昨年12月の1万ドル超えで多数の「億り人」を出し、一躍注目を集めたビットコイン。しかしそのバブルが思わぬ事態を招いてしまったようです。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、著者でアメリカ在住の世界的エンジニア・中島聡さんが、ビットコインが通貨としての役割を果たせない理由と、ビジネスサイドの人間はおろか技術者の8割方がブロックチェーンの技術を理解していないと鋭く指摘しています。
※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年6月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
私の目に止まった記事 1
● What I Learned After Attending 15 Blockchain Events
暗号通貨のベースになっている技術、ブロックチェーンを勉強するために、15のブロックチェーン関連のカンファレンスに出席した人の感想です。暗号通貨に興味のある人はぜひとも読むべきだと思います。
幾つかの指摘の中で、もっとも重要なのは、下の一文です。
Very few people can explain the uniqueness of blockchain technology
This was the most surprising finding. The technical community has expressed strong skepticism about the uniqueness of blockchain for non-trading applications. I found many passionate believers on the business side but much fewer on the technical side.
ブロックチェーンの暗号通貨以外の応用(non-trading applications)に関しては、技術者の多くは疑いを持っていますが、一方で、ビジネスサイドの人たちは大いに盛り上がっているのです。
これは、私が漠然と感じていたことと全く同じなので、少し解説します。
ビットコインのベースになっているブロックチェーンは本当に素晴らしい発明で、サトシ・ナカモトにノーベル経済学賞を与えても良いほどのものですが、その価値は、「(誰でもサーバーを立てられるという)オープンな形の分散データベース上での二重支出(double spend)問題を多数決によって解決する」というところに尽きます。
多分、この発明の凄さがちゃんと理解できる人は、エンジニアの中でも賢い連中だけで、比率で言えば2割ぐらいだと思います。当然ですが、ビジネスサイドの人たちにはほとんど理解できず、彼らは、(優秀な)エンジニアたちが、「凄い発明だ」と言っていることを鵜呑みにしているだけです。
ビットコインは、そのブロックチェーン技術の最初のアプリケーションで、誰にも支配されない国際通貨としてデビューを果たしました。
しかし、実際にはビットコインは通貨としての役割を果たせていません。その理由はビットコインが以下のような問題を抱えているからです。
- 投機の対象となったため、価格が乱高下する
- 莫大な電力を浪費する
- スケーラビリティに問題がある
さらに悪いのは、ビットコイン・バブルに乗じて、数多くの暗号通貨が発行されましたが、それが暗号通貨の大きなメリットの一つである「(国が発行する通貨と違って)暗号通貨には発行量に制限がある」という特徴そのものを否定することになっているという皮肉な状態です。
さらに問題を複雑にしているのが、(悪意を持った人たちの参加を許さない)プライベート・ブロックチェーンという仕組みで、これは、サトシ・ナカモトの最大の発明である「オープンな形の分散データベース上での二重支出問題を多数決によって解決する」部分を使わない、単なる「なんちゃってブロックチェーン」なのです。
しかし、ビジネス側の人たちには、そんな技術的に深い部分は理解できないため、技術者たちに騙されたり、賢くない技術者たちと組んで、本来ならブロックチェーンなど全く使う必要がない部分にまでブロックチェーンを使うという本末転倒なことをしているのです。
残るはイーサリウムで導入されたスマート・コントラクトの応用ですが、それも実際のところ盛り上がっているのは、技術が理解できないビジネス側の人たちばかりで、現時点では「打つべき釘を探しているハンマー」でしかないのです。
だからと言って、ビットコインやブロックチェーンを100%否定するつもりはありませんが、ビジネス側の人たちの口から「ブロックチェーンはインターネットに次ぐ発明だ」などというセリフが出てきた時には、頭から疑ってかかった方が良いと思います。
私の目に止まった記事 2
● Guaranteed Minimum Agriculture
人工知能やロボットにより、失業率が増え、貧富の差がますます開くだろうことは目に見えています。そんな中で、有望視されているのが、従来型の(個々の審査が必要な)社会保障システムの代わりに、国民全員に一律でお金を配ってしまう、UBI(ユニバーサル・ベーシック・インカム)というアイデアがあり、私も支持者の一人です。
この記事は、UBIに批判的な人による、Basic Jobs(全員に仕事を保証する)プログラムという形の社会保障の形を説明した記事です。
筆者はUBIの欠点として、
- 徐々に導入することが難しい・パイロットプログラムでは正しい評価ができない
- 既存の社会保障システムを全廃する必要がある
- 人にはお金だけじゃなくて「生きる理由」が必要、失敗が許されない
- 不公平感がある
などを挙げ、Basic Jobsの方が優れていると主張しています。
UBIの支持者である私から見ても、この4点(特に1番目と3番目)はとても正しい指摘で、いろいろと考えされられました。
日本では、少子高齢化により、社会保障コストが上昇し続けており、このままでは国家の財政が破綻することは目に見えています。
この問題を解決するには、年金の支給額を減らし、かつ、支給開始の年齢を引き上げるしかありませんが、そうなると、引退してから年金を受け取るまでの数年間(もしくは十数年間)の生活が非常に苦しくなります。
この問題を解決する一つの方法として考えられるのが、(上のアイデアを参考にした)引退してから年金がもらえる70歳までの間の職を国が保証する、というシステムです。
日本には、過疎化により空家や放棄された農地がたくさんあるので、彼らに対して(実際にはあらゆる年齢層の人たちに対してでも構わないと思います)、そこに移住すれば、農作業、もしくは、(年金や介護保険の支給対象となる人々向けの)介護の仕事が保証されるとういうプログラムを開始するのです。
同様に、年金や介護保険の支給対象となる人々に対しても、過疎地に移住した方がより良いサービスが受けられるような法律を作り(必ずしもお金で支給する必要はありません)、これにより、社会保障問題と過疎化問題を同時に解決する、というアイデアです。
たまたま、この記事を読んだからこそ思いついたアイデアで、まだまだ未完成ですが、やはり、自分と違う意見を持つ人の主張に耳を傾けることには価値があるとつくづく思いました。
image by: Shutterstock.com
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2018年5月分
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