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NY進出で大成功した「大戸屋」と「いきなりステーキ」の共通点

アメリカ独自の文化を面白おかしく紹介する、米国の邦字紙「WEEKLY Biz」CEOでメルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者・高橋さん。今回は、ニューヨークに進出して6年。今なおニューヨーカー達から絶大な支持を集める定食チェーン「大戸屋ごはん処」の戦略を徹底分析します。

進化する日本食レストラン

“にっぽんの食卓ごはん”をスローガンに、日本でお馴染みの定食チェーン「大戸屋ごはん処がニューヨークに進出したのは2012年4月、いまからちょうど6年前です。

華々しいオープニングレセプションには創業者の故・三森久實会長も来米し、出席されました。

当時、今ほど開拓されきれていないエリア(Flatiron/フラットアイアン)にオープンしたので、ここだけの話、現地の取材陣は「こんなところで大丈夫かな」と話していました。 実際に僕が会長にインタビューした時も、ロケーションについて思わず「勝算は?」とダイレクトに聞いてしまったことを覚えています。

しかし! 初めの数ヶ月はスロースタートだったにも関わらず、それからの快進撃は目を見張るもの。

同年末には2店舗目をその1年半後には3店舗目をタイムズスクエアにオープンしました。

とにかく各店、連日超満員。 ニューヨーカーたちで賑わい「行列のできる店」になるのに時間はかかりませんでした。

弊社オフィスの近くにタイムズスクエア店がオープンした際は、“行きつけ店”ができる!と喜んだものの、平日ですら開店前から行列ができるようになり、気軽に行けるお店ではなくなりました。 とにかくそれくらい、地元のニューヨーカーに受け入れられました。

3店とも目抜き通り沿いにあるわけでもなく、外観もどちらかというとひっそりと佇む趣。 知らずに前を通っても見過ごしてしまう感じ、、、それでも常に超満員

価格も平均25ドル(2700円位)はする定食に、飲み物、税金、チップを足せば、一人軽く40ドル(4200円位)強はしてしまう。 日本で大戸屋を知っている人からしたら、びっくりな価格。 同じメニューでもたぶん3倍以上、、、、、それでもつねに超満員。

大戸屋のニューヨーク店は、結局、繁盛するのは立地でもなく価格でもなくクオリティーだということを立証したモデルケースだとも言えます。

人気絶頂の大戸屋は、次なる展開として“チップ廃止”を実施しました。 これがちょうど2年前です。 チップ制度が当たり前の米国では、この“チップありき”で、雇用主が従業員やアルバイトの時給をコントロールします。 日本人の僕たちには理解しがたいことですが、米国の社会にふか~く根付いているものです。

僕が渡米した18年前はアルバイトの稼ぎはこのチップだけという店が珍しくありませんでした。 店側からの時給はゼロ。 スタンスは、店は食べ物を提供する。 客はその対価を払う。 で、お前たちアルバイトは、うちの食べ物をサーブして、好きに客からチップを稼げばいい。 客がチップを支払わない場合は、その場合は残念だったね。 なので、暇な店で半日働いて稼ぎゼロの日もありました。

さすがに、今では、デモが起きたり、裁判沙汰になったりと、ニューヨーク市の労働基準法に基づいて、最低限賃金(new york city minimum wage)が、時給15ドル程(1600円ぐらい)に設定されました。

時給15ドルは悪くないじゃん?と思われがちですが、今のニューヨークだと、それすら厳しい。 世界一、物価、家賃の高い街では、それすら生活できない、とまたデモを繰り返しています。

少し話が逸れましたが、要はニューヨークの労働者にとってチップは「もらえればラッキー」とうものではなく、生活に必要なもらえないと困る」もしくは「もらえて当然の対価です。

で、大戸屋ニューヨーク店はそれを廃止した。

従業員から不満の声も出たことでしょうし、地元のメディアでもニュースになったぐらいインパクトがありました。

でも、実はこのチップ廃止制度に関しては、その少し前から、米国のレストラン業界でも、その是非について議論とはなっていました。 大戸屋以前にも、数店舗、実施するところはあるにはありました。 でも、超人気店の「OOTOYA」も導入したことで、ニューヨーカーからの人気はさらに確固たるものになりました。

NY社長にチップ廃止について取材しました。 「チップ制によるキッチンスタッフとサービススタッフとの給与格差をなくすため」というのが理由ですが、これにより顧客にはお得感」が出ました。 その分、値段設定も少々アップ+5ドル位)したので、実は「行って来い」なのですが、面倒なチップの計算から解放されただけでも行きやすくはなりました。

ニューヨークの大戸屋は、日本の子会社で大戸屋アメリカ、という別会社になります。 日本の味、サービスを提供しながら進化し続ける大戸屋ですが、ニューヨーカーに合わせた改革も忘れてはいません。

先日から、グリニッジビレッジ店では、ディナータイムのメニューが大幅に変更され、大戸屋の専売特許でもあった「定食スタイルが廃止されました。 それに代わって1つ1つ好きなものをアラカルトで選んで組み合わせられるスタイルとなりました(チェルシーとタイムズスクエアの2店舗では定食スタイルは残るようです)。お客さんに独自に調査して、より欧米化した「好きなものだけを注文できる」アラカルト・スタイルに変更することで、ゆっくりと、アルコールなどと共にディナーを楽しめるスタイルにしたのだとか。

前に、“Bento”を米国に広めるために情熱を注ぐ、友人の古川徹社長(www.benton.nyc)も、“ニューヨーカーは自分で食べるものは自分で選びたい”からと、日本の定番のすでにパッケージ化されたお弁当でなく、数種類の中から好きなものを選んで自分でカスタマイズできるデリスタイルを導入した、という話を聞きましたが、今回の大戸屋の改革もまさしくこれです。 言ってみれば「ニューヨークスタイル」ー。

大戸屋アメリカは、基本コンセプトを日本の大戸屋のまま進出してきました。 事業が軌道に乗るに従い顧客(ニューヨーク)のニーズに合わせていく

先週3号店をオープンした「いきなりステーキの一瀬社長も、奇しくも同じことを取材で話してくれました。

基本的なコンセプトは変えない。自信を持って日本で成功したプロダクトを提供する。その上で、立ち食いなのか、椅子が必要なのか、価格は適正か、そのあたりはニューヨーカーの声を聞いて柔軟に対応したい」

このあたりに、NY進出の成功の秘訣が隠されているような気がします。

image by: Google Maps ストリートビュー

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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