「社員の月給を減らし、その分を賞与で支給したいのだが…」という企業からの相談が無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』の著者で特定社会保険労務士の小林一石さんのもとに届きました。それは無効だ! として変更を求めた社員から訴えられた裁判が過去にもあったそうですが、はたして判決はどうなったのでしょうか?
月給を減らしても、その分をボーナスで支給すれば問題ないのか
みなさんは「料理のさしすせそ」をご存知でしょうか。実はお恥ずかしながら私は全く知らなかったのですが、料理をするときに美味しく作るための調味料の入れる順番だそうです。「さしすせそ」というのはその調味料の頭文字で
- さ→砂糖
- し→塩
(以下は省略)
です。「塩より先に砂糖を入れた方が美味しくなる」と言われても、「そんなのどっちだって同じじゃない?」と思ってしまいましたが、実はそれにもしっかり根拠があり
「砂糖は素材をやわらかくし他の調味料の浸透をよくする働きがある。塩を先に入れてしまうと砂糖の浸透をさまたげたり素材をかたくしてしまう」
だそうです。
※ご参考:【大実験】料理の「さしすせそ」、逆の順番で加えたら味は変わるのか?を検証してみた!
「胃袋に入ってしまえば全部同じ」とまでは言いませんが、ここまでの違いがあるとは思ってもみませんでした。
これは給料の変更についても同じことが言えます。例えば
- 月給→30万
- ボーナス→無し
の社員の給料を
- 月給→25万
- ボーナス→30万(年2回)
のように変更した場合年間のトータルの金額は変わりません(税金や社会保険料の話はおいておきます)。では、このような給料の変更は可能なのか。
それについて裁判があります。あるIT関連の会社で「月給を下げて、別途ボーナスを支給するのは(その社員にとって)不利な変更であり、無効である」として、社員が会社を訴えたのです。
そこで会社は「月給は下がるがボーナスを含めれば年間の収入は増える」として、裁判になったのです。確かに会社の言い分も間違ってはいません。年間の収入が増えれば必ずしも社員にとって不利な変更とは言えないでしょう。
では、この裁判はどうなったか?
会社が負けました。
裁判所は「変更は認められない」として、給料が下がった分の差額を支払うようにと会社に命じたのです。
なぜか。
その具体的な理由は下記の通りです。
- 給料は、雇用契約の本質的要素であるから、(社員に)不利ではないからといって、会社が自由に変更できるわけではない
- 基準額通りにボーナスが支給された場合、確かに以前の給料よりも年間の収入は増えるが、ボーナスは査定で額が決まるためその額が保障されるものではない
いかがでしょうか。
実は「月給を減らして、賞与を支給したい」と言うご相談は私も結構多くいただきます。その理由は様々ですが例えば
- 賞与があったほうが採用に有利になる
- 月間成績だけでは評価できない半年や年間の成績を評価して賞与に反映させたい
などです。この場合に単純に賞与をプラスするだけのお金に余裕があれば問題ありませんが、そうでない場合はどこからかその原資をもってこなければなりません。それが「月給を減らす」につながるわけです。
ではこのような変更は全く認められないのか、というとそのようなことは決してありません。その変更の理由が「合理的」で社員の同意(個別に、一人ずつ必要です)があれば、変更は充分に可能です(上記の裁判例では「社員の同意」がとれていませんでした)。
人事評価の視点でもお話すると、半年や年間の実績を賞与で評価するというのは非常に有効な手段と言えるでしょう。月ごとの評価だけだとどうしても短期的な視点での評価に偏りがちだからです。
みなさんの会社はいかがでしょうか。
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