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ブームから定着へ。ナイトプールを「夏の定番」にする巧みな戦略

日焼けを気にせず楽しめ、インスタ映えも抜群とあって昨年女性を中心に大ブレイクしたナイトプール。今年もその勢いに乗り順調に集客を拡げているかと思うと、今年は「」。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんは、遊園地やホテルと言ったナイトプールを実施する各施設の取り組みを紹介するとともに、「ブームから定着するために必要なもの」についても考察しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

ブームから定着へ。2018年ナイトプール、各施設の創意工夫と集客の戦略

昨年大ブレイクしたナイトプールは、今年も好調をキープしている。しかし、猛暑の影響でプールサイドでの熱中症を気にしてか、全般に天気が良かった割には伸びていないという声も聞かれる。各施設ではプールを上がってからの食事、宿泊、プールサイドのイベントなどとの連携を深め、トータルで集客をはかる方向への転換を模索し始めている。

ナイトプールを営業する東京のホテルや遊園地の7月の状況を聞いたところ、昼の営業も含めてではあるが「昨年より15~6%ほど増えている」(東京サマーランド)、「昨年比で7%アップ」(東京プリンスホテル)、「昨年より若干、多いくらいだ」(京王プラザホテル、ANAコンチネンタル東京)、「昨年が悪すぎただけで、今年は例年並みに戻した感じだ」(としまえん)と、今年初めて特別なナイトプール向けの演出を行った東京サマーランドを除き、意外にも期待したほどの人の集まり具合ではないといったニューアンスだ。

東京サマーランドの名物「オーロラ/ナイアガラの滝」。撮影:長浜淳之介

ナイトプールが大盛り上がりというのは、冷夏を感じさせなかったほどの去年の話で、今年はブームこそ続いているものの落ち着いてきている。日焼けしない、インスタ映え、会社帰りに気軽に行ける、薄暗いから体形が気にならないといったナイトプールの良さに加えて、本当に涼める、休めるといった手軽な避暑リゾートとしての機能が求められるようになってきた。

一方、天候に左右されるプールは怖いと、昨年お台場と大阪城公園でウォーターパークを開催してナイトプールを盛り上げたハウステンボスが撤退している。今年は地元・長崎のみでの営業だ。お台場では人気が高かったため会期を数日延長していたほどで、賑わっていたように見えたが、ハウステンボスとしてはそれでも集客面で不満だったようだ。

従って、首都圏と関西はナイトプールを実施する施設は増えていても、ウォーターパークに行っていた人がどこに移ったのか。動態を詳しく調べないと、ナイトプールを楽しむ人が本当に増えたのかは微妙なのである。

昨年は冷夏であったが、関東甲信の梅雨明けは早くて7月6日頃だった。今年は関東甲信の梅雨明けは6月29日頃と非常に早かった。全国的に見ても南九州、沖縄を除き、十日ほど早く梅雨明けした地域が多かった。

早い梅雨明けと海離れの傾向といった追い風もあり、ナイトプールの昨年をはるかに上回る成果を事業者が期待したのは当然だろう。

ただし、今年は8月に入って台風の影響が出ている日もあるが、昨年のように雨続きではない。しかし、残暑に入って急速に気温が落ちて、夜肌寒い日も増えてきた。今後、立て続けに台風が襲来するリスクも高まっており、気象次第で営業成績が大きく下ブレすることもあり得る模様だ。

多くのプールは9月まで営業を続けており、温暖化で秋でも暑い日が増えていることもあり、8月後半に悪天候が続いた場合のリスク回避を行っている。

演出に夜景評論家を起用した東京サマーランド

今年大きくナイトプールの演出が変わったのが、東京都あきる野市の東京サマーランド。これまでも夏の夜間営業でライトアップを行ってきたが、今年は演出に夜景評論家の丸々もとお氏を起用。「空気・水・光」をテーマに世界各国の絶景をイメージした、フォトジェニックで幻想的な風景をつくり出している。

インスタ映えする大道具、小道具があるというのではなく、屋内、屋外のプール全体に上質な夜景を出現させる非常に大掛かりな取り組みである。ナイトプールの営業は7月14日~9月9日(7月17日~20日を除く)。

