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トランプを誕生させた米国の「社会構造」が戦争を作り出している

中国の勢いに押され、覇権国家としての力を失いつつあるアメリカ合衆国。しかし日米同盟という強固な繋がりもあり、日本は米国に追随する姿勢を今も変えていません。メルマガ 『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんは、アメリカの歴史学者、ジョン・W・ダワーの著書を引きながら「アメリカ社会の構造が戦争を生み出している」という衝撃的な現実と、日本への悪影響についても言及しています。

「暴力の世紀」から生み出された米国人の病

「精神障がい」は社会が作り上げている側面もあるから、社会的な治癒により幸せな生活を送れるようになる、という思いが、精神障がいとの関わりにおける私の原動力になっている。

絶対評価として病気と診断され、症状として社会生活が送れなくなってしまう状態と、周囲の理解がないことで社会に出られなくなってしまう状態は同じではない。後者は社会の問題である。

それは大きくとらえれば、私たちが作り上げた社会の構造の一部である。マッチポンプ的に社会が障がいを作り上げている事実は、例えば米国が戦争を作り上げている」ことに無関係ではない。

ジョン・W・ダワーの『アメリカ 暴力の世紀 第二大戦以降の戦争とテロ』(田中利幸訳、岩波書店)は、私にとって、そのつながりを明確にしてくれた。

同書は、ドナルド・トランプ大統領の誕生はアメリカという国の本質を浮かび上がらせたとし、それを暗黒の部分と評する。

つまり

トランプの極端な言語表現と行動を好む性癖は、もともとアメリカの気質なのである。

彼は、アメリカの国家と社会には力があり、その力が第二次世界大戦以来、繰り返し自国の高貴な理想を唱導し、推進してきたと考えている。

しかし、同時に、実はそれが、アメリカの軍事化と世界的規模での非寛容性と暴力行使に積極的に加担してきたのである

とする。

アメリカは暴力を生み出してきた。それは

この後者のアメリカは、常に、偏狭な行為、人種偏見、被害妄想とヒステリーを生み出してきた。

ドナルド・トランプのような扇動政治家で残酷な軍事力を重要視する人物は、こうした状況でこそ活躍するのである。

とし、

いわゆる『アメリカの世紀』のこの暗鬱な戦後史の側面の分析が、この小箸のテーマである。

と言う。

戦後、日本は日米同盟を基軸に外交政策を打ち立て、米国が唱導する民主主義に追随する社会の仕組みを目指してきた。

そのすべてが間違いとは言わないが、米国が「東南アジアの戦争では、アメリカ軍はベトナム、ラオス、カンボジアに、1945年に日本の60を超える都市に対する破滅的な空爆で使った爆弾の、40倍以上にのぼる量の爆弾を投下」した中で、日本が加担した事実は揺るぎ無い。

湾岸戦争や2001年9月11日の米中枢同時テロ以降のアフガニスタン、イラクへの攻撃でも日本はその「貢献」について議論し、それなりの献身さで戦争に加担してきた。

ここで立ち現れ、そして私が強調したいのは、メンタルヘルスの問題だ。「戦争で打撃を受けた地域では、(通常は10人に1人のところ)6人に1人が精神障がいを患うと言われている。アメリカ軍兵員に関してだけ言うなら、心的外傷に真剣な注意が払われるようになったのは、アメリカ軍がベトナムから撤退してから7年後の1980年からであり、そのとき初めて心的外傷後ストレス障害PTSD)がメンタルヘルス問題として公式に認められた」ことを出発点に考えると、私たちはそれを作り出してきたともいえるのだ。

私たち日本が貢献したアフガンスタンとイラクの戦争について、同書では

2001年10月から07年10月までの間にアフガニスタンとイラクに派遣された、164万人のアメリカ軍兵を対象とする大規模な調査が2008年に行われたが、その結果、『約30万人が現在PTSDか重度のうつ病を患っており、32万人が派遣中に心的外傷性脳障害(TBI)と思われる症状を経験した』との推計

を紹介しているから、被害者はアフガニスタンやイラクの兵士や市民だけではない。

ここに、私たちが知らない間に、精神障がいを作り出している現実があぶり出されている。社会の構造化された内部に、気持ちを押しつぶさせてしまう事実が含まれている。

それは戦争では顕著であるし、私たちの日常生活にもそれはある。戦争という暴力装置が作動する状態にあってもなくても、人を圧迫する装置は、無自覚にあっても加担することにもなり得る。

私たちは、戦争は勿論だが、社会の構造化された中で、人を圧迫していないのか常に検証する必要に迫られている社会に生きているのだ。

image by: Evan El-Amin / Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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