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誰がテレビを殺したか? 娯楽の王様が、裸の王様になった根本原因

テレビの凋落ぶりが囁かれて久しいですが、当の放送局員たちも焦ってはいるようです。そんなテレビ業界人から相談を受けたというのは、メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的プログラマーの中島聡さん。中島さんは「テレビのネット進出」という一見正答に感じられる選択肢を「筋が悪い」とし、その理由について記しています。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年4月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじまさとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

放送の未来

先日、とある放送局の人とじっくりと話す機会を持つことが出来ました。放送ビジネスの将来に危機感を抱き、放送局はこれから何をすべきかを議論したい、と言うのです。

これまでも何度も書いてきたが、放送を含めたメディアビジネスはこれまでにない危機に見舞われています。新聞、雑誌、放送などの従来型メディアからインターネットを活用したネットメディアへのシフトが急速に進んでいる上に、そちらの伸びの大半をFacebook、Google、Netflix、Amazonなどが奪ってしまっており、結果としてソフトウェアを使いこなす一握りの企業による寡占化が進んでしまっているのです。

特に問題なのは、若年層ほど新しいメディアを受け入れる傾向があるため、年齢別の傾向を見ると、従来型メディアビジネスの敗北は明らかで、かろうじて従来型メディアを支えている人たちが高齢化すると共に、市場も縮小していくことは明白です。

先日も、ネットではソニーがチューナー無しの大画面テレビを発売したことが話題になっていました(参照:ソニー、NHKやテレビの映らないBRAVIA発表)。すでに地上波放送を見なくなった人たちにとっては、NHKの受信料聴取の対象になるチューナーは余計なもの以外の何物でもないのです。

こんな状況に置かれている放送局がしていること・出来ることは、以下のようなものです。

  1. もっと面白いコンテンツを作って、人々を放送に呼び戻す努力をする
  2. 放送をまだ観てくれている顧客向きにコンテンツを特化する
  3. 同じ視聴時間からの広告収入を増やす(民法)
  4. 受信料が徴収できる対象を増やす(NHK)
  5. ネットに進出する

1.と2.は、コンテンツの力で視聴者を呼び戻す・引き止めるアプローチですが、そもそも「決まった時間に特定の番組を配信する」というコンテンツの配布の仕方そのものが、常時接続が当たり前の現代にはあまりにも時代遅れであり、どんなコンテンツを作ろうと、どこでも、好きな時間にコンテンツを楽しむことが出来る、オンデマンドメディアと同じ土俵で戦うことは出来ません

それと同じ理由で、3.と4.も延命措置でしかありません。民放の放送局が、質の悪いバラエティ番組だらけになってしまったのは、制作費を抑えて、広告収入をあげようという放送局の悪あがきの結果です。

NHKがワンセグ携帯を受信料の徴収の対象にしたのもの、そもそもNHKを観る人が減っているという根本的な問題に目を向けずに、今のビジネスモデルを1日でも長持ちさせようという悪あがきでしかありません。

そうなると、5番目の「ネットに進出するのが唯一の解決策のように思えますが、技術のことが分からない人ばかりの放送局がそんなことをしても、ほとんどの場合、うまく行きません。私から言わせれば、「ネットに進出するという発想そのものが筋が悪いのです。

インターネットは道具でしかないのです。放送と違って、場所や時間を選ばずにコンテンツを視聴者に届けることが出来る素晴らしい道具なのです。「ネットに進出する」「インターネットビジネスで収益を上げる」という発想は、道具と目的を根本的に取り違えており、そんな発想では、視聴者に価値を見出してもらえることは出来ないし、すでにネットの世界で成功している巨人達と戦うことなど決して出来ないのです。

考えるべきなのは、「インターネットという道具を使って、(致命的とも言える)放送の弱点をどう補うか」であり、見つけるべきなのは。「常時接続時代の視聴者にとって、映像消費体験はどうあるべきなのか」という問いへの答えなのです。

別の言い方をすれば、「放送局はこれからどんなビジネスをすべきか」「放送局はネットをどう応用すべきか」という放送局中心の視点から、「視聴者は放送のどこに不満を感じているのか」「視聴者が、観たくてもFacebookやYoutubeでは観られないものは何か」という視聴者中心の視点から考えなければならないのです。

究極の目的は、「放送局を救うこと」「新しい収益源を見つけること」ではなく、「消費者にとてなくてはならない映像消費体験を設計し提供すること」であり、ビジネスの存続や成長は、その結果としてついてくるものなのです。

そんな根本的な発想の転換が出来る人を新しいリーダーとし、その人が新しいサービスのビジョンを熱く語ることによってのみ、優秀な技術者も集まるし、本当に価値のあるサービスを生み出すことが出来るのです。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年4月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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2018年3月分

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image by: Shutterstock.com

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【著者】 中島聡 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 火曜日(年末年始を除く) 発行予定

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