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お硬い政治ネタを噛み砕く、麻生副総理という政治家の存在意義

麻生太郎副総理兼財務大臣が発した「新聞を読まない世代が自民党を支持している」という大胆な発言が悪目立ちしています。ある種の偏見やメディアを軽視する姿勢も透けて見えるこの発言の真意は何なのでしょうか? メルマガ 『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんは、「漫画しか読まない」と公言する麻生氏のマンガ・キャラクター風の佇まいや言動は、かえって政治に無関心な層を惹きつける効果があるのではないかと分析しています。

副総理が「新聞」と一括りに言うけれど

麻生太郎副総理兼財務相が若者の自民党支持が増えており、それは新聞を読まない世代だと発言したことが波紋を広げている。

新聞社を揶揄した発言に対して、「真面目に」メディアを軽視した発言だ、などと議論するつもりはない。麻生財務相がメディアを軽視するのは、周知の事実でどうしようもないレベルであり、そもそも「マンガしか読まない」と公言していることで、そのスタイルを称える一定の層から人気があることも確かであるから、それは彼の存在意義のひとつなのかもしれない。

麻生財務相が言う「新聞」は正確には自民党を批判的に報道する新聞社、という意味なのだろうが、そのあたりも大きくまとめて「新聞」と言うのも、麻生節である。

しかしながら、ご自分が依拠するマンガ文化も、やはり新聞をはじめとするメディアが担い、伝え、広げてきた歴史があることにも少しは思いを馳せてほしいと思う。

明治維新後の近代国家の確立の過程で新聞が登場し、その新聞は政治論議を中心とした知識階級を対象とした大新聞と、娯楽記事を中心に庶民に向けた小新聞の2系統に分かれた。

大新聞は横浜毎日新聞、東京日日新聞、郵便報知新聞、朝野新聞等で、小新聞は読売新聞や東京絵入新聞等が代表的。

大新聞の紙面サイズがブランケット判で、小新聞がその半分のタブロイド判、値段も小新聞が半分程度だから、部数は庶民向けの小新聞が圧倒的に多かった。

小新聞は庶民向けだから、読みやすさを優先し、漢字には振り仮名をつけ、挿絵を採用した。

それは、今に続く「マンガの始まりでもある。やがて新聞は大新聞と小新聞が融合する形で発展するが、麻生財務相の言うところの新聞は、この大新聞であろう。

明治中期には黒岩涙香が健筆をふるう「万朝報(よろずちょうほう)」を中心に、イエロージャーナリズムというセンセーショナリズムとスキャンダリズムを全面に押し出した報道が世間を席捲し、政治家のスキャンダルも取り上げたことから、当時の伊藤博文首相が「朝に万朝報を開けるのが怖かった」との逸話も残されている。

政治家や有名人の女性スキャンダルを筆鋒鋭く追及するところは、新聞よりも一歩踏み込んで報道する週刊文春や週刊新潮に近い存在であったのだろう。それが大いに受けた

当時の新聞に関する政府の規制は厳しかったから、発行停止処分も今より簡単に執行され、万朝報もしばしば処分を受けたが、庶民はそれもまた万朝報のスタイルとして受け入れ、部数が減ることはなかった。

万朝報に記された「物語」としての事件は挿絵の効果も加わり、それが啓蒙的内容であったかは議論する必要があるが、庶民が世の中のことを考え、そして意見する素地を作ったのは間違いない。

マンガ好きの財務相を揶揄するつもりはないが、そのマンガも新聞がつないできた文化的素地の中に位置づけられ、硬くて食えない政治論議も、時にはマンガがからかいの対象として表現されてきたから、メディアでも硬いもの、軟らかいもの、が混在して絶妙なバランスを取ってメディアの存在も価値あるものとなっているのだ。

このバランスの中で麻生財務相が「硬い領域の中にいる軟らかいパロディ的な存在」でいるのは、それはそれで皮肉っぽくて面白い、とも思う。

image by: 首相官邸

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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