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欧米で懸念が囁かれる安倍外交。日中関係が好転したカラクリは?

長期間ゆえの奢りや緩みを指摘されやすい安倍政権ですが、外交面では長期ならではの存在感で「ポジティブな評価に接することが多い」と語るのは、メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者、島田久仁彦さん。それでも、水面下では欧米諸国から日本の外交に懸念の声が挙がる状況も起こっているようで、その背景にある日本と中国の関係の変化を解説しています。

評価される安倍外交。しかし懸念される問題が

安倍政権の下、アベノミクス関連のイシューとともに、評価されているのが安倍外交です。これまでコロコロ変わりすぎてG7/8/20といったグループ外交の場のみならず、2国間外交でも日本の首相の顔と名前が一致することが稀で、かつ外交方針の継続性への懸念から、国際情勢において日本の外交はさほどメジャーな位置を占めていたとは言えません。 ところが、国内では長期政権ゆえの奢りといった批判が出ることもありますが、外交面では確実に成果を出しています。その顕著な例がG7/8などでの立ち位置です。記念写真を撮影する際、通例、在任最長の首脳が真ん中で、そこから左右に古い順で並び、端に並ぶのは新参者です(注:アメリカのトランプ大統領は別ですが)。

長く首相の地位に留まっていますので、ここ数年、安倍総理の立ち位置は真ん中近くです。(安倍総理より長いのはドイツのメルケル首相くらいでしょう)。たかが写真ですが、この立ち位置が先進国における“力”のバロメーターといっても過言ではありません。それを示すのが、最近の国際会議(G20やASEM)などで議論のキックオフを行う役割を担ったり、米欧の微妙な溝を埋めるべく、調停役を買って出たりしています。これまでの首相には、なかなか望めなかったことです。私も紛争の調停に赴く際、よく相手から安倍外交へのポジティブな評価を聞きます。

その“認められている”日本外交ですが、G7の構成国(すべて先進国)から、批判とまでは言わなくても、「難解だ」と懸念されているのが、日本の一貫したミャンマーとカンボジア支援です。

皆さん、ご存じのとおり、ミャンマーはロヒンギャ問題を抱え、国際社会からの厳しい目が向けられています。開放路線を取るミャンマーに、当初欧米諸国は官民挙げて支持を表明し、資本投入をし、インフラ整備を進めてきました。「恐らく最後の投資家にとっての楽園」とまで呼ばれたのですが、それに水を浴びせかけたのは、ミャンマー国軍によるロヒンギャ族への“虐待”“虐殺”疑惑です。 国連事務総長特別代表をはじめとする働きかけもあり、ロヒンギャ族の帰還が試みられていますが、まだ事態は好転の兆しが見えません。ゆえに、G7各国がミャンマーへの投資を控える中、日本だけが支援を継続する事態になっています。

安倍総理も外交の司令塔である河野外務大臣も、アウンサンスーチー国家顧問に対して、 支援の継続を謳ったのは記憶に新しいかと思います。これに対し、特にドイツやフランス、イギリスが疑問を呈し、日本に対して対ミャンマーで足並みを揃えるように要請しています。 国連事務総長特別代表は元国連大使の大島賢三氏ですし、ミャンマーにおけるロヒンギャ問題は外務省もよく承知のはずですがどうしてでしょうか?

同じように足並みがそろっていないのが、対カンボジア支援です。こちらは、あまり日本のメディアが伝えないのですが、先の“総選挙”でさらに与党の独裁色が高まりました。そして、“国内での出来事”が今まで以上にベールに包まれ、野党支持者への迫害や人権侵害、誘拐事件が多発している状況などが覆い隠されてしまっているとの疑念が高まっています。

ミャンマーのケースと同じく欧米諸国が対カンボジア投資を停止する今、日本は支援を継続する方針を発表しました。「日本はどうしてこう公然と人権侵害が明らかな国を支援するのか」と欧米の政府関係者や企業からは尋ねられますし、先日、BBCの番組でお話した際にもアンカーの方から何度も考えを尋ねられました。どうしてでしょうか?

