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苦境ケーヨーデイツー。頭打ちのホームセンター業界で復活なるか

ドラッグストア等の台頭もあり停滞が続くホームセンター業界市場。3大都市圏に店舗網を持つホームセンター、ケーヨーデイツーもその波をもろに被り、業績が振るわない状況にあります。しかし彼らは手をこまねいているばかりではありません。苦境が続くケーヨーデイツーを中心に、ホームセンター業界の前途について今回、フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが、詳細に分析・考察しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

苦戦のケーヨーデイツー、「立地別3タイプ」ビジネスモデルで事業再建なるか

ホームセンター大手で首都圏を中心に約180店を展開する、「ケーヨーデイツー」チェーンを経営するケーヨーが、悪戦苦闘している。

ケーヨーの平成30年2月期第3四半期決算では、売上高1,019億円(前年同期比9.3%減)と苦戦しているが、経常利益20億円(同8.3%増)と利益率は改善し、収益面で明るい兆しが見えてきた。28年に当期損失で43億円と赤字を計上したのを受けて、同年4月に中期経営計画を策定。2020年度までに売上高1,800億円、営業利益率3%(54億円)を達成する目標を掲げている。

ケーヨーは現在、事業再建のために新業態にチャレンジしている。DIYに特化した「iite(イイテ)」、ペットと園芸に特化した「ペット&グリーン」を相次いで提案。また、ホームセンター最大手のDCMホールディングスの資本・業務提携を受け入れて、仕入れを一体化。プライベートブランド(PB)では、「DCM」ブランドを導入して、「デイツー・オリジナル」ブランドを廃止するなどの施策で、コストを圧縮。利益を生み出す体質改善を進めている。

店舗のモデルチェンジとDCMの支援によって、攻勢に転じて再興できるか。まさに今が正念場だ。

「ケーヨーデイツー」は昭和27年創業と歴史が古く、ガソリンスタンドからホームセンターへと進出したのは、昭和49年千葉県木更津市に1号店を出店したことに始まる。1970年代は、モータリゼーションの進展とともに成長した日本のホームセンターの黎明期と言われており、初期の頃からの息の長いプレーヤーである。それゆえ、店舗は伝統的なホームセンターのイメージを色濃く残している。すなわち、身近な日用品をディスカウントして売る店で、最近台頭してきたドラッグストアーをはじめ、スーパー、コンビニなどとも商品が被り、競争が激化したため苦戦を強いられている。

ホームセンターのゼロサムゲームに巻き込まれたケーヨー

商品構成比(平成30年2月期中間決算)は、金額ベースで、ハウスキーピング33.9%、園芸・エクステリア20.2%、ホームレジャー・ペット14.7%、ホームインプルーブメント14.3%、ホームエレクトロニクス9.0%、ホームファニシング7.4%、その他0.5%の順。一方、日本ドゥ・イット・ユアセルフ(DIY)協会の調べ(2016年)では、会員のホームセンター33社の商品構成比は、金額ベースで、DIY用具・素材24.2%、園芸・エクステリア23.0%、家庭日用品19.6%、電気7.1%、インテリア5.9%、カー・アウトドア5.5%、カルチャー5.3%、業務サービス3.2%、その他6.3%となっている。

ケーヨーと日本DIY協会では、カテゴリーが異なっているが、ハウスキーピング≒家庭日用品と考えると、ケーヨーでは日用品の比率が3割を超えていて、ホームセンター全般の2割より相当高いことがわかる。これが売上が減っている大きな原因だろう。また、ケーヨーは、ホームセンター全般と比べると、ホームインプルーブメント≒DIY用具・素材と考えれば、DIYが弱い。園芸もやや弱い。商品が、電気店と被る電気や、家具店と被るインテリアの商品構成が高すぎる。このような問題点が浮かび上がってくるのだ。

ケーヨーの売上高は、平成18年2月期に過去最高の1,983億円の売上を計上して以来、業績が停滞しており、21年には1,667億円まで落ちたが、その後巻き返し、平成24年には東日本大震災後の資材需要などが奏功して約1,903億円まで戻した。しかし、その後の売上は25年1,808億円、26年1,740億円、27年1,693億円、28年1,578億円、29年1,469億円と5年連続で落ち続けている

経常利益も、平成24年2月期60億円、25年43億円、26年26億円、27年18億円、28年11億円、と同様に落ち続けたが、29年には22億円とまだ利益率は微々たるものだが巻き返している。総じて、もう十年も業績が振るわない状況にあり、売上が4分の3になってしまっている。