絶景スポットは8つあるが、特に屋外プールの高く水が噴き上がる噴水を活かしたナイアガラの滝とオーロラは壮大で、背景にしてスマホで写真を撮る人が絶えない

インスタ映え必至のオーロラ/ナイアガラの滝。東京サマーランド公式HPより

屋外と屋内のプールをつなぐ藤棚のトンネルでは、グラデーションに彩られた水墨画のような世界が現出している。

演出効果バツグンの藤棚。同HPより

また、屋内プールではタイのチェンマイで、11月の満月の夜に行われるコムローイ祭をイメージし、夜空に放たれて浮遊する無数のランタンを表現した。

コムローイ祭をイメージしたランタン照明の演出。撮影:長浜淳之介

さらには、地下温浴プールの湯遊大洞窟では15分毎に約5分間、イタリア・カプリ島の「青の洞窟をイメージした神秘的な青い照明に染まる。

青の洞窟。同HPより

この他にも、各所に光のショーや写真が撮れるスポットを配し、ナイトプールの主たる顧客である20~30代の女性の趣味に合う迫力のある演出を行っている。

日本最大級の流れるプールや、スリーフォール、トルネードなどの絶叫マシンで、家族、子供、学生に人気のある東京サマーランドであるが、夜は大人のムードで女性のグループやカップルに来てもらおうと、異なった客層を狙ってファンを広げようという試みだ。

実際に女性客が多く、女性同士のグループが半数以上を占めてはいるが、幅広い客層を持つテーマパークの特性で、男性客、ファミリー、シニアの顧客も合わせて4割くらいはいるので、極端に偏ってはいない

「ドーム内の屋内プールがあるので、熱中症対策にはなるのではないか。天候によって大崩れしないのがウチの強み」と東京サマーランドの広報では自信を深めている。

9月にはナイトプールの絶景を活かした婚活イベントが予定されており、プールで涼む、インスタ映えスポットがあるといった動機以外でも集客できる仕組みをつくろうとしている。

一昨年8月に起きた切り裂き魔事件の影響で、昨年は集客を落としていたが、今は入場時に手荷物検査、金属探知器によるチェックが課されており、空港並みの厳しいセキュリティとなっている。復活なったと言えるだろう。

冷たい井戸水プールが心地よい、としまえん

遊園地では、としまえんも今年、ナイトプールを強化してきた。開催日は7月27日~9月2日の金・土・日とお盆期間の8月13~16日。

一番の変化は、クリエイティブ集団「ネイキッドが手掛けるプロジェクションマッピングイベントを、「ナイアガラプール」で実施したことだ。自然に囲まれた「ナイアガラプール」の森の精が奏でるミュージカルを制作し、思わず歌って踊りたくなるようなファンタジーの世界が楽しめるようになっている。

プロジェクションマッピング。としまえんHPより

また、「ナイアガラプール」ではペアフロート(2人乗りの大型浮き輪)のレンタル、光る球の演出もあり、プロジェクションマッピングイベントをゆったりと、幻想的な雰囲気で鑑賞できる。

ペアフロートが夜のプールを盛り上げる。同HPより

「波のプール」ではLED電飾のコスチュームを身にまとったライダーが、音楽に合わせて約十メートルの高低差で水上パフォーマンスを行う、「ハイドロスター ウォーターショー」も開催している。

ハイドロウォーターショー。同HPより

飲食では、夜限定のメニューとして、日本初上陸のスウェーデン生まれスペイン育ちのフローズンカクテルN’ICE」を販売。ローストビーフ、パンケーキなど、プールサイドではあまり売っていない本格的な食事メニューにチャレンジしている。

「ナイトプールはいい形で来ていて、プールから花火を見る人も多いです。しかし、今年は暑すぎて昼間は思ったほど集客できていません」と、広報担当者はもっと入って欲しかったというニュアンスだ。

としまえんではプールに井戸水を使っているので、気温が40℃近くあっても水温は他の競合プールよりは低い。実際のところ、水温が30℃を超えると水の中にいても大して涼しくもない。ぬるま湯のようなプールに一度でも入ってしまうと、もう二度とプールに行きたくなくなる人も出てくるかもしれない。熱帯夜では、夜になってもなかなか水温も落ちない。

プロジェクションマッピングやハイドロスター ウォーターショーは見応えがあって素晴らしいが、今年のような猛暑だと井戸水による気持ちいい水温のアピールも必要のようだ。

都会のオアシス、ANAインターコンチネンタルホテル東京

ホテルでは、今年ナイトプールの大幅な企画の変更を行ったのが、赤坂のANAインターコンチネンタルホテル東京である。4階にある「ガーデンプール」が、名門シャンパンメゾンメゾンマムと提携。新発売のロゼシャンパン「マム グラン コルドン ロゼ」をイメージしたピンク及び、マムのブランドカラーの赤と白の装飾、照明を全体に施している。営業は6月23日~9月30日。

ガーデンプールの演出。ANAインターコンチネンタルホテル東京HPより

いかにも女性向けで、男性は行きにくい雰囲気になっているが、今年だけの特別仕様とのことだ。顧客も女性が9割残りの1割がカップルと、後述する「東京プリンスホテル」に類似した客層になっていたが、お盆に入って以降は従来の顧客層であるファミリーが増えている。来年、コラボを解消して元の顧客が戻ってくるのか、興味深い。

