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ZOZOタウンに学べ。衰退市場を救う「大量生産」とは真逆の手法

スポーツメーカーの中には、他業界への進出や国内市場に見切りをつけるなど、既存市場を離れる戦略を取る企業も増えてきています。しかし、「既存の市場でできることはまだまだたくさんある」とするのは、無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』の著者・梅本泰則さん。今回の記事では、その前提を踏まえた上で「メーカーの役割」について論じています。

スポーツ用品業界の新しい市場

ZOZOタウンは、ZOZOスーツを用いてオーダーメイドのスーツやシャツを作り始めました。また、アディダスも最先端工場で各個人に最適なシューズを作り始め、その日本モデル「AM4TKY」が話題です。まだ完璧というわけではないようですが、「カスタマイズ」という流れを示しています。1つの製品を大量生産して販売する方法とは対極です。

日本のスポーツ用品業界は、この流れをとらえているのでしょうか。本来ならば、すでにメーカーさんや小売店さんはこの流れに乗っていなければなりません。なぜなら、スポーツ選手はそれぞれの体格は違いますし、用具に対する要求内容も違うからです。そんな中で、相変わらずお店では、ウエアはS・M・Lといったサイズでしか売られていませんし、どのシューズも0.5cm刻みのサイズで売られています。

ところが、メーカーさんと契約をしている選手は別です。完全オーダーメイドの製品が提供されています。個々に合ったウエアや用具の方が選手の能力を発揮するには良いからです。そのため、メーカーさんは、どこも選手オーダーメイドの製品を作る部署を設けています。

つまり、スポーツ業界では以前からオーダーメイドの技術は発達していたのです。そのノウハウも蓄積されています。ただし、問題は「手作り」だということです。これを、ITを使ってシステム化することはありませんでした。その点で、ZOZOタウンやアディダス社に先を越されてしまいました。

とはいえ、長年のノウハウはあります。今からでも遅くはありません。システム化をして、契約選手だけでなく一般のスポーツマンにもオーダーメイドで提供することはできないものでしょうか。それを考えるのもメーカーさんの役割だと思いますがいかがでしょう。

そんなことを考えているとき、いくつかの大手メーカーさんの戦略が聞こえてきました。

メーカーさんの戦略

あるメーカーさんは、スポーツ用品市場に見切りをつけて、薬局業界や介護業界に進出するのが戦略だそうです。アスレジャー市場やカジュアルシューズ市場に切り込んでいるメーカーさんもあります。いわゆる、新市場開拓戦略です。また、あるメーカーさんは日本市場に見切りをつけて東南アジアの市場開拓をもくろんでいます。これも新市場開拓戦略ですね。

そして、あるメーカーさんは少子高齢化社会を見越して若いスポーツ選手ではなく、「アクティブシニアという客層をターゲットにすることを発表しています。当然、今までとは違った商品の開発が必要ですので新商品開発戦略ということになるでしょう。

これらのメーカーさんの戦略を聞くと、従来のスポーツショップの皆さんは、ちょっと背筋が寒くなりはしないでしょうか。メーカーさんの戦略からは、既存市場に対する戦略がよく見えません。しかも、最後にあげたメーカーさんに至ってはその新しいターゲットは「アクティブシニア」です。もちろん、今後日本の65歳以上の高齢者人口は増え続け、2018年の3,557万人から2030年には3,685万人となり、全人口の32%を占めるようになるという現実はあります。

しかし、健康寿命が延びているとはいえ、アクティブシニアが激しいスポーツができるとは思えません。せいぜい出来るのは、ジムでのトレーニング、軽い水泳、ジョギング、ウオーキング、健康体操といったところでしょう。マスターズ大会などに出場できるアクティブシニアは限られています。ゴルフをすることだって、きつくなってくる年齢です。これらの市場は、スポーツ用品業界がやっきになって開拓をする市場なのでしょうか。それが、スポーツ用品業界の目指す方向なのでしょうか。

メーカーさんの役目

そんなメーカーさんの情報を耳にすると、どうも業界は少し違った方向に進んでいるように感じます。ご存知のように、メーカーさんも問屋さんも小売店さんも、それほど業績は伸びていません。今までと違ったやり方をしようと思うのは当然です。だからといって、別の業界やあまり成果につながらない顧客に狙いをつけるのは正しいのでしょうか

少なくとも、スポーツショップにとっては好ましい戦略に思えません。これでは、スポーツショップがますます衰えていきます。本当にそれでいいのですか。スポーツショップが元気であってこその業界だと思うのですがいかがでしょう。

では、どうしたらいいでしょう。まず、メーカーさんが打ち出す戦略は、顧客ターゲットを変えることではありません。顧客ターゲットを拡大することです。

例えば、野球市場を見てみましょう。レジャー白書によれば、日本の野球人口は580万人とされていますが、2018年のプロ野球観客数は2,555万人です。またサッカー人口も480万人ほどですが、2017年のJリーグ観客数は970万人です。メーカーさんは、この人たちを顧客ターゲットに加えなければいけません。これらのスポーツを好きな人たちに対する商品やサービスを開発するのです。

また、今後は「eスポーツ」が盛んになっていきます。そこに参加する人たちもスポーツが好きなはずです。これも新しい顧客ターゲットとなります。さらにいえば、VRやARやスマホでスポーツを楽しむ人たちも新たな顧客ターゲットです。技術向上のためのデータ管理やコンデション管理をする人もターゲットとなります。当然、メーカーさんはそれらの人たちに必要な商品を開発することが出来るはずです。

このように、業界にはまだまだ新しい市場があります。メーカーさんは、真正面からその市場に向き合い、スポーツ選手の能力向上や観客が楽しむことのできる商品を開発することが大きな役割なのではないでしょうか。それらの商品を、スポーツショップを通じて販売し、市場規模を大きくすることが役目だと思うのです。決して、目先のことだけを考えてはいけません。ぜひスポーツ業界の発展につながる、新しい商品や顧客の開拓に力を尽くしていってください。

■今日のツボ■

image by: Shuterstock.com

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ワン・トゥー・ワンコンサルティング代表。スポーツ用品業界での経験と知識を生かし、業界に特化したコンサルティング活動を続ける。
スポーツ用品業界在籍33年の経営コンサルタントが、スポーツショップの業績向上法について熱く語ります。スポーツショップのために書かれた、日本初のメルマガです。ここには、あなたのお店がかかえている問題を解決するヒントがいっぱいです。

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【著者】 梅本泰則 【発行周期】 週刊

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