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台湾人「外交官」を自殺へと追い込んだ、中国の卑劣な偽ニュース

9月4日、台風21号による浸水被害で大混乱に陥った関西国際空港。国内外でも大きく報じられましたが、中国が意図的とも思える「フェイクニュース」で台湾人外交官を自殺に追い込んだという報道が耳目を集めています。この件について、台湾出身の評論家・黄文雄さんは自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で詳しく紹介。そのしたたかな習近平政権のやり口を批判するとともに、関空がフェイクニュースの舞台に選ばれた理由についても持論を展開しています。

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2018年9月25日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【台湾】台湾人外交官を死に追い込んだ中国フェイクニュースの実態

台湾・大阪処長が自殺

9月14日朝、台湾外交部は蘇啓誠(そ・けいせい)台北駐大阪経済文化弁事処領事館に相当の処長61が自殺したと発表しました。まずは、亡くなった蘇氏のご冥福を祈るとともに、日台関係の発展にとって必要な人材を亡くしたことを大変残念に思います。

ことの発端は台風による影響で、関西国際空港に多数の外国人旅行者が取り残されたことから始まりました。当時の関空がどのような状況だったかについては、以下報道を一部引用します。

9月4日、関空では台風21号の影響で大規模浸水被害が発生。滑走路は閉鎖され、ターミナルも機能を停止した。また大阪湾に停泊していた貨物船が流されて、本土と空港を結ぶ連絡橋に激突。空港への行き来が事実上不可能となり、台湾人や中国人を含む数千人の旅行者が空港内に取り残された。

大阪駐在の台湾外交官はなぜ死を選んだのか

日本人も外国人も空港から出ることができず、その場にいる人々は皆イライラしている状況だったことでしょう。このフラストレーションが渦巻いた状況下で、中国が巧みにフェイクニュースを流したのです。以下、上記サイトの報道を引用します。

中国のネット上では中国大使館の尽力によって、関空から取り残された中国人旅行客がバスで優先的に避難したという情報がSNSを中心に流れた。

 

中国ではこの情報に「祖国は偉大だ」など賞賛する書き込みが相次ぎ、9月6日までに中国共産党の機関紙である人民日報系列の新聞、『環球時報』など公的メディアの電子版も拡散した情報に追随して報道した。

これを受けて、台湾側も素早く反応しました。上記サイトの報道を引用します。

台湾のネットユーザーはSNSを中心に、台湾外交当局に対し「なぜ(中国は動いたのに)駐日代表処は動かないのか」と批判を展開。主要な台湾メディアも、新聞・テレビ・ネットで真偽不明と断りを入れつつも中国旅客が優先的に避難し、大阪弁事処が何も対応できていないと報道を展開した。

 

報道の盛り上がりを受け、台湾の政治家はすばやく反応した。最大野党・中国国民党の立法委員(国会議員に相当)らは6日、独自に外交官僚を招聘して公開ヒアリングを実施。台湾の駐日代表処と中国大使館の比較を通し、いかに準備が不十分だったかを質問した。

日本の報道では、こうした台湾政府に過剰な要求をする台湾市民を『モンスター選挙民』、過剰な反応を示す世論を『モンスター世論』と呼んでいます。

台湾・大阪処長を自殺に追いやった「モンスター世論」と深刻与野党対立 台風対応を指弾され…

その『モンスター世論』によって、責任は自分にあると思い込んだ蘇氏は、思い詰めて自殺をしたということです。確かに、台湾人と中国人の間にあるライバル意識は根深いものがあり、何かにつけ、互いに競っている面はあります。今回はそんな心理を利用されたとしか言えません。

中国は中国人専用バスをチャーターして自国民を救助したと言われれば、台湾だって負けてはいられない、台湾政府も台湾人を救う行動に出るべきだ。今の台湾人の思考回路は、そう考えるようになっています。

しかし、報道によれば実際は中国人専用バスのチャーターはなかったそうです。以下報道を引用します。

政治家の発言やニュース報道の内容について事実関係を検証する「ファクトチェック」を行う「台湾ファクトチェックセンター」は、日本の提携団体「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」を通じて、関空の運営会社に事実関係を確認しているとし、続いて、関空側は、バスの扱いについて、

 

  1. 中国の総領事館から関空にバスを乗り入れたいという要望はあったが、断った
  2. すべての乗客を国籍関係なく関空のバスで目的地に運んだ。中国の乗客は、航空会社の誘導もあって、まとまってバスに乗った
  3. 目的地は原則として泉佐野駅だったが、中国の乗客は非常に人数が多いので、中国の乗客を乗せたバスだけ泉佐野市内のショッピングモールの駐車場を目的地にした
  4. 中国の総領事館が手配したバスは、この駐車場に待機していた

などと説明したという。

それなのに、一度流出した偽情報はどんどん拡散し、以下のような内容を伝えながら独り歩きしました。

中国のニュースサイト「観察者」は、ネット上の声を引用しながら、

 

