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科学者が暴露。身体に良い油、悪い油は結局「体質」によるらしい

時代劇や歌舞伎からさらには政治まで、悪役と正義の味方を完全に峻別する風潮はあらゆる領域に及んでいます。3大栄養素の1つである、油(脂質)に対する世間の捉え方も同様です。今回の無料メルマガ『アリエナイ科学メルマ』では、著者で科学者のくられさんが、「良い油と悪い油」に関する正しい知識を記しています。

体に良い油 悪い油 ってなんなのか?

脂質は糖質タンパク質アミノ酸に並ぶ3大必須栄養素です。ベジタリアンやビーガンがアホみたいに偏食をして体を壊していることが多いのも、こうした栄養素の偏りや、「ばっかり喰い」をすることで、体の代謝や解毒などで問題が起こることから来ていることが多くあります。ただ、糖質と脂質は取り過ぎもよくないことが知られており、カロリーも高いため、肥満の原因にもなりやすいとされています。

しかし、近年「良い油は太りにくい」「悪い油は太るといわれています。オリーブオイルは良い油なので食事にぶっかけて良くて、トランス脂肪酸が入っているショートニングは太る油だから摂らない方がいい…とかなんとか。これはどういう理屈なのでしょうか?

脂質とは親水性の炭化水素(グリセリンなど)に疎水性の長い枝(脂肪酸)がついたものが「油」と一般的に認識されています(実際は一部ワックスなども含むので完全な定義ではない)。栄養学的にはこれらが体内で切り分けられて脂肪酸が取り出されこの部分がヨシ!」「ヨクナイ!といろいろ言われるわけです。

食用油に関しては、この脂肪酸の長さやその組み合わせによって物質としての名前がつきます。脂肪酸はリノール酸とか、ラウリン酸が多いとか、ドコサヘキサエン酸とか、聞いたことが多い名前がついていますね。油のパッケージに「~酸が高含有!」とかいうのは脂肪酸の名前のことだったわけです。

次に油の融点があります。常温で固体の油(ココナッツバターとかラードや牛脂)、液体の油(サラダ油全般)この差はなんなのでしょうか? また飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸とはなんなのでしょうか? そして中鎖脂肪酸とか長鎖脂肪酸とかいう長さの話。これはどういう意味なんでしょうか。

まずは「飽和脂肪酸不飽和脂肪酸」という言葉。これは、脂肪酸の長い炭素鎖(炭化水素のつながり C-C-C-みたいに連なっている)に二重結合があるかどうかという化学的な性質の見方で、飽和だから不飽和だから良い油・悪い油という簡単な話ではないということです。細かい話は後ほど

次に脂肪酸の長さの話です。炭素数が4~8個は短鎖脂肪酸、9~12を中鎖脂肪酸、13以上のものを長鎖脂肪酸と呼んでいます。これも短いから体に良いとか長いから体に良いとかそういう簡単な判断材料にはなりません。

この炭素の連なりが短ければ液体っぽい油長いと固体っぽい油になります。また不飽和はやわらかく、飽和脂肪酸は堅いというイメージを持っているといいかもしれません。

例えば、サラダ油は冬場は固まりませんよね。これはサラダ油、特にコーン油はリノール酸という炭素数18の長鎖脂肪酸ですが長くても二重結合が多く融点は-5℃と常温では液体です。

一方ラードや牛脂に含まれる脂肪酸は飽和脂肪酸で二重結合は無く、さらにC16の長さということもあって、単体だと融点は62℃とほとんどロウのような物体です。実際は、ほかの油脂が溶け合うことで、融点は低いですが、それでも常温ではガッツリ固体な印象ですよね。

その間…となるのが炭素数8のカプリル酸と10のカプリン酸などで構成される中鎖脂肪酸の代表格としてココナッツオイルなんかがあります。確かに夏場は液体冬場はネッチリ固まっている印象がありますね。

このように分子の長さや二重結合の有無で油の柔らかさが決まるのですが、これだけで体に良いとか悪い…しかも食べるのと塗るのでは真逆だったりするのが油のおもしろいところ。