実はホームセンターの市場も停滞している。日本DIY協会の調べでは、平成15年頃までは右肩上がりにずっと伸びているが、それ以降は28年まで、4兆円を目前にした3兆9,500億円前後で横這いが続いている。

しかし、ホームセンターの店舗数は、平成15年の3,860店が、28年には4,710店にまで増え続けている。売上が横這いなのに、店舗数は1.2倍になっており、競争が激化して顧客の奪い合いになっている実態が浮き彫りになっている。

ケーヨーの不振は、このようなホームセンターのゼロサムゲームに、もろに巻き込まれてしまったからであり、ホームセンターらしい商いのあり方を問い直して売場で表現しなければ解決できないのである。

払しょくされたケーヨーデイツーのイメージ

さて、千葉県船橋市に一昨年11月、オープンした生活提案型ストア「iiteイイテBY D2」はホームセンターの新しい形を世に問いたいという、同社の思いが詰まった意欲的な店だ。1号店の船橋坪井店は「ケーヨーデイツー」からの業態転換であるが、真っ白に塗られた洗練された建物に、カフリッシュ体のようなポップな書体で黒のマジックを使って手書きしたみたいな「iite」の看板。従来の日用品が安い「ケーヨーデイツー」のイメージは外観からも払しょくされ、変われば変わるものだと衝撃を受ける。ヨーロッパにトリップしたかのような店の雰囲気だ。

「iite」のある場所は、京葉高速鉄道・船橋日大駅から徒歩5分ほどのロードサイドにあり、道の向いは日本大学理工学部。周囲は美し学園と呼ばれる新興住宅街で、新しいライフスタイルを持つ人たちが住んでいる。習志野台の大規模団地も近い。売場面積は店内2,618㎡、店外763㎡で、駐車台数は152台。隣の建物はドラッグストアー大手「カワチ」の大きな店舗で、まともに日用品の品揃えで勝負すれば完敗しかねない危険な立地でもある。

ケーヨー・広報によれば「30代から40代の女性をターゲットにした都市型実験店」とのことで、「東急ハンズがイメージされているらしい。実際に訪問した印象では、おしゃれなDIY商品の提案で好調が伝えられる「カインズ」や「ビバホーム」が意識されているようにも思われた。

ところどころで、カテゴリーごとに生活シーンを想定したディスプレイがなされ、ガーデニング、収納、工具、文具等々、意外とコンパクトに編集されていて、買物がしやすく考慮されている。ディスプレイは、コルクのコースターに動物の絵を描きボードに張ってインテリアにしてみたり、木製のスノコにフックを付けてコップを飾ってみたり、ミニサイズの観葉植物を手づくり風のテーブルに並べてみたりといった感じ。個人営業のカフェに来たような店づくりを随所に取り入れている。顧客が自分で創意工夫して、部屋の空きスペースをより快適に活用したいと、アクションが起こしたくなる売場が目指されている。

また、店内には「iiteファクトリー」というワーキングスペースがあり、予約すれば30分100円でDIY作業ができる。ドリル、ドライバー、ノコギリ等の工具も借りられる。「iiteファクトリー」では初心者でも楽しめるワークショップも開催。包丁のとぎ方、網戸や襖の張り替え、壁紙の貼り方など、知っていれば便利な暮らしのテクニックを学べる。「iite」は昨年2月に、千葉県佐倉市に2号店の「そめい野店」をオープン。順次、立地を選んで出店を進める方針だ。

「ペット&グリーン」が目指す方向

また、一昨年7月には神奈川県藤沢市内の「ケーヨーデイツー」を業態転換し、「ペット&グリーン」1号店のみろく寺店を新提案している。ペットと園芸の専門店だが、ケーヨー・広報によれば「ペット、園芸、従来のホームセンターの日用品が、それぞれ3分の1というイメージの店」とのことだ。実際に店舗を訪れると、藤沢駅から歩いて15分ほどの市街地から住宅地に入ったあたりにある店で、周囲は比較的古くから開かれた大都市近郊の住宅地で、昭和30~40年代に建ったような1戸建てが連なっている。すぐ隣に、地元の有力なスーパー「相鉄ローゼン」があり、この店も異業種競合店に脅かされる立地だ。

