MAG2 NEWS MENU

【書評】霞が関は嘘ばかり。財務省が使うマスコミという名の犬

「日本の財政は先進国最悪」と財務省やマスコミは声を大にして喧伝しています。しかし、今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが紹介している書籍の著者・高橋洋一氏は、「それは完全なフェイクニュースである」と断言、そのからくりを暴露しているのですが…、私たち国民は、官僚とマスコミにかかればたやすく騙されてしまうようです。

「官僚とマスコミ」は嘘ばかり
高橋洋一・著 PHP研究所

高橋洋一『「官僚とマスコミ」は嘘ばかり』を読んだ。著者は大蔵官僚そして財務官僚、首相官邸の仕事をしてきたので、「ニュースが、いかにつくられるか」については、多くの事例を見てきた。また、自身が当事者として「ニュース・ソースになる=ニュースをつくる立場」だった経験からいうと、ニュース報道の作り手と受け手が見る景色はまったく違うという。

実際に官僚や政治家が「マスコミ対策」としてどんなことをしているのか。ニュースはいかに「つくられる」のか。興味深い話が多い。しかもやさしい記述である。著者は大蔵省で初めてバランスシートを作った人で、中興の祖とも呼ばれているが、いまは在野でかつて知ったる大蔵省(→財務省)を厳しく斬る立場だ。

財務省が喧伝する「借金1,000兆円でGDP500兆円だから、債務残高対GDP比は200%」により、「日本の借金は先進国で最悪」「ギリシャより財政状況が悪い」などと報道が続くが、著者は完全なフェイクニュースであると断じる。財務省は国民に知られたくないことは、記者レクチャーをしない。そのためどの報道機関も報じない。じつは日本の財政状況は、財務省の言う先進国最悪どころかアメリカよりもいい

日本の「ネット負債(資産負債差)対GDP比」は87%くらいだが、それでもアメリカの方が常に比率が上で、アメリカの方が財政状態が悪い。悪いと言ってもどうという数字ではない。日本より財政の悪いアメリカが年17兆円の大減税をするが、問題になるレベルではない。国のバランスシートにおいては、負債のみでなく資産・負債両面を見ることが適切な会計フレームワークなのである。マスコミはそういう報道をしない。財務省がさせないからだ。

財務省は、海外では英訳した日本国家の財務諸表を配っている。それを見せて「日本は大丈夫です」といい国債を売っていながら、国民に対しては財務諸表を伏せて「財政が危ない」といい続けている。日本の財政はまったく問題がないばかりか安全レベルである。著者はイデオロギーで言っているのではない。「数字を見る限り、〈現時点おいては安全だ」といっているだけである。

本当のことを言えば、あと250兆円くらい借金を増やしても日本は大丈夫である。減税余地も、財政出動の余地もある。日本のマスコミは財務省にやすやすと騙されている。日経新聞も企業のことを報じるときはバランスシートのことをいうのに、国のことを報じるときにはいわない。

財務省がこの先に着々と設定しているのは「増税」である。安倍総理は消費税率10%への増税を予定通り2019年10月から実施する。しかし、増税しても、それを全部使い、財政再建は先送りという方針なので、マクロ経済的には増税しないのと同じことになる。増税派が勝ったわけでなく、痛み分け、五分五分である。著者は「増税しないほうがいいと考えるエコノミストである。

財務省には「首相に忖度しなければ出世できない」とか「政治家に逆らうと危ない」などいったプレッシャーはない。逆に政治家を潰す力がある。財務省には他の省庁にはない三つの大きな権限があるからだ。予算編成権、国政調査権、官邸内に張り巡らされた人的ネットワークである。官邸内のほとんどの情報は、財務省に筒抜けになっている。財務省は内閣と十分に対峙できる強い立場にある。

役所の中でも財務省はとくにマスコミ操縦に長けている。マスコミだけでなく、めぼしい学者や知識人をしっかり味方につけている。高名な専門家が財務省寄りの発言をすると、マスコミは疑うことなく、財務省が望むような報道をしてくれる。大半の記者は経済の知識は不足だから、不思議なほどコロッと丸めこまれる。

財務省の役人は、翌日の新聞社説に財務省が希望する内容を書かせることができる。社説というのは、財務省の管理職として普通の仕事だった。社説に書かせたいことがあると、局長が課長級の者を5~6人集め競わせる。局長の指示を受けて、一斉に新聞社にアプローチし、うまくいったり、うまくいかなかったりする。書かせることができた者は褒められ、できなかった者は叱られる。

新聞社側も役人に頼まれたくらいでは易々と社説には書かない。役人と新聞社のせめぎあいになる。ということを見越して、財務省の要望通りに社説を書いてもらうべく、各新聞社の論説委員と濃密な関係を結んでいる。財務省の審議会に、新聞社の論説委員を加えておくのが典型的な手である。とはいえ、審議会に入ってもらっただけでは、その人が財務省寄りの社説を書いてくれるとは限らない。

そこで官僚は若い頃から、新聞記者の有望な人と親交を深めておく。記者にリーク記事をあげて貸しを作ったりする。ギブ・アンド・テイク。書いてもらいたい記事があるときには頼み込む。その記者が偉くなって論説委員になったとき、社説に書いてくれるような人間関係になる。社説でなくても一面トップならOK。望むような記事を書かせるのが、財務省の役人の宿命のようなものだ。

そもそも「なかったことを証明することほど難しいことはない。当事者がいくら「なかった」といっても何の説得力もない。「なかったこと」を証明するエビデンス(証拠)はない。「なかったこと」の証明は「悪魔の証明」である。証明や証拠は「あった」と主張している方にあり、「なかった」という方にはない。マスコミは、野党は、疑惑追及にはエビデンスを示さなければならない。

とるに足らない「もりかけ問題」をマスコミや野党が、これほど延々とやっていた動機はなにか。他に政権を攻める材料がなかったからだ。野党はどんな手を使っても安倍政権を叩き落とし、憲法改正を阻止したいという思いを強めているが、安定した経済運営に関しては政権を攻めようがない。新ネタがあれば「もりかけ問題」はすぐに収束していた。ネタ不足の結果が、お粗末で不毛な国会となったのだ。

著者は役人時代に、総理を悪く書きたいマスコミに、発言を切り取られ利用された反省から、最近はマスコミから取材を受けるときは、同じ内容のことをネットメディアに文章で載せるようにしている。きちんとした長いものを書いておけば、マスコミが勝手に切り取ったとしても「一部を切り取っただけ」と説明ができるわけだ。新聞に掲載された日にネットで公開している。財務省を批判する人の危機管理のお手本である。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

日刊デジタルクリエイターズこの著者の記事一覧

デジタルメディアで活躍する現役クリエイターたちのコラムで構成されている本格派。総発行部数約16000! 真のクリエイターを目指している方からデジタルに関わる方まで、すべてに向けて発行中!

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】 』

【著者】 日刊デジタルクリエイターズ 【発行周期】 ほぼ日刊

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け