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【書評】京都人と大阪人、どちらが助平か真面目に調べた結果

今や全世界から観光客が訪れる京都。多くの人が憧れ、住んでみたいとさえ思うその街に生まれ育ったにもかかわらず、京都が「きらい」と断言する著者が綴るまったく新しい京都論に続編が登場しました。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが詳しく紹介しています。


京都ぎらい 官能篇
井上章一・著 朝日新聞出版

少し前、ずいぶん勝手に屈折したオウンゴール京都論、井上章一『京都ぎらい』を読んだ。埼玉県人にはよくわからない精神の自家中毒自分語りは、それなりに味わいが深く、見当違いのツッコミもしてみたものだが、だいぶ評判がいい本である。続編『京都ぎらい 官能篇』を読む。

大学浪人時代を地元の嵯峨で送る著者が、近所を散策しながら暗記物に励んでいると、一人旅の若い女性から声をかけられることがよくあり、もちろん道案内だが、大いに潤いをもたらしてくれた。夢をみることができたという。地元と古典のつながりを教わったのも、このシチュエーションであったらしい。

1990年代、知り合ったテレビの構成作家が言うには「大阪と京都を比べたら、大阪の方がやらしいと思われてるのは、なんでややで。そんなん、話の前提じたいがおかしいわ。どう考えても京都のほうがやらしいんちゃう?(略)僕はやっぱり、京都の方が助平やと思うけどなあ」と、著者の考えとは真逆だった。

1980年代の大阪助平伝説と京都無垢幻想という、ステレオタイプに染まっていた著者は驚き、もう少し歴史を遡れば京都の方が淫靡な時代があったのではないかと思いを馳せるようになる。そして、古典の世界の「太平記」「とはずがたり」「源氏物語」「万葉集」「宇治拾遺物語」「平家物語」「吾妻鏡」などを引いて、王朝の性行為がまつわる政治、文化について講釈している。

わたしにとって、本文はかなり退屈な内容だと思ったが、まえがきとあとがきに、いかにも狭量な著者らしさが現れていて好感度が高い(屈折した趣味w)。『京都ぎらい』はどういう形で配架されているのか、それを知るため著者は多くの書店をはしごした。そして洛中の店の「ほんとうは好きなくせに」というPOPに唖然とする。「私はうそつきだと決めつけられていたのである

『京都ぎらい』と京都のあいだをとりもつ苦肉の言葉だ、著者に喧嘩を売っているわけではないのだ、と当初は受け止めた筆者だったが、後にこのコピーを書いたのが大阪人らしいと聞き及び、考えを改めた。大阪人は京都人を中華意識でこりかたまっている、と考えやすい。京都側の自己批判に対し、みな逆説的な京都愛が込められているとらえる。嵯峨育ちの井上も同じ京都人だ、と。

悲しいほど嵯峨育ちにこだわる著者である。どうせ京都愛が書かせた本に決まってる、と決めつけられたのがグヤシ~、らしい。さて、この著者はひらがなを多用するのが特徴である。どうして漢字をちゃんと使わないのだ、としばしばなじられてきたという。『京都ぎらい』はよく売れているが、ひらがな過剰を非難する手紙もこれまで以上に届いた。版元もその苦情に困惑したらしい。

漢字は中国・漢の字である。「やや狭量の大和言葉びいきの私は、外来のものとして、とらえている。だから、名詞や代名詞、つまり体言としてつかうことは、いとわない。だが、形容詞や動詞、用言としてもちいることには、わだかまりを感じてしまう」のだという。問題はその考えを一貫させていない点だとも。「美しい」「感じる」を「うつくしい」「かんじる」にしきれない。妥協するのがふがいないと思う、という。あまり気にならなかったけど。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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