  1. 中国総領事館は15台のバスを関空に送り込んだ
  2. 台湾人も一緒に乗れるかと聞いたところ、帰ってきた答えは『自分が中国人だと思うのならば乗れる』というものだった

などと伝え、この2点は台湾メディアでも拡散された。中国語圏のネットでは、中国が迅速に自国民を優先的に脱出させることに成功したとして賞賛の声があがり、それと対比させる形で、台湾当局への批判も相次いだ。

台湾「総領事」自殺の背景 中国報道きっかけにバッシング、しかし…

蘇氏の自殺後に出てきたこれらの情報を整理すればするほど私が思うのは、中国のしたたかさは本当に徹底しているということです。助けを必要としている台湾人に向かって、中国人と言えば助けてやると踏み絵を踏ませながら、全員助けない上に台湾人に台湾政府を攻撃させる

情報時代の仕組みを多いに利用した心理戦に、台湾人はまんまと乗せられ自殺者まで出してしまったというのが真相のようです。また、台湾内の野党と与党の争いも利用されています。蘇氏は民進党に迷惑をかけたくないという気持ちもあっての自殺だったのではないかというのが、もっぱらの噂です。

蘇氏は優しい男でした。日台交流に熱心でした。今回、日本でのトラブルが利用されたのも意味があるのではないでしょうか。内容的には、あくまでも中台の争いですが、その舞台に関空が選ばれたのは、中国が日台の相思相愛ムードにやきもちを焼いてのことだったのではないかと私は勝手に推測しています。台湾人どうしを争わせると同時に、日本のイメージダウンを狙って相思相愛を阻止しようとするあざとい思惑があったのではないか、そう邪推してしまいます。

今回の事件で日本側にはこれといって落ち度はありませんが、強いて言うなら、日本側が中国の発したフェイクニュースをもっと早くに否定するべきでした。国籍は関係なく、みな同じように救助するから、当事者や関係者たちは焦らず慌てずに冷静に対応して欲しいと、早い段階から呼びかけるべきでした。

逆に、今回最も批判すべきは台湾のマスメディアでしょう。いくら国民党の息のかかったマスメディアがあったとしても、台湾は中国とは違って民主主義です。報道の自由はあります。

国民党系ではないメディアは、中国が流した偽ニュースの真偽について慎重になるべきでした。中国側の偽ニュースを台湾のメディアが闇雲に拡散した結果、台湾の世論はモンスター化して、蘇氏を追い込む結果となったのです。情報は武器になる。我々は、蘇氏が残してくれたこの教訓を胸に刻み、同じ過ちを繰り返さないよう努めるべきです。

領事館が戦争や政争に巻き込まれるというニュースは数えきれないほど多くあります。かつて、日本の領事館関係者が中国からのハニートラップを仕掛けられ、「国を裏切ることはできない」と言って自殺した事件がありましたが、私は痛く感動しました。

蘇氏の自殺についての真相はなおも不明な点が多々ありますが、もしも中国のフェイクニュースが原因なら、偽ニュースの犠牲者の一例として教訓に残る事件となるでしょう。

目下、台湾は地方選挙(中間選挙にあたる)運動の真っ最中です。野党国民党も中国政府と手を組んで政権奪還を目指しています。反日日本人も、このチャンスに日本を貶めることに躍起になっています。例えば、台湾の国民党本部に慰安婦像が設置されましたが、このことを針小棒大に報道し、まるで台湾全土が反日のように伝える論評さえありました。これも一種のフェイクニュースと言っていいでしょう。

中国の歴史と文化には、古来「騙の文化」があります。これを研究している中国人学者も多くいます。つまり、いわゆる「鳥龍消息(フェイクニュース)」は最近出てきたものではなく、中国では昔からあるもので時代とともに進化し続けてきたのです。中国の俗謬には「人民日報は人民を騙す。中国では詐欺師だけが本物だ」というものがあるように、中国社会は嘘まみれ、人間不信社会なのです。このことについては、あの朱鎔基元総理も嘆いたことがありました。

中国は今、トランプ大統領から仕掛けられた米中貿易戦争でてんやわんやしています。習近平も、少しでも弱腰を見せれば国内の反習近平派に逆襲され政治生命にもかかわるため、最後までアメリカに抵抗するでしょう。

しかし、中国は面とむかってアメリカとは戦えないジレンマがあるだけに、そのフラストレーションは台湾いじめに向けるしかありません。おかげで、中国の台湾いじめはどんどん加速する一方です。

しかし、アメリカはアジア情勢の均衡を保つため、台湾と断交したラテンアメリカ諸国に対して大使を召還するなどの措置を取りました。米中貿易戦争は、確かに米中だけでなく世界経済への打撃も大きくなっています。ただ、私はこのトランプ大統領の破壊行為が、国際秩序の破壊的建設」になるのではないかと睨んでいます。

従来の国際秩序を一度破壊して、新たな世界を作り上げるための転換期だとも考えられるのではないでしょうか。

image by: shutterstock

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2018年9月25日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込648円)。

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