なぜ武田薬品の「6.8兆円買収」を新聞各紙は悲観的に報じるのか

 

相手は成長企業か?

【読売】は1面中段の基本的な記事と3面の解説記事「スキャナー」、8面にも関連記事。見出しから。

1面

  • 武田、6.8兆円買収合意
  • シャイアー 海外企業 最高額

3面

  • 世界十指へ 武田の賭け
  • 6.8兆円 シャイアー買収
  • 新薬開発10年 時間ごと買う
  • 海外M&A 巨額損失も
  • 東芝や日本郵政

8面

  • 武田 グローバル化に活路
  • シャイアー買収合意
  • 海外売上高 全体の8割に
  • 一部株主は慎重 反発も

uttiiの眼

具体的な情報が満載で、それらを総合して浮かんでくる印象はやはり「不安」の一言。

3面解説記事「スキャナー」は、製薬企業の巨大化とグローバル化の中、武田は「生き残るため」、成長に必要な「時間を買った」と評している。今や、新薬の開発は年々困難となり、開発成功率は3万分の1とされるらしい。その結果、有力な新薬候補を持つ企業の買収が繰り返され、売上高数兆円の巨大製薬企業が生まれたとする。

武田が買収で合意したシャイアーは、「競合相手が少なく薬価も高い希少疾患に強みを持つ。最大市場の米国での売上高も多く、買収直後から利益を伸ばすことが見込めることも魅力的」とされる。

しかし、課題は2つ。1つは「小が大を飲み込む」ため、財務負担が大きく、もし、有利子負債の削減措置がとれなかった場合、「事業面で見込まれるプラス効果を大きく上回る」と、格付け機関に見られていること。有利子負債の削減策とは、早い話、投資してくれる先を探すことだろうが、可能なのだろうか。

そして、もう1つは、シャイアーの成長性に不安がある。シャイアー自身、有望な新薬を持つ他の企業の買収を繰り返して成長してきた企業だが、「5年程度で特許切れを迎える薬も多い。この間に新薬候補を育てられないと、武田の未来はない」(アナリスト)と。

これを読むと、シャイアーの株主が買収を納得する理由が分かるような気がするが、このアナリストの予言が当たれば、武田は地獄を見ることになるのだろう。

8面記事。武田がグローバル化に向かってきた流れを整理している。武田の経営リーダーシップが創業家を離れたのは2003年。米国とドイツに駐在した経験を持つ国際派の長谷川閑史氏が社長となる。「グローバル化が生き残る道」が持論の長谷川社長は1兆円規模の大型買収を2件手掛ける。その後任が現在のクリストフ・ウェバー社長。フランス人のクリストフ氏は昨年、アリアドを6,200億円で買収、そして今回のシャイアー買収と続く。現在、執行役員14人のうち3分の2以上が外国人。ウェバー氏は元々英国の製薬大手グラクソでワクチン部門の社長を務めた人で、今回の買収では、同氏の欧州人脈が役立ったのだという。

江戸時代に創業した武田のイメージはとっくの前に消滅しているということだが、他方、経営のリーダーシップと資本の構成にはズレがあり、今回のような思い切った変化を株主が受け入れるかどうかはまだ分からないということのようだ。

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