日本の謎の動きの背景に中国の一帯一路構想

私の考えでは、この一連の“謎の”動きは、一帯一路に代表される中国の迅速な動きとアジア諸国の囲い込みへの対抗策です。もちろん日本政府としてもロヒンギャ問題には懸念を示し、カンボジアの独裁強化には神経をとがらせているわけですが、それ以上に、想像以上のスピードで広がる「紅い経済圏」(および安全保障・防衛ラインの引き直し)を懸念している表れと見ています。

それは、一帯一路およびAIIBがオペレーションを開始してからというもの、日本が東南アジア諸国と“契約”を進めていたインフラ案件を悉く中国にさらわれているからです。ミャンマーの国際空港の案件も、当初、日本のゼネコンのJoint Venture/コンソーシアムが受注する手はずになっていたのですが、中国がそれを上回る条件を提示し、一気に受注に漕ぎつけました。

記憶に新しいのは、ジャカルタの高速鉄道案件ですが、同様のケースはシンガポールからマレーシアをつなぐ予定の高速鉄道や、フィリピンでの数々のインフラ案件などにも及んでいます。カンボジアも例外ではなく、欧米諸国がソッポを向く中、「誰を戦略的なパートナーとして国土開発を行うか」決めかねているところのようです。

これまで“日本の高い技術力”や資金力に胡坐をかいていたのか、あまり日本政府が積極的に日本の売り込みをする機会を見ませんでしたが、最近は、官民挙げての“攻め”でインフラ案件を取りに行っています。今回のミャンマー支援・カンボジア支援の継続・拡大は、そのような外交戦略的な動きです。

中国については、一帯一路も当初はうまく進んでおり、習近平国家主席の支持基盤を構成するほどの成功と見られていましたが、一帯一路を通じての中国からの支援と投資は「借金で縛ってインフラなどの権益を握る」“経済戦争”“侵略”とのイメージが広まったことで、親中国だった各国が、ドミノの駒の様に、次々と反中政権に入れ替わってきています。

国を乗っ取られるのではないか?との懸念を抱いたモルディブ、元クリケット選手が大統領に就任したバングラデシュ、マハティール氏が返り咲いたマレーシアなどは、すべて一帯一路の方針を見直すと決定しました。中でもバングラデシュの方針転換は中国にとっては痛手となりそうです。 それは、一帯一路のライン上にある国であり、一路を構成するには不可欠な拠点であることに加え、隣国インドとのし烈な競争において、バングラデシュを中国側に入れておくことは、アジア戦略上有利だとされてきたからです。そのような波を受けてか、インドネシアも中国との関係の再考に入っているようです。

変わる日中の協力関係。アジア共同経済圏実現も

そのような国々が“助け”や協力を求めてきたのが日本です。一度は一帯一路の波にのまれた日本も、警戒はしつつも、支援の継続や拡大を打ち出すことで再度、東南アジア諸国でのインフラ事業に乗り出すことにしたようです。

しかし、これまでと違うのは、真っ向から中国と対峙するのではなく、様々な場面で協力をしつつ、アジアはもとより、アフリカにおいてもAsian Powerで開発を進めようとしているようです。

中国も一帯一路の“つまずき”を取り戻すために(失敗ではないことを国内に示すために)、このところ、日本との経済協力強化が進められています。例えば、知財保護での協力(知財が米中防衛戦争のメインテーマゆえに、日本の対米外交的には綱渡りかもしれません)、一帯一路プロジェクトへの日本企業の参加推進といった協力が進んでいます。

まだ試行段階ですので、今後の外交ゲームの行方次第では、結果は分かりませんが、アメリカが世界に対して貿易戦争を仕掛ける中、アジア諸国にとっては、日中の“協力”は大きな力になるでしょう。

実際に、欧米のコンソーシアムに与えられそうだったプロジェクトが、「同じならアジアで」と日中協力でのプラットフォームに乗り換えを検討する国が増えてきています。それが実現すると、これまでマレーシアのマハティール首相が唱えていながら実現できなかった「アジア共同経済圏」的な枠組みが実現するかもしれません。そして、アジア地域をめぐる勢力地図が塗り替わる可能性が出てきました。

もちろん、アメリカや欧州各国が指をくわえて黙っていることはないと思いますが、新しく広がりつつある日中の経済面での協力姿勢が軌道に乗れば、アジアの発展は、明らかに新しい段階に進むことになるでしょう。 まだまだどうなるかは分かりませんが、私個人としては、いろいろと東南アジア諸国のパートナーたちや、日中の外交当局から聞く話を総合すると、とても期待を持っていたいと思っています。

image by: 首相官邸

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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