛行でき、対空システムも突破できる「無敵」ミサイルを誇示。「ロシアやロシア同盟国に対する核兵器の使用は、どんな攻撃であれ、ロシアに対する核攻撃とみなし、対抗措置として、どのような結果を招こうとも即座に行動に出る」と強調した。プーチン大統領が披露したビデオでは、何発もの核弾頭が、フロリダ州と思われる場所に向けて降下している。
(同上)
BBCには映像の一部がありました。
● プーチン氏「無敵」新型ミサイル発表、CGでフロリダ攻撃?
「ロシアやロシア同盟国に対する核兵器使用」すれば、「どのような結果を招こうとも即座に行動に出る」そうです。要は、「アメリカが核兵器を使えば、ロシアも即座に核兵器で反撃する」と言っている。「当たり前」といえば「当たり前」のことを言っているのですが…。わざわざ言及しているのは、「当たり前ではない」ですね。そして、プーチンさんが言うと、なおさら怖い。
ところで、なぜプーチンは、わざわざこんな過激な話をしたのでしょうか?
「だがこれで終わりではない」とプーチン大統領。「我々が開発した新型戦略兵器は、弾道軌道を一切使用しない。つまり、同兵器に対してミサイル防衛は役に立たない」
(同上)
「同兵器に対してミサイル防衛は役に立たない」
要するに、これが言いたかったのですね。
脅しは、国内向け?
この演説についてロシアでは、二つの意見が聞かれます。「国内向け」と「外国向け」。どういう意味でしょうか?
ロシアでは3月18日に大統領選が行われる。それで「支持率をアップさせよう」と。普通の日本人であれば、疑問がわくでしょう。
「フロリダを核攻撃する映像を流せば、支持率が上がるの?」
これが、上がるのですね。ロシア語ですが、以下の映像、1時間36分16秒ぐらいから見てください。
● Послание президента РФ Владимира Путина Федеральному Собранию 2018
長々と新兵器群の話をしたプーチンは、「新兵器が必要になった理由」を語ります。
「誰も、俺たちと話をしたがらなかった。誰も、俺たちの話を聞きたがらなかった。(こんなすごい新兵器があるのだから)さあ、話を聞きやがれ」
こう言った後のリアクションを見てください。満面の笑顔の人、目に涙を浮かべている人。とにかく、皆さん、幸せなのです。
プーチンは、アメリカに憤怒している
プーチン・ロシアは、アメリカの「グローバル・ミサイル防衛システム」に対抗して、新兵器を開発したのです。これは国防ですが、話はそれにとどまりません。
プーチン・ロシアとアメリカは、実質「15年戦争の最中」と言えます。プーチンは、2000年に大統領になりました。2002年頃から、両国関係はおかしくなってきた。時系列に見てみましょう。
- 2002年~03年、ロシアは、アメリカのイラク戦争に反対する
- 03年、ユコス問題で、米ロは対立(アメリカは、ユコス買収を目指していた)
- 03年、旧ソ連国ジョージア(旧グルジア)で革命が起こり、親米反ロ政権誕生
- 04年、旧ソ連国ウクライナで革命。親米反ロ政権誕生
- 05年、旧ソ連国キルギスで革命。
- 08年、アメリカの傀儡国家ジョージアとロシアの戦争勃発
- 09~11年、米ロ再起動時代。短い休戦(プーチンは首相だった)
- 2012年、プーチン、大統領に返り咲く
- 2013年、プーチン、シリア内戦でアメリカと対立(プーチンはアサドを、アメリカは反アサドを支援)
- 2014年3月、クリミア併合
- 2014年4月、ウクライナ内戦ぼっ発(プーチン・ロシアは「東部親ロシア派」を、アメリカは、反ロ新政権を支援)
アメリカは、欧州、日本を巻き込み「対ロシア制裁」を発動。それで、ロシア経済はボロボロになってしまった。
一方、プーチンは、「軍事的勝利」を重ねている。シリアでは、プーチンが支持するアサドが政権にとどまっている。ウクライナで、ロシアはクリミアを併合し、東部ルガンスク、ドネツクは、事実上の独立状態にある。
というわけで、アメリカとロシアは、お互い憎しみ合っている。もちろん、それで得をするのは中国です。嗚呼。中国はまたもや、「山頂に座して、二頭のトラ(米ロ)の戦いを眺める」最良のポジションにつけました。
日本も中国を見習い、米ロのケンカには関わらないでおきましょう。両国との関係を良好に保つことは、「対中国」で重要です。
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