そうしたなか、QBハウスは値上げを断行します。客離れを最小限に抑えられるかが焦点となりそうです。
懸念は値上げ幅です。基本料金を1,080円から1,200円に値上げしますが、値上げ率は11%にもなります。低価格を売りとする商品・サービスを1割以上も値上げするというのはリスクが高いといえます。致命的な客離れにつながりかねません。
業態や状況が異なるため単純な同一視はできませんが、QBハウスより値上げ率が小さい「6%」の値上げをした鳥貴族が厳しい経営状況に追い込まれていることから、QBハウスも同様な状況に陥らないとも限りません。
QBハウスの売りとなっている「10分・1,000円」の看板が崩れることの影響も焦点となりそうです。1,200円に値上げすることで「1,000円」の部分が崩れてしまいます。その影響が小さくは済まない可能性があります。
ただ、今回の値上げは致命的な客離れにはつながらないでしょう。懸念されるリスクを挙げてはみましたが、諸状況に鑑みてそういったリスクは限定的と考えられます。客離れがまったく起きないわけではありませんが、客単価が上昇することで売上高の落ち込みを相当程度抑えることができるレベルの客離れにとどまると考えられます。
圧倒的な知名度があることと大きな脅威となる競争相手が少ないことから、11%という高い値上げ率でもそのまま利用し続ける人が多いと考えられます。「1,200円でもまだまだ安い」と考える人が少なくないのではないでしょうか。
もちろん、脅威となる競争相手がまったくいないわけではありません。全国に約700店を展開する大人のカット料金が1,296~1,620円の「プラージュ」や200店弱を展開する同1,620円の「11cut」、約280店を展開する同1,080円の「サンキューカット」、約150店を展開するカット料金が1,080円の「クイックカットBB」など低価格を売りとする理美容店が全国各地に存在します。
しかし、QBカットは値上げしてもプラージュや11cutよりも安く、北海道を地盤とするクイックカットBBとは地理的に競合が少なく、いずれも脅威度はそれほど大きくはないといえます。サンキューカットやその他の理美容店に対しても、知名度などの観点からQBハウスの優位性が大きく揺らぐことはないでしょう。
これは、競争が激しい外食産業とは事情が異なるといえます。鳥貴族が客離れで苦しんでいるのは、同じ焼き鳥居酒屋である「三代目鳥メロ」などとの競争が激化したという事情があります。外食業界は似たような業態店が乱立しやすく客の移ろいが激しいという特徴があるため、少しの値上げでも客離れにつながってしまいます。一方、低価格を売りとする理美容店の競争環境は外食産業ほど厳しくなく、値上げに対する消費者の受容性は比較的高いといえるでしょう。