さて、油についてだいたい軽く話をした上で、「美容に良い悪い油ってなんなのか」という話に入るわけです。

健康に良いと言われている油にオリーブオイルがありますね。オレイン酸が多く含まれており、オレイン酸は、代謝しやすく、熱になりやすい油であり、さらに抗酸化作用などもあって「健康に良い油」の成分として代表的に紹介されています。ただ、別にオレイン酸が健康にいいから…といってオリーブオイルだけにする必要もなく、菜種油にもひまわり油にも米油にも含まれていますし、そもそも必須脂肪酸でもないので、異常に強調してオリーブオイルが健康に良いという話にもっていくのは無理があります。

また、オリーブオイルの中でもひときわ味の良い、エクストラバージンオリーブオイルは飲んでよし、塗ってよし…みたいな話をたまに美容系サイトで見かけますが、飲んで良いものは塗っても良い…とは一概に言えません

特にエクストラバージンは精製されていないので、不純成分食べる分には良いが太陽光などを浴びてどんな物質になるのか検討もつかないですし、基本的に二重結合が多い脂肪酸ほど紫外線で分解変成することで、よからぬものになってアレルギーの原因物質などになる可能性のほうが高いといえます。化粧落としならそれこそ精製された化粧品グレードの流動パラフィンに勝るものなしです。

そもそも肌を植物油で保湿するというのはあまり良いことではありません。皮膚の常在菌が植物油をそれほどうまく利用できるかというとかなり疑問です。肌の正常な保湿というのは、皮脂の正常な分泌に、それをちゃんと利用して、常在菌が快適な適度な保湿ができるように肌自体が常在菌とあわせて作るものです。

なので自分の化粧水の説明では、乳液(油入りの化粧水)は不要としているのは、そのせいです。乳液をつけないと乾燥してしまうような肌はバランスが崩れているので皮膚科で薬をもらってくるか食生活などを改善するべきなのです。

最後にトランス脂肪酸です。不飽和脂肪酸を人為的に飽和脂肪酸にすると、二重結合の部分からねじれが発生して、自然には非常に少ない(存在しないわけではない)形の油になります。人工的なモノなので、プラスチックオイルとか腐敗しないとかいろいろな都市伝説がありますが、そもそも油は常温保存でそうそう腐るものではないので、トランス脂肪酸だから腐らないというのは語弊があります。

とはいえ、あまり大量に摂取することは健康的に良くないというのは多くの実験で確認されており、それに関しては疑問を挟む余地はありません。ただ、トランス脂肪酸を絶対悪にして、絶対排除みたいな流れ自体はただのスケープゴートとしての利用でしかありません。

トランス脂肪酸はその安価かつ安定した性質から、夏場のチョコレート菓子の安定性を高めたり、冷凍焼けを防ぎ冷凍食品の味を劇的によくするなどの貢献もしています。また、一般的な食事ではそもそもトランス脂肪酸が危険な量に達することのほうが難しいくらいなのでそれほど懸念するような話でもないと自分は思います。

というわけで、健康に良い油というのは体質によります。人によっては特定の油でおなかがゆるくなることや、ニキビができやすい、肌荒れが起きるなどのいろいろな差があります。

そもそも「食用油」というのは、人類の歴史上でたかだか2,000~3,000年の付き合いしかないわけで、つい100年前くらいまでは高級品でした。人間の生物として、ここまで大量の油と接する今でこそ、使用量を少なくしていき自分の健康にあった油はどれなのか自分をよく観察して見極めることが大事なのではないかと思います。

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image by: icosha / Shutterstock.com

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シリーズ15万部以上の不謹慎理系書「アリエナイ理科ノ教科書」著者。別名義で「本当にコワい? 食べものの正体」「薬局で買うべき薬、買ってはいけない薬 」などを上梓。学術誌から成人誌面という極めて広い媒体で連載多数。

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【著者】 くられ 【発行周期】 週刊

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