併設の「プールサイドスナック」ではマムのシャンパン、ワイン、スムージー、かき氷、ピッツァ、小海老のオーロラソースなどのメニューを揃え、テイクアウトにてセルフで運んでプールサイドで味わうことも可能だ。

「ガーデンプール」は都会のど真ん中にありながら、赤坂アークヒルズの緑豊かな環境に恵まれ、都会のオアシスを感じさせるラグジュアリーな雰囲気が特徴。プールサイドにピンクのチェア、プールの水面にはマムの巨大なバルーンが浮かべられている。毎週木曜日はDJイベントを行い、リゾート気分を盛り上げている

しかし、猛暑で水温が高まり過ぎると、さすがにレジャーとしては厳しいと感じる人が多いようだ。

また、4階オープンエアスペースでは「メゾンマム」との提携で、ビアガーデンならぬシャンパンガーデンも開催している。高感度の女性に「メゾンマム」の良さを認知させれば広告としては成功で、宣伝として考えるのならこのようなやり方もありなのだろう。ANAインターコンチネンタルホテル東京は来年も何かコラボを決めて、ナイトプールを宣伝メディアに使うことに徹するのだろうか。

ブームの牽引役、東京プリンスホテルは昼のプール利用客が増

昨年、女性ファッション誌「CanCamとコラボして、独特な“ゆめかわ”空間を創出し、2万人が来場。ナイトプールブームを牽引した「東京プリンスホテル」は、コンセプトは変えず、昨年とは違った新しいインスタ映え用の撮影スポットや大型フロート(浮き輪)の投入を行っている。今年はナイトプールの開催期間は7月7日~9月17日。

 

一昨年から「CanCam」はナイトプールをプロデュースしているが、昨年「品川プリンスホテル」から東京タワーの見える「東京プリンスホテル」に移転して、より幻想的な表現力が増した。

背後に東京タワーを望む。「CanCam×Tokyo Prince Hotel Night Pool」2018公式HPより

しかし、「東京プリンスホテル」広報によると、「今年はむしろ夜より、昼のプール利用客が増えている」とのこと。プールと宿泊と、ブッフェ、和食、中華と3つのレストランから選べるディナーがセットになった宿泊プランが、ファミリーに受けているようだ。暑すぎてプールにいるのが厳しくても、クーラーの効いた屋内でのんびり過ごせる。

東京プリンスホテルの今年のテーマは「ピンクディスコ」。同HPより

「東京プリンスホテル」のナイトプール場合、10代後半から25歳くらいまでの女性が9割残りの1割がカップルといった偏った顧客層。ホテルの中にあるコンビニにはプール上がりの顧客が行列をつくっており、どうやら宿泊や食事にまで回るお金は持ち合わせていないらしい。

暑すぎる夏にも対処できる京王プラザホテル

京王プラザホテルの「人魚姫マーメイド)」をテーマにした各種レストランとのコラボ企画も、食事の内容は異なっているが、昨年から継続しているテーマだ。ナイトプールの開催は6月23日~9月17日。

新宿副都心にある京王プラザホテル・スカイプール。京王プラザホテルHPより

5,000円~7,000円くらいの価格帯で、プールとスイーツブッフェ、プールとフレンチ&イタリアンなどのディナーが楽しめる。ナイトプールだけの利用で平日4,000円、休日と指定日5,000円掛かるので、食事とセットにしたほうが断然得な価格設定となっている。

プールとセットになるマーメイドのスイーツブッフェ。同HPより

この戦略で、会社帰りのOLカップル大学生を多数集客し、成功してきた。若い人たちにプールをきっかけに食事も手軽に体験してもらい、ホテルをもっと身近に感じて使ってほしいという願いが込められている。特に京王プラザホテルは充実したレストラン街を有しており、昨今のビジネスホテルによくあるレストランもないホテルとは、一線を画している。

今年ほどの高湿度の猛暑になれば、高層ビルの影にあるプールなので他のホテルのプールよりは涼しく感じるはずが、それほどでもなかった可能性がある。しかし、屋内で涼めるレストランとのセット券であるならば、顧客は一通りインスタ用のスマホ撮影が済んでしまえばさっさとプールから上がって冷房の効いたレストランでゆっくりすればいい。

つまり、暑すぎる夏にも対処できるプランニングが京王プラザホテルの強みなのである。

以上、ナイトプールの取り組みは、昨年の冷夏、今年の猛暑のような気象条件になるべく左右されないような屋内などで過ごす食事などとのセットプランが重要になってきている。それか、ANAインターコンチネンタルホテル東京のように広告メディア化するのに徹するか、或いは暑さ寒さを忘れるほど行きたいよほどの魅力あるコンテンツがあるかどうかである。ブームから定着へと、各施設の頭の使いどころだ。

image by: 【公式】「CanCam×Tokyo Prince Hotel Night Pool」2018(撮影/川原崎宣喜)

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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