「ペット&グリーン」のペットコーナーは単に広いだけでなく、ペットホテルやトリミングコーナーを有し、サービス面が充実しているのが大きな特徴だ。生体の販売も犬、猫ばかりでなく小鳥、観賞魚、カメレオンのような爬虫類、ハムスターなどの小動物も揃えている。まさに従来のホームセンターの概念を打ち破っており、ペットショップ専門店そのものだ。

園芸コーナーも、インテリアとして楽しめるグリーンをテーマに、花苗、観葉植物から花束まで揃えており、それぞれの植物に合った雑貨を総合的に提案している。こちらもフラワーショップそのものである。日本家庭園芸普及協会の認定制度「グリーンアドバイザー」をスタッフに配し、植物の栽培法、楽しみ方をきめ細かく相談に乗る体制となっている。

これは都市郊外型のモデルで、ペットや園芸のニーズが高い地域に対応した店舗だが、ペットコーナー、園芸コーナーの規模を縮小して、今後の店舗リニューアルにあたり組み込んでいくプランもあるという。

ケーヨーは昨年1月に、DCMホールディングスと資本・業務提携を結び、DCMの出資比率が20%となっている。DCMとしては完全子会社にする算段だったが、持分法適用の関連会社とすることで、同じ効果が得られると判断した。DCMは、四国・愛媛県発祥の西日本に強い「ダイキ」、東海地方が地盤の愛知県発祥の「カーマ」、北海道発祥で東日本に強い「ホーマック」が経営統合して、2006年に誕生した社歴の浅い会社。その後も、東北地盤の「サンワドー」、山梨県発祥の「くろがねや」などを傘下に収めて、業容を拡大してきた。

首都圏をはじめ、関西、中京の3大都市圏に店舗網を広げる、ホームセンター業界8位のケーヨーは、これまで3大都市圏に強くはなかったDCMにとって、弱点を補強する絶好のカードだった。DCMとケーヨーは、共にイオンが株式の5%を持つ大株主でもあり、業界再編にイオンの影響力も垣間見える。

ケーヨーが再び成長軌道に乗るために確立すべき事

ケーヨーとしてみれば、東証1部上場が維持され、「iite」、「ペット&グリーン」のような独自の施策もできるというわけで、有利に事が運んでいるように見受けられる。DCMとの提携で、上期にはまず仕入れを一体化。物流が統合されて、スケールメリットにより、仕入れコストが下がった。この効果により、利益率が高まっている。また、地域に撒くチラシのサイズダウンと、撒く日程を毎週から2週間に1度に延ばすなど、効果を検証しながら調整し、広告費の削減を行った。

さらに、下期にはPBの「デイツー・オリジナル」から撤退し、「DCMブランドに順次切り替えている。これも「DCM」ブランドのスケールメリットが出るので、より安く良質な商品が提供できる体質改善につながっている。DCMグループではPB比率が17%まで高まってきており、中間流通を省けるので利益率改善に役立っている。PB比率が約4割もあるカインズには、まだまだ届かないが、「DCM」ブランドの消費者からの支持が広がっているのが、同社の強みとなっている。ケーヨーもその恩恵を受けている。

そして、DCMグループのノウハウを活用して、田舎立地の店舗の大型店5店を改装。衣料品や食料品を縮小して、プロ向けの建築資材農業資材の本格展開を始めている。今まで木材は日曜大工用しか置いていなかったが、職人向けの家を建てられる角材を導入するなど、商品構成を見直した。農業資材もたとえば防獣ネットなどは、都市部に店舗が多いケーヨーでは目が届きにくい商品だった。

以上のように、ケーヨーは、DCMグループとの仕入れ共通化のシナジー効果に期待しつつ、都市型のDIY強化の「iite」、郊外型のペットと園芸専門「ペット&グリーン」、田舎型の建築・農業資材強化店と、立地別に店舗を分けて企業再生に取り組んでいる。従来のどの店も一律の金太郎飴型の画一化した店舗ビジネスからの決別には、末端にいたるまでの社員の発想の転換が必要であり、容易なことではないが、方向性は正しい

昨年12月の既存店の売上高は前年同期比10.2%減、今年1月14.1%%、2月13.9%減と2桁減となっているため、30年2月期通期の決算では予想の1,370億円(6.7%減)を下回る見通し。依然、ケーヨーが厳しい経営環境にあるのは事実であるが、取り組むべき課題は明確化されており暗中模索しているのではない。ケーヨーが、立地別3タイプのホームセンターのビジネスモデルを確立できれば、再び成長軌道に乗るのではないだろうか。

image by: WikimediaCommons(Thirteen-fri)

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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