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経団連が大英断。「就活ルール」で若者を食い物にしてきた大人たち

経団連が正式に発表した「就活ルールの廃止」が大きな話題となっています。賛否両論入り乱れる中、「大賛成」の立場を取るのは健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の中で、就活ルールがこれまで学生たちからどれだけ大切なものを奪い続けてきたかを糾弾するとともに、「ルール廃止で学生が混乱」という意見に対して「困るのは今まで就活の名の下に学生を食い物にしてきたオトナたちの方」との厳しい見解を記しています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年10月10日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

「就職一括採用」という病

「就活ルール」をめぐる問題で、経団連は10月9日の会議で、企業の採用活動の解禁時期などを定めた指針を、2021年春の入社分から策定しないことを正式に決定しました。

昭和28年以降、60年余りにわたって何らかの形で示されてきたルールが幕を閉じることになります。今後は政府と大学側が協議会を設置し新たなルール作りを検討するそうです。

9月3日に経団連の中西宏明会長が「個人の考え方」とした上で、就活ルール廃止発言をした件に関する私の見解は、9月18日付の日経ビジネスのコラムに書いたとおりです(「学生を規格化する『就活ルール』は即廃止すべき―『選択の自由』を許さないと生きる力は摩耗―」)。

なのでそちらをお読みいただきたいのですが、結論だけ申し上げれば私は大賛成。かなり昔から「即廃止すべし」と考えていました。

そもそも廃止を反対する人の多くは、「就職一括採用があるから日本の若者の失業率が欧米に比べ低い」とおっしゃりますが、そういった「画一化されたレール」が若者の自律性を奪い、「これが正解!」という不自由な価値観を植えつけているのです。

大学はハローワーク化し、学生たちは「就活フラッグ」が振られた途端それまでの自由な服装から喪服のようなリクルートスーツに着替え、茶髪を黒髪にし、作り笑顔を練習し「内定を求めて奔走します。

「内定」=「人の価値」のごとく扱われ、「内定がもらえないから」と命を絶つ若者が後をたちません。

だいたい学生たちは「就職する」モチベーションは高いのですが、「働くモチベーションは低い

大人は「就職する」までは手とり足とりフォローしますが、「働く若者には冷たい

会社に入った途端、若者は「即戦力」扱いされ、長時間労働とプレッシャーでストレスの雨にびしょ濡れになり疲弊する。心を病む20代はこの10年で倍増しました。

本来なら入社後3年間は「役割の獲得」という、組織に適応する上で極めて重要な時間なのに、そのプロセスを省略し、単なる労働力としかみていないのです。

いったいこれのどこが「学生のため」なのか。

オトナたちはいいます。「学生が混乱する」と。でも、混乱するのは「就活という名の下学生を食い物にしているオトナではないのか。

そりゃあ誰だって、みんなと同じように就職できた方が安心するし、奨学金をもらっている学生も多いので「即社会人」になることが望ましいかもしれません。

しかしながら、「就活一括採用」とは、「オトナたちが求める人材と化すための装置」でしかなく、可能性が無限大にひろがっているはずの若い学生たちから「自律性を育む時間を奪う狂気でしかないと私は考えているのです。

日本以外の大学生は、学びの場である大学で感心するほど必死で勉強します。一方で、「働く」経験を積み、社会の厳しさとやさしさを体感し「生きる」ことの難しさを学んでいきます。

とてもとても、大変なことかもしれません。泣きたくなるほど、苦労するかもしれません。

でも、学生時代のチャレンジは、限られた資源の中でベストと思える答えを探り出す力、すなわち「自律性を育む最高の時間です。

困難にぶつかった時も、自分の頭で考え、自分の決断、感覚を信じて踏み出す力。不完全な状態にあるという自覚を持ちながらも、その時にベストと思える答えを探り、行動にうつす覚悟。

そんな「自分の行動を信じる力=自律性」をもった学生を育て、失敗を経験させ、彼らを寛容な気持ちで受け止めることこそがオトナの役目です。

オトナのやるべきことは「就活ルールをつくること」ではありません。

「いろいろな生き方があっていいよ。やりたいと思ったことをやってみなさい。
失敗していんだよ。自分を信じて!」と背中を押すことです。

所詮、学生の「隣に立つことくらいしか、オトナにできることはない。そのことをオトナが自覚しないかぎり、この不自由な就職制度は変わらないのではないでしょうか。

…自律性ほど、ひとりの社会人として長い人生を生き抜くうえで必要なものはないことをいちばん知っているのは、オトナたちのはずです。

image by: Shutterstock.com

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年10月10日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

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※『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2018年10月10日号)より一部抜